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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第三章 薔薇は気高く

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第16話 まだ誘われていない夏休み




「ねえ、レティ」

「なにかしら?」



 最近、生徒会室の立ち入りが自由になった。


 私の机も仕事もない。

 応接セットのソファーから、書類と格闘中のレティをただ眺めるだけだ。


 傍から見たら小さな一歩でも、私にとっては大きな一歩である。

 きっと、キスする日は近い。


 なぜなら、もうすぐ夏休み。

 満天の星空の下、寄せては返す静かな波音を耳に、私とレティはちゅーしちゃうのだ。



「今度の週末、水着を買いに行かない?」

「水着? ……なぜ?」

「えっ!? だって、公爵家の領地に有名なビーチがあるよね?」

「ああ、ワイハのことですね。それがどうかしましたか?」



 だが、おかしい。

 夏休みまであと二週間と迫っているのに、レティは帰省を誘ってこない。


 照れくさいのは分かっている。


 しかし、そろそろ誘ってくれないと困る。

 教皇様からは、バカンスを兼ねた巡礼へ一緒に行かないかと誘われている。

 早く結論を出さないと、教皇様も困ってしまう。



「あれ?」

「はい?」



 私が首を傾げると、レティも首を傾げた。

 目をぱちぱちと瞬きさせて、可愛い。


 でも、今は夏休みの予定のほうが最優先だ。



「ええっと……。レティは泳げるよね?」

「ええ、泳げます」

「じゃあ、どうして?」

「何がです?」

「うーーーん……。」



 直接、『帰省に誘って』と言えば簡単なのは分かっている。


 だけど、それでは意味がない。

 私は、レティの方から誘ってほしいのだ。



「くっくっくっ……。」



 笑い声が、私とレティの世界を邪魔してくる。

 レティの隣で、アルベルトが顔を背け、肩を震わせていた。


 最近、よく見る嫌な笑いだ。


 間違いなく、アルベルトは気づいている。

 私がレティに帰省を誘われたいと願っていることに。


 それでいて、何のフォローもない。

 本当に使えない男だ。



「あっ、アルベルト。あなた、いたんだ?」

「ここは生徒会室だよ。君がいるほうがおかしいと思わないか?」



 私が鼻を鳴らすと、アルベルトは白い目でこちらを見た。



「ダンジョンアタックを一緒にしてる仲でしょ?

 固いことはいいっこなしなし」



 私はソファーの上であぐらをかく。

 膝に頬杖をつきながら、気のない相槌を打った。



「フィオナ、はしたないですよ」

「あっ、うん」



 レティに、ぎろりと睨まれた。

 私はソファーに座り直し、膝を閉じる。


 アルベルトなんて、どうでもいいから隙を出してしまった。

 今の私はスカートだった。


 正面にはレティもいるが、アルベルトもいる。

 私のパンツを見ていいのは、レティだけ。


 いや、それはそれで困る。

 今着用しているのが、レティのものだとバレてしまう。



「都合のいいときばかり……。

 普段は、おまけ扱いしている癖に」



 アルベルトは書類に視線を落としていた。

 一応、私から目を逸らす程度の紳士らしさはあるらしい。



「でも、会長さんは、いいって言ってくれたよ。

 来学期から、庶務にしてくれるんだって」



 だが、私がにやりと笑って告げると、アルベルトは顔を上げて固まった。


 そう、私はこの生徒会室の主である生徒会長から大義名分を貰っていた。

 副会長のアルベルトの反対など、戯言に過ぎない。



「はぁ……。あの人は、また勝手なことを……。」



 アルベルトは天井を仰いだ。


 私の勝ちだ。

 敗者は素直に立ち去れ。


 乱暴なライオットがいない今が大チャンス。

 ここはもう、私とレティの聖域にするしかない。


 私の聖女な部分がキュンとする。


 しかし、ノックの音が鳴った。


 どこの馬鹿だ。

 我が聖域を荒らさんとする異端者め。



「どうぞ」



 アルベルトが勝手に許可を出した。

 むしろ、お前が出ていけ。



「あーーっはっはっはっはっはっ!」



 ドアが勢いよく開き、高笑いが飛び込んできた。

 セシルだった。



「ここにいたんだね! 僕の聖女様!」



 私の聖女センサーが、全力で逃げろと叫んでいた。

 思わず立ち上がった。



「ひっ……。」



 だが、出入口にはセシルがいる。

 逃げ道はなかった。




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