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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第二章 私の勇者様

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第13話 やっぱりフィオナはフィオナだった




「スパスパーッ!」

「くぅっ!?」



 巨大な蜘蛛が放った鋭い糸が、僕の左腕を切り裂いた。

 雑魚ばかりのモンスターが続いていたせいで、油断した。


 鮮血が飛び散るのが見えた。



「アルベルト様!」

「もうっ、バカ、ドジ!」



 レティシアが悲鳴を上げ、フィオナが悪態をつく。


 僕の名前は、アルベルト・デ・サーマル・レーベルマ・アルビオン。


 始める前は、不安の多かったダンジョンアタック。

 だが、フィオナは良い意味で期待を裏切ってくれた。



「面倒だから、まず倒す! 全体バフ、いくよ!」

「わ、分かりました!」

「やってくれ!」



 フィオナの鉄靴が石畳を叩き、リズムを刻む。



「天にいます主よ、我らを見守り給え」



 朗々たる聖歌が響き渡る。

 その声は祈りでありながら、確かな『力』として場を満たしていく。


 それを、今日まで何度か目にしてきた。

 フィオナの切り札、決戦魔術だ。



「汝の勇者はここに在り。

 その勇姿、いま御前に捧げ奉る」



 ただし、この魔術の最中、フィオナはリズムを刻み続けなければならない。

 その場から一歩たりとも動くことはできない。


 僕とレティシアは頷き合う。


 僕はフィオナの前へ。

 レティシアはその背後へと回り込む。



「さあ、勇者よ、恐れを置き去りにせよ。

 汝の歩む道は、すでに光に祝福されている」



 巨大な蜘蛛が糸を連発する。


 左腕にはまだ力が入らない。

 それでも、弾いて逸らすことくらいはできる。



「迷える刃に、正しき行き先を。

 その一振りは、裁きではなく救いとなれ」



 レティシアの魔術が発動した。


 石畳の隙間から這い出た茨が、巨大な蜘蛛の脚たちを絡め取った。

 その動きが、わずかに鈍る。



「これは、天に捧ぐ勇者の物語……。

 ディバイン・クロニクル!」



 そして、その時が来た。


 左腕の痛みが、すっと引いていく。

 ここまでの疲労が、嘘のように遠のいていく。

 時の輪郭すら鮮明になり、恐れという感情そのものが、静かにほどけていく。



「さっさとやれ! アルベルト!」

「……僕は皇太子なんだけどね」



 フィオナが、巨大な蜘蛛をビシッと指さす。


 やっぱりフィオナはフィオナだった。

 歌っているときは、間違いなく聖女だったのに。




 ******




「何よ、この蜘蛛。いいモノ、持ってないじゃん」



 巨大な蜘蛛を倒したのち、出現した宝箱。

 フィオナが、我先にとそれを漁る。


 なぜモンスターを倒すと宝箱が現れるのかは、分からない。

 その疑問をぶつけたとき、教師はただ、遠い目をして空を見上げた。



「この蜘蛛、シルクレギオン・スパイダーですよね?」

「うん、確かそう。授業で聞いた記憶がある」

「おかしいですわ。ここは三階なのに、五階以降のモンスターが出るなんて」

「……迷子とか?」



 僕たちは、何だかんだでバランスのいいパーティだった。


 両手剣を振るう、僕。

 メイスとラウンドシールドを構える、フィオナ。

 扇から魔術を放つ、レティシア。


 前衛、中衛、後衛と揃っている。

 それに加えて、フィオナが神聖魔術を扱えるのは大きい。



「迷子って……。レギオンですよ?

 その名の通り、群れでいるはずです」

「子分を置いてきたとか?」

「そんな馬鹿な……。」



 実を言うと、一学年で神聖魔法の使い手は少ない。


 当初に予定していたパーティ。

 僕とレティシア、ライオットなら、傷や疲労の回復は、どうしてもポーション頼りになる。


 ダンジョンアタックが始まって、二週間。

 僕らは一学年の中で、最も深く探索しているパーティだと、教師は言っていた。



「ところで、傷を癒してくれないか? 

 また血が流れてきたのだけど?」



 ただ、傷や疲労の回復には苦労が伴う。



「はあ? ツバでも付けとけば?」



 僕限定で。

 ため息をつき、レティシアに視線を向ける。


 そう、フィオナは必ずレティシアを挟まないとやってくれない。



「フィオナさん、お願いできます?」

「えーー……。放っておこうよ。

 というか、アルベルトなんて、ここに置いてかない?」



 なぜ、フィオナの僕への扱いは、こうも雑なのか。


 名前呼びも、いつの間にか呼び捨てになっていた。

 もう慣れたけど。


 ライオットにも、諦めろと言われた。



「お願いします。あなただけが頼りなの」

「うっ……。」



 レティシアは扇で口元を隠しながら、眉を悲しそうに寄せた。


 僕とは違う意味で、レティシアも少し諦めている。

 フィオナの親友であるノエルに学んだ、フィオナ操縦術だ。



「あー、あー、さっきの魔術を使ったせいかな?

 ちょっと、くらくらする。

 レティ成分が足りないかもー……。ちらっ、ちらっ」



 フィオナが膝をつく。

 わざとらしく頭を振り、手で顔を覆いながら、その隙間からレティシアへと熱い視線を送った。



「分かりました。さあ、どうぞ」



 レティシアは僕をちらりと見たのち、深くため息を漏らす。

 そして、両手を大きく開いた。



「レティ、大好き!」

「ちょっ!? お、お尻を揉まないで!」



 フィオナがレティシアに抱きつく。

 とても熱烈に。


 レティシアは、親同士が決めた、生まれる前からの婚約者だ。


 けれど、彼女の気持ちを縛るつもりはなかった。

 本当に愛する人が出来たのなら、僕はそれを祝福するつもりだった。



「……頼むから、早くしてくれないか。

 目まいがするのは、僕のほうだよ」



 でも、二人を見ていると、最近はもやもやする。


 いや、僕は間違っていない。

 絶対、女同士が間違っているんだ。




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