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265  作者: Nora_
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05

「なに連れ込んでんだよー」

「一応言っておくと妹さんが急に来ただけなんだ」

「まあ、大原先輩はちゃんと反応してくれていたから信じるけどさ」


 決してそのためにしていたわけではなかったけどやり取りを続けていたことが役に立ったみたいだ。

 ただ、それがなかったとしてもここは問題なく乗り越えられていたと思う。

 寧ろ彼女なら「よくやった」と褒めてくれそうだった。


「はは、だったら最初からそれでよくない? もしかして梅さんも緊張しているの?」


 なんかこれだとただ存在しているだけで空気が読めていない存在みたいになってしまっている気が……。

 女の子だけならもっと気楽に泊まったり、泊めてもらったりできるのに野郎ぼくがいるせいでこんなことになっている。

 佑未には彼女達と仲良くしてほしいと考えているのに自分が一番邪魔な存在になっていたなんて悪いことだ。


「だってここには同級生の佑未さん以外に大原先輩もいるんだからさ」

「本当に妹と似ているね」


 参加したがりの自分としてはここで距離を作るとか馬鹿らしいけどいつでも自分の欲求に正直になればいいわけではない。

 仕方がない、部屋に戻ろうか。


「あ、私のことも梅って呼び捨てでいいよ」

「それなら佑未って呼び捨てにしてくれたらそうするよ」

「じゃ、じゃあ……佑未」

「うん、梅」


 うんうん、何故かガシッと掴まれていること以外はいいことだな。

 ちなみに、今回僕の腕を掴んできているのは梅さんだった。

 少しだけでも一緒にいたことでこういうときに僕がどうするのかを分かって咄嗟に動いた可能性がある――なんて、それだとまるで求められているかのようになってしまうのでただの勘違いか。


「そうそう、お兄ちゃんと一緒にいるならサッと腕を掴む能力が大事だからね。いーい? 妹も遠慮せずに梅みたいに掴むこと」

「分かった」

「大体、みんなで集まると違うところに行きたがるその癖、なんとかならないの?」


 みんなの視線が突き刺さる。

 なんかこれだとじっとできない問題児みたいだ。

 まあ、それならそれで迷惑をかけないように離れるところだけどそれを許してはもらえないと。

 つまり、存在しているだけでその場にマイナス要素を残す悪い存在だった。


「ま、梅が掴んでくれていればそれでいいよ。私はお風呂に入ってくるからその間、その人をお願いね」


 はぁ、二人きりにならなくて済んでいることは救いか。


「あ、私は入浴済みだから」

「あ、うん」

「こっそり覗いたりできなくて残念だったね」


 そんなことはしないよ……。

 でも、彼女がこの態度を続けてくれていたら勘違いをして踏み込もうとする自分は現れないわけだから助かる。

 ストレスとかも溜まるだろうし、こういうことで少しだけでも発散させたられたらいいなぐらいの考えでいればいい。


「あれ、よく見たら妹も……」

「さっき入らせてもらった、ポカポカになった」

「大原先輩!?」


 泊まるときはこんなものだよね?

 言葉で責められて喜ぶ人間というわけではないけどサンドバッグみたいになって彼女達のストレスコントロールをすると決めたのだ。

 だから本当のことでもいちいち言い訳みたいなことはしない。


「なんてね、面倒くさい絡み方はやめるよ。それよりタオルを貸してもらっていい? なんかあんまり拭けていないみたいだから」

「分かった、持ってくるね」


 解放されてもしっかり切り替えられたことで離れたい気持ちはなくなっていたからタオルを持ってすぐに戻ってきた。


「ありがとう。はい、ここに座って」

「ん」

「夏でもしっかり拭かないと駄目だよ」

「ドライヤーを借りるのは気が引けた」

「別に長時間利用するとかじゃなければ問題ないでしょ」


 うん、気になるだろうけど気にする必要はない。


「あとは早く戻ってきたかった」

「はは、大原先輩達といたいんだね」

「梅ともいたい」

「それはいちいち言わなくても分かるよ。というか、そうじゃないと嫌だし……」


 って、じろじろ見ていたら不味いか。

 窓前に座って暗闇でも見つめておこう。

 僕的には大して暑くはないからこうして窓が開いていたらそれで十分だったりもする。


「終わり、っと」

「ありがと」

「うん」


 やばい、お客さんがいるのに自宅パワーでマイペースになってしまう。

 本当なら時間的にあれなものの、お菓子とかも出してみんなでわいわい! なんてのもありだろうけどここから動こうとする自分がいない。


「佑先輩、少し探検してきてもいい?」

「いいよ」


 ひ、一人で慣れない家の中を歩こうとするなんて妹さんはすごいな。


「分かりにくいかもしれないけど妹、滅茶苦茶ウキウキしているね」

「あれ、梅さんは付いて行かなかったの?」

「だ、だってこの時間ならご両親だっているでしょ? 急に遭遇することになったらご両親の心臓に悪いから」

「ははは、そっか」


 いつも遅くまでリビングにいるタイプではないけど今日は空気を読んでくれた結果だった。

 そうでもなかったら両親は二人に物凄く興味を持って色々なことを聞いていたと思う。


「なに笑っているの……泊まらせてもらうならそこに住んでいる人のことを考えて行動するのが普通でしょ」

「大事だね。だけど妹さんみたいに興味を持ってくれるのも嬉しいかな」

「別に興味がないわけじゃないし……」

「うん、両親はそうやって考えて行動してくれる梅さんも好きだと思うよ」


 厳しい人達ではないから不安になることはない。

 今度、ちゃんと会って話してほしかった。




「佑先輩起きて」

「……もう朝、ではないね……」


 佑未の部屋で集まって寝ていたはずなのにどうしたのだろうか。

 一人でトイレに行けないとかはないだろうから……あの二人が寝てしまって寂しくなったとかかな。


「結構夜更かしをするタイプだからこの時間は眠くない」

「えっと」

「いまは二十三時」


 あ……そんなことを繰り返していたかこんなに小さくなってしまったのか。

 子どものときは特にちゃんと寝ることが大事だ、うん、手遅れかもしれない。


「佑未さんと梅はすぐに寝たから来た」

「分かった、それなら座ってよ」


 いまからうろうろしても得られるものはなにもないから話し相手になるぐらいで我慢してほしい。

 僕は夜更かしをすると酷いことになるので二十四時になる前には解散にしてほしいところだった。


「嘘をついたことは反省している」

「ああ、今日のあれのことね」

「あと、僕が泊まれば梅も動きやすくなるからいいと思った」

「お互いに相手のことを考えて動けていていいね」

「それは佑先輩も同じこと」


 あ、いや、そういうことを言ってほしかったわけでは……。

 対妹さんや対梅さんのときは本当に難しいな。

 これから社会に出ていくわけだからいい練習になるのは確かだけど何気なく放った言葉で傷つけたりしてしまわないか心配になる。


「ふふ」

「え……?」

「む、僕でも笑う」

「い、いや、急にどうしたのかなって」


 表情が変わりにくい子ではあるけど人間なんだから笑ったことに関して気にしているわけではなかった。

 ただ、あまりにも唐突すぎるとこの状況のことも含めて不安になるから答えを教えてほしいだけだ。

 僕は馬鹿だ、「座ってよ」などと言った自分を殴りたい。


「こうしてオレンジ色の照明だけだとこれからなにかイケないことをするみたい」

「し、しないからね!?」

「しー流石にその声量はあの二人が起きてしまう大きさ」


 な、なんで急襲されたうえに注意されなければならないのか……。


「あれも嘘ではない」

「僕が変人だったからそのときは気になっただけだと思う」

「ふむ、それは否定できないかもしれない」


 う、うん、なにもない方がいいけどすぐに認められてしまうのは複雑だ。


「ただ、一緒に過ごしているとどんどんと佑先輩と一緒にいたくなる」

「そ、そうなんだ」


 知らない間に洗脳してしまっているとかはないだろうからこれは素直に喜んでおけばいいか。

 友達としても「一緒にいたくなる」と言ってもらえたら喜ぶところだろう。


「佑未さんとも仲良くしたいけどそれとこれとは別、だからそこで勘違いをしないでほしい」

「わ、分かった」


 彼女が黙ったことでそれこそ変な空気が……。

 って、あくまでそれは僕が変なだけで彼女は普通なのだから気にしすぎか。

 とはいえ、寝転ぶこともできずにひたすら正面の壁を見つめていると「眠たい」と。

 ここは全力で乗っかるしかない!


「さ、佑未の部屋に戻って休むといいよ」

「なんで今日に限ってこんなに早い時間に眠たくなるのか……」

「は、早くないよ、もうほとんどの人が夢の中にいる時間だよ」


 今回無理をしなくてもまた泊まりに来ればいい。

 微妙な状態で帰られることの方が気になるから、求めてくれるならいつでも相手をさせてもらうからこれで終わりがいい。


「はぁ……相手をしてくれてありがと」

「い、嫌そうな顔だけどおやすみ」


 ほっ……なんとかなった。

 寝転んでも眠気がやってこないなんてこともなくて次に目を開けたときには、


「大原先輩起きて」


 まだ真っ暗だった。


「あのさ、似ているのはいいことなんだけど夜中にやる必要はあるの……?」


 朝でもお昼でも聞いてくれればちゃんと答える。

 逃げられそうで不安ならまた腕でも掴んでおけばいい。


「だからこそだよ、さっき妹が戻ってきて驚いたんだから」

「もしかして梅さんも夜更かしタイプとか?」

「違うよ。ただ、妹が急に出ていって起きちゃってからは寝られなくて……」


 僕と違って逃してしまってこのままでは困るということか。

 別に呼びつけたとかではないからそんなに気にしなくてもいいだろうけどそれは無理なのでなんとか寝てもらうために作戦を考える。


「温かい飲み物を飲むとかどう?」

「妹とどんな話をしたの」

「あー」

「大原先輩最低っ」


 ぐはあ!? とはならなかったけどここでこんな顔をされるとね。

 それでもペラペラと話すわけにはいかない、流されてはいけないときもある。


「とりあえずは椅子に座ろうか」


 ガチガチだ。

 妹さんが関係しているから頑張れているだけで本当の彼女は怖がりなのかもしれない。


「痛っ!?」

「これは罰だから」


 いや、それより夏なのに手が冷たすぎる。

 もうこの部屋にいること自体が間違っているので、寝ることは諦めて一階へ。


「なにか飲む?」

「いい、そうやって逃げようとしても無駄だから」

「それなら座ろうか」


 このままでは落ち着けても寝不足になってしまうだけだ。

 かといって、どうすればいいのかなんかなにも分からない。

 だってこうして手だけで繋がっていても依然として冷たいままだからだ。

 これは部屋どうこうよりもやっぱり僕自身に問題があるみたい。


「って、なにをしているんだろう」


 あ、あれ、切り替えられたからなのか体温も簡単に通常と言えるレベルに戻っていく。


「大原先輩ごめんね? いっつもこんなことばかりしちゃってさ」

「い、いいよいいよ、梅さんが戻ってくれたことが嬉しいよ」

「そもそも妹は大原先輩のことを気にしているんだからこういう機会に動こうとするのはなにもおかしなことじゃないしねー」


 今回は話さなかったことが悪い方に働いたみたいだ。

 いつものようにすることは大事だったけどいつものように黙っているのは駄目だった。


「あ゛」

「うん?」

「て、手……これだと繋いじゃっているみたいで」

「ああ。はは、それのおかげで冷たくなっているか温かいかを簡単に確かめられてよかったよ」


 冬の冷たい空気に触れて冷たくなっていたとかではないからね。

 どちらかと言えば温いぐらいなのにあの冷たいままでいさせるのは違った。

 なにか買ってきて食べてもらうことで変わっていたのなら、それならなにも悩むこともなく家を飛び出してその目的の物を買いに行っていたところだ。


「このまま――」

「お兄ちゃんの馬鹿!」


 ああ、爆弾に繋がる導火線に火をつけてしまっていたいみたい。


「だからどっちも攻略するのは駄目だよって言ったでしょ!」

「妹さんに聞いたの?」

「それしかないでしょ! 流石にお部屋にいるだけで隣のお部屋でされている会話が聞こえてくるような残念なお家じゃないんだから!」


 せ、せっかく言わないようにしたのにこれでは意味がない。

 佑未の後ろに眠そうな顔をしながらもちゃんと付いてきている妹さんがいて、隣に座っていた彼女はアワアワとし始める。


「ご、ごめんっ、こ、ここ、これはそういうつもりじゃあ!?」

「ふふ、梅さんそれだと余計に怪しく見えるよ?」

「泥棒猫、なんて冗――」

「もう帰る!」


 三人で慌てて掴んで止めた。


「梅が頑張ってもいい。梅にとって佑先輩がそれぐらいの人なら僕も嬉しい」

「妹さんいいの?」

「選ばれるのは一人だけだけど頑張れるのも一人だけというわけではない、気になってしまったのなら動きたくなってしまうのも理解できる」

「大人だ」

「ん? 普通のことを言っているだけ、これだけで大人扱いはおかしい」


 みんながワイワイ盛り上がっているからこのまま任せていてもいい感じがしてくるけどここは年上として、


「さ、もう寝よう、続きは朝にしようよ」


 と、止めなければならない。

 僕としては彼女の体温が戻った時点で満足できているから気持ちよく寝られそうだ。

 そして彼女的にももうよかったのか「そうだね」と受け入れてくれた。

 誰からも選ばれなくてもこうして言うことを聞いてもらえるだけで嬉しい。


「ゆ、佑未?」

「あれ、ここは私もする流れじゃないの?」

「明日にしよう、ね?」

「ちぇ、じゃあ朝に絡むから」


 嘘はつかない、ちゃんと逃げずに相手をさせてもらう。

 だから安心して寝てもらいたかった。

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