第12話 勇者になってしまった
「どうやら、ゴブリンのようだね」
「なんか、ゴブリンばっかで飽きちゃった」
「はっはっ、頼もしいね」
誰が何の目的で作ったかは定かでない、学園裏山のダンジョン。
ランプの光も届かない闇の向こうで、何かが蠢いていた。
私の名は、レティシア・デ・シールド・ヴァレンタイン。
公爵家の一人娘にして、アルベルト様の婚約者。
最近、そこに新たな肩書きが加わった。
おとぎ話で語られる『勇者』である。
「レティは待機! 一応、いつでも打てるように!」
「はい!」
「アルベルトは右ね!」
「任された!」
「んじゃ、行くよー!」
勇者の物語は、私も子どもの頃に何度も読み、何度も聞かされてきた。
その輝きに憧れ、剣を少しだけ学んだこともある。
だが、私に剣の才能は無かった。
ライオットという稀有な才能の持ち主が近くにいたこともあり、すぐに諦めた。
だからこそ、ダンジョンアタックのカリキュラムへの不安は大きかった。
「クソが! ボケが! 死ね!」
「いつも思うけど、その掛け声は聖女としていかがと思うな」
「あーー……。手が滑っちゃったー」
「嘘だ! わざとだ!」
戦時は、貴族は市民を守るため、先頭に立たなければならない。
平時があるのは、冒険者たちがモンスターを間引いているからだ。
その苦労を、貴族は知らなければならない。
これが、ダンジョンアタックに込められた意義である。
だからこそ、私も向き合わなければならない。
幸い、アルベルト様とライオットがパーティを組もうと言ってくれた。
嬉しかった。
二人となら、私も付いていけると思った。
「あっ、一匹逃げた!」
「お任せを! ダークロア!」
「ゴブブッ!」
しかし、その前提をフィオナが崩した。
なんと私は、『勇者』になってしまったのだ。
ありえないと思った。
不安で仕方なかった。
そんな私に、フィオナは笑顔で言った。
『大丈夫! 勇者っていうのは、剣を振るう者のことじゃないよ!
勇者とは、勇気を奮う者!
そして、レティはいつも私に勇気をくれている! だから、レティは勇者なんだよ!』
正直、胸に響いた。
今まで変人とばかり思っていたフィオナが、本当の聖女に見えた。
たぶん、アルベルト様とライオットも同じ気持ちだったはずだ。
二人は、ぽかんと口を半開きにし、呆然としていた。
「ヒュー! さすが、レティ! 格好いい!」
「そ、そうかしら?」
「僕も頑張ったんだけど?」
「はぁ? あなたは、大人しく百合の間に挟まってなさいよ」
「……意味が分からないよ」
それでも、不安はまだあった。
私は、戦闘向きの得手を持たない。
十三歳の頃から色々と手を出してみたが、どれも平凡以下だった。
魔術の才能はあったが、剣才も併せ持つアルベルト様には及ばなかった。
違う。本当は怖かったのだ。
才能がないという事実よりも、アルベルト様に相応しくないと皆から思われることが。
そして、その評価を自分自身が一番納得してしまうことが。
だが、フィオナは笑顔で言ってくれた。
『大丈夫! レティにはすごい魔法の才能があるよ!
私は聖女だから教えられないけど、闇属性をやってごらん!』
本当だった。
わらにもすがる思いで、闇属性の使い手を探して招いたところ、師は驚いていた。
今まで教えてきた弟子の中でも、一番の才能らしい。
自分を超えるとも。
学園を辞め、自分と一緒に研究に打ち込まないかと誘われもした。
もちろん、断った。
すると翌日には、その師の方が学園の特別講師になった。
「あれあれー? 我が国の皇太子様は無知なんですねー」
「やはり、ライオットと代わろうかな……。」
「止めて! それは私に効く!」
正直に胸の内を明かそう。
闇属性は、世間的な印象が悪い。
どうせなら、水属性か風属性が良かった。
というより、ずっとそればかり学んできた。
師は言っていた。
どうあがいても、水属性も風属性も三流だ。学ぶだけ無駄だ、と。
切ない。
私の今までの苦労は何だったのだろう。
「ふふっ……。いつも思うのですけど、二人とも仲がいいですよね?」
「えっ!? ヤダ、こんなやつ」
「そうだよ。君の勘違いだよ」
いや、それ以前に、フィオナはなぜ私に闇属性の才能があると分かったのだろうか。
世間的な印象の悪さから、闇属性の使い手は極めて少ない。
その『見る目』も、聖女としての資質なのだろうか。




