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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第三章 薔薇は気高く

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第18話 鋼鉄の牙と、あの女




「ブラッディ・ローズ!」



 セシルが一足飛びで跳び、敵との間合いを詰める。

 細い突剣が鞭のようにしなり、前方に無数の斬撃の軌跡を残す。



「コボボッ!?」



 コボルトは無数の傷から血を散らし、その場に倒れ伏した。

 俺たちの完全勝利だ。



「よーし! これで片付いたな!」



 俺の名前は、ライオット・デ・バカルディ・グンダー


 セシル、ノエル、そして俺。

 パーティ『鋼鉄の牙』のリーダーを務めている。



「わわっ! 腕を切ってるよ!」

「ノエル、これくらい平気さ」

「駄目だよ! 今、回復魔術を使うから、じっとしてて!」



 俺たちのパーティには、少し変わった特徴がある。

 男装する女と、女装する男がいる。


 意味が分からないだろう。

 安心しろ。俺もだ。



「ああ……。温かい。

 芯の奥まで、癒されていくみたいだ」

「ふふっ」

「ありがとう。もう十分だよ」

「そう?」



 セシルはまだ分からないでもない。

 学園の王子様だからな。


 だけど、ノエルはなぜ修道女の服なんだ。

 ベールまで付けている。



「残念だ。フィオナを知らなかったら、僕はきっと君を好きになっていた」

「も、もーーっ! ま、また、そんなことを言って!」

「嘘じゃないさ。君ほど可愛い子を放っておくなんて、世間は分かっていないよ」

「も、もーーっ! お、男に可愛いは、褒め言葉じゃないってば!」



 しかし、重要なのはそこじゃない。

 俺たちは、ただの変人集団ではない。


 一学年のダンジョンアタックランキング三位。

 それが、俺たち『鋼鉄の牙』だ。


 俺は、大剣使い。

 セシルは、突剣を操る魔法剣士。

 ノエルは、支援魔法を得意とする神官見習い。


 役割のバランスは良い。

 正直、あの聖女様が現れなければ、アルベルトとヴァレンタインで組むはずだったパーティよりも、相性は良い。



「あーー……。この宝箱もゴミか。

 次、行くぞ! 次!」



 だから、俺たちは間違っていないはずだ。




 ******




「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……。」



 ダンジョンウルフの群れを相手にした戦いを終え、セシルが荒い息をつく。



「大丈夫? 今日はもう、ここまでにしようよ?」

「平気さ。ライオット、まだ行くだろ?」



 ノエルが気遣うが、セシルは顎を伝う汗を拭い、荒い息を押し殺した。


 疲労の色は見える。

 それでも、俺を見る目には闘志がまだ宿っていた。



「ああ、当然だ」



 俺は口元を緩めて頷く。


 以前のセシルは、汗を嫌うやつだった。

 戦いの最中ですら、王子様を気取り、見栄えを気にしていた。



「だが、少し休むぞ。

 無茶はいいが、無理は駄目だ」

「無理しているように見えるかな?」

「ふっ……。少しな」



 しかし、アルベルトとの決闘に負けて変わった。


 善戦はした。

 だが、勝負になるほどではなかった。


 その事実が、セシルには悔しかったらしい。



「でも、僕は強くならないといけないんだ。

 フィオナを救い出すためにも……。」



 一歩前に出るようになった。

 傷を負うことをためらわなくなった。


 そして、何よりも強くなることに貪欲になった。



「そこは理解できねえけど……。

 もう少し、俺たちを頼れ」


「それを覚えれば、お前はもう一段強くなれる」


「まだ戦い方に、独りよがりなところがある」



 間違いなく、俺たちは強くなる。


 ただ、そのきっかけが、あの聖女様だという事実だけは、素直に喜べない。

 あの女だけは、どうにも理解できない。



「そうだよ! もっと頼ってよ!

 僕たちは仲間じゃないか!」

「仲間……。ああ、そうだね。僕たちは仲間だ」

「うん!」



 セシルは、あの女が好きだと公言している。


 たぶん、ノエルもそうだ。

 そうでなかったら、あの女のわがままに、素直に従うはずがない。


 たとえば、修道女の服を着ているのも、『フィオナがそうしろって言うんだもん』だ。


 頭が痛くなる。

 俺は、自分の心を守るため、それ以上の追求を止めた。



「あーーー……。なんか柄にもないこと言っちまったな」

「そんなことないよ! ライオットは僕たちのリーダーだもん」

「ああ、頼りにしてるよ。リーダー」



 だが、あの女の目は確かだ。


 ダンジョンアタックが始まる前、ヴァレンタインは戦いの得手を持っていなかった。

 それでも、当初はパーティを組む予定だった。


 子どもの頃からの付き合いだ。

 実は人付き合いがあまり得意ではないヴァレンタインを、見捨てられなかった。


 俺とアルベルトがいれば十分だと、そう考えていた。


 しかし、ヴァレンタインはあの女に才能を見出され、開花した。

 今では、アルベルトたちのパーティで、欠かせない立派な戦力になっているという。


 やはり、あの女は分からない。

 本物の聖女なのか。



「なら、もう一踏ん張りといくか!」

「任せたまえ!」

「おー! がんばろー!」



 確かなことは一つ。


 あの女のせいで、今もヴァレンタインは困り、アルベルトはため息をついている。

 俺たちより先を進んだ、このダンジョンのどこかで。


 一位のあいつらに追いつき、追い抜くためにも、俺たちはもっと強くならなければならない。




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