第15話 懺悔する王子様
生徒会室がある廊下。
私はレティの姿を探してさまよっていた。
「あーーっはっはっはっはっはっ!
フィオナくん、今日はいい天気だね!」
生徒会室隣の用具室のドアが開く。
セシルが満面の笑顔で、高笑いを響かす。
「いえ、今日は曇ってますよ?」
次の瞬間、私はセシルを見る前に、視線を逸らし、扉を閉めた。
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中庭の渡り廊下。
私は柱の陰に隠れ、レティを待ち伏せることにした。
「あーーっはっはっはっはっはっ!
フィオナくん、一緒に午後のティータイムはいかがかな?」
背後の藪で、気配があった。
セシルが満面の笑顔で、高笑いを響かす。
「あっ!? 教皇様に頼まれていたスクロールを作らないと」
次の瞬間、私は隠れるのを止め、そのまま足早に去った。
******
お昼休みの学校の中庭。
私は藪に潜み、レティがお気に入りにしている目の前のベンチに座るのを待っていた。
「レティ!」
座る気配があった。
私は満面の笑顔で、両手を大きく広げた。
「あーーっはっはっはっはっはっ!
フィオナくん、奇遇だね!」
セシルだった。
私は苛立ちを隠せず、舌打ちをした。
「……もしかして、ストーカー?」
「いやいや、フィオナ。君がそれを言うの?」
隣で、ノエルが顔を引きつらせた。
意味が分からない。
とりあえず、私は勢いよく両手を突き出し、セシルを押した。
ベンチから立ち上がったセシルが、非難の声をあげる。
「ななっ!? 何をするのさ!」
「ここは、レティ専用のベンチなの!」
私は聞く耳を持たず、人差し指をビシッと突きつけた。
ここは、聖域だ。
聖女として、私には守る義務がある。
「ふふっ……。そんなつれないことを言わないでおくれ。
さあ、座って。僕は君と話がしたいな」
だが、セシルは動じない。
私の人差し指を優しく包んで口づけすると、爽やかに笑った。
白い歯がキラリーンと輝く。
「うっ!?」
不覚にも胸がドッキーンと跳ねた。
さすが、私の元王子様だ。
「……フィ、フィオナ?」
ノエルの戸惑った声に、我を取り戻す。
顔を左右に勢いよく振り、掴まれていた人差し指を振りほどく。
「ち、違う! ち、違うの!
う、浮気じゃないから! れ、レティいいいいいっ!」
私は、即座に逃げ出した。
レティ成分が圧倒的に足りない。
今すぐ、レティをくんくんしたかった。
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「そろそろ夏休みなのに……。
レティが帰省に誘ってこない。どうして?」
私は首を傾げる。
ここは、学園内にある教会の懺悔室。
今日の放課後は、私の当番だった。
ノエルに比べると、私は人気がない。
聖女としての格が高いせいだろうか。
それでも、数少ない常連さんはいる。
「失礼します」
「どうぞ」
その迷える信徒がきた。
私は組んでいた腕と足を解き、姿勢を正した。
仕切りの向こうに、誰かが腰を下ろす。
「さあ、神の子よ。
神は、全てを許します。あなたの罪を告白しなさい」
上半身の位置に格子はあるが、とても細かい。
相手の顔は見えない。
分かるのは、女性らしい声と雰囲気だけ。
「……父の期待が重いのです。
跡継ぎに恵まれず、私は男として振る舞っています。
ですが、本当は……。辛いんです」
端的に言うと、セシルだった。
普段より声は高い。
格子のシルエットにも、日頃は男装で締め付けている胸がある。
それに、私は知っていた。
乙女ゲームのセシルルート中盤で判明する、その苦悩を。
「親とは、子に期待するもの……。」
「ですが、いつか気づきます。
親と子は、別の人間であり、それぞれ別の道を歩んでいくものだと」
「子が成長するように、親もまた成長するのです」
しかし、懺悔を聞く者として、相手の正体を暴く真似はできない。
その前提があるからこそ、迷える者は懺悔ができるのだ。
私の当番の日になると、必ずセシルは懺悔に訪れる。
私は、何も知らないふりをしていた。
「しかし、聖女様……。
僕は……。いえ、私は……。
男性として振る舞う内に、女性を愛するようになってしまったのです!」
ただ、今日の悩みは新しいパターンだった。
乙女ゲームでは、セシルルート終盤で明かされる悩み。
本来なら、早くても三学年の春頃の出来事だ。
早すぎる、と戸惑う。
「教会は、同性愛を認めていません」
「そう……。ですよね」
「でも、愛は止められません。突き進みなさい」
「……えっ!?」
だが、百合道の先輩として黙っていられなかった。
たぶん、セシルが想っているのは、ノエルだ。
ノエルは可愛いから、仕方ないよね。
ダンジョンアタックで生死を分かち合っているうちに、愛が芽生えたのだろう。
ノエルも幸せになって貰いたいから、応援しちゃう。
「い、いいんですか?」
「異端であろうと、それがあなたの道なら、神は許します」
「じゃ、じゃあ!」
仕切りの向こうで、ドアが開く音が響いた。
その直後、目の前のドアが勢いよく開く。
「フィオナ! 私はあなたが好き!」
薄暗い懺悔室に、光が差し込んだ。
眩しさに目を細めるより早く、女子制服姿のセシルが抱きついてきた。
「……えっ!?」
何を言っているのか、さっぱり分からなかった。




