第17話 私って、罪な女
「あーーっはっはっはっはっはっ!
フィオナ、酷いじゃないか! 僕は待っていたのに!」
静まり返った生徒会室。
セシルは、華麗にステップを踏みながら、その空間を横切る。
そして、当然のように私の隣へ立った。
私の肩を抱きながら、爽やかに笑う。
白い歯がキラリーンと輝く。
「でも、焦らす君が憎らしくも愛らしい!
ああっ……。これほど僕を惑わせるなんて、君は罪な聖女だ!」
私は動けない。
レティもアルベルトも反応は一言で言うなら、ポカーン、だった。
「ワッフルの美味しい店を見つけたんだ!
さあ、行こう! 僕たちの物語の始まりだよ!」
セシルは、私の髪を一房手に取り、口づけした。
私は慌てて意識を取り戻す。
「ち、違うの! れ、レティ!
う、浮気じゃないから! わ、私はレティが好き!」
セシルの手を振りほどく。
必死にレティへ無実を訴えた。
「い、いえ、私は別に……。」
レティは困惑を隠せない表情を浮かべた。
当然だ。
セシルは、ぐいぐい来すぎる。
これでは、私の日々のレティに対する愛の言葉など、軽く感じてしまうのも無理はない。
「うん、分かっているよ」
セシルが優しく微笑む。
「君は……。マインドコントロールされているんだよ」
「……えっ」
今度は、私が困惑する番だった。
何を言っているのか、さっぱり分からない。
セシルは、ズボンのポケットから白手袋を取り出した。
ゆっくりと両手にはめる。
「レティシア・デ・シールド・ヴァレンタイン!」
その人差し指を、レティにビシッと突きつけた。
「は、はいっ!?」
「公爵家の権力を傘に、聖女を操るなんて許しておけないな!」
「あ、あの……。な、何か大きな誤解をなさっているのでは?」
レティは顔を引きつらせる。
しかし、セシルは止まらない。
わざわざはめた右手の白手袋を外し、レティへ放り投げた。
「決闘だ! 君に決闘を申し込む!」
「ええっ……。」
レティが固まり、白手袋をそのまま顔に受ける。
私はその光景を眺めながら、ふと思った。
(これ……。もしかしなくても、私を巡る恋の争いなんじゃ?)
だったら、私のムーブは決まっている。
私はレティとセシルの間に立ち、両手を広げた。
「止めて! 二人が私を愛してるのは分かったわ!
でも、お願い! 私のために争わないで!
……ちらっ、ちらっ」
きっとレティは私への愛に燃え上がっているに違いない。
そう思って、様子を窺うと、レティの隣でアルベルトが白けた顔をしていた。
「ずいぶん余裕があるね。フィオナ」
お前、まだいたのか。
もう帰っていいよ。
******
「あーーっはっはっはっはっはっ!
僕は負けないよ! 真実の愛のためにね!」
学園にある鍛錬場の一つ。
出入口を閉ざし、今、私を巡るレティとセシルの決闘が始まろうとしていた。
「なぜ、僕が……。」
アルベルトは深いため息をついた。
なお、レティは剣を扱えないため、アルベルトが代役を務める。
「……申し訳ありません。アルベルト様」
「いや、僕は君の婚約者だ。
君のために戦うことに不満なんてない」
代役ごときが、レティと少し良い雰囲気になっている。
超むかついた。
「セシル、腕の一本くらい折っても構わないから!」
「ありがとう! 君の愛が僕を強くする!」
だから、セシルを応援しちゃう。
アルベルトには勝ってもらわないと困る。
でも、その前に少しくらい痛い目を見てもらおう。
「僕が不満なのは、フィオナが原因ってことだよ」
実を言うと、公表はしていないが、私は死者蘇生の秘術が使える。
つまり、アルベルトが少しくらい派手に負けても問題ない。
そうなったら、レティは悲しむだろう。
その悲しみを、私が癒やす。
そして今宵、私たちは恋人同士になる。
「えへへっ……。」
私の聖女な部分が、また勝手に漏れてきちゃった。
もう頭の中は、新婚旅行の旅立ちの日を迎えていた。
「どうして、こうなったかはよく分からねえが……。
これより、決闘を執り行う!」
しかし、ライオットの声で現実に戻された。
ついでに、こいつも少しくらい痛い目に遭えばいいのに。
どうも、日頃から聖女である私への敬意が足りない。
「立会人は、ライオット・デ・バカルディ・グンダー!」
それでも、今だけは役に立ってもらうしかない。
決闘に関わっていない第三者が必要なのだから。
「両者、宣誓!」
「剣を交え、魔力を競い、己が覚悟を示せ!」
「最後まで立ち続けた者を、勝者とする!」
ライオットが手を上げる。
その合図と同時に、アルベルトとセシルが抜剣した。
一呼吸の間。
ライオットの手が勢いよく振り下ろされる。
「始め!」
レティが不安そうに傍へ寄り、無言で私の腕を抱く。
その瞬間、二の腕に伝わる柔らかな感触。
決闘など、もうどうでもよくなった。
「えへへっ……。」
私は、今、この瞬間に生きている。




