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265  作者: Nora_
3/10

03

「あ、起きた」


 それは生きているから当たり前のことだ。

 起きたと言うより起こしてきた目の前の人物は「おはよう」と挨拶をしてきたので返しておく。


「そんなに起きるのが遅かった?」

「ううん、まだ八時だよ」


 すぐに用を言ってこないあたりが怖いのだ。

 とりあえずは着替えるために出てもらうことで時間稼ぎをする。

 まあ、竹内さんか梅さんが起こしに来たときよりは怖くはないけど意外と嫌な予感というのは当たってしまうものなのだ。


「お兄ちゃんっていま五千円ぐらいお金が貯まっていたり……する?」

「普通にあるけど流石に妹が相手でも五千円ぐらいの物を買ってあげるつもりはないかな」


 シスコンなどと言われてしまうような兄ではなかった。

 聖人君子というわけでもないから期待をするだけ無駄だ。


「それ、ちゃんと貯めておいた方がいいよ」

「あ、うん」


 いまは、というか昔からあまり物欲がないので貯まっていく一方だった。


「まあ、お金のことはこれで終わりにして――ここからが本題なんだよ」


 さあ、なにを言われるのか。


「実はね、一階に竹内さんが来ているんだよ」

「ちょ、それをすぐに言ってくれないと待たせてしまうよ……?」

「お兄ちゃんが幸せそうな顔をして寝ていたのが悪いんだよ」


 それなら後で僕に罰でも与えればいい。

 お客さんが来ているならすぐに対応しなければならないのだ。


「ごめん竹内さん――梅さんもいたんだね」

「うわあ……そうやって露骨に差を作るのはどうかと思うけど」

「ごめん。今更だけど大原家へようこそ」


 飲み物は佑未が出してくれていたから彼女達の前の床に座る。

 あとこれも今更だけど今日は晴れているから出かけるのもありかもしれない。

 二人がただここに寄っただけなら佑未と行けばいい。


「二千円ぐらいを持って外へレッツゴー」

「梅、もう少し詳しく話さないと大原先輩がドキドキする」


 確かに、普通に教えてほしいかな。


「え、ただ色々見たりしたいだけだけど。ほら、そうやって動いていたらお腹が空いたりして飲食店に行きたくなるでしょ? だから二千円ぐらいあればいいかなーって」

「いいよ、行こうか」


 ただ、五千円のあの話からすぐに使うことになった点については笑うしかない。

 でも、ケチケチしすぎればいい人生になるわけではないからこういうのは必要なことだと片付けてしまおう。


「佑未さんも」

「え、参加するのは駄目だと言われていても付いて行っていたよ」

「それならよかった」

「「ぐっ」」


 仲がいいのはいいことだ。

 結局はどこに行くのか分からないまま歩いていると、


「あの二人、すぐに仲良くなったよね」


 と梅さんが。

 大人しく僕の隣で歩いているのはあの二人の間に入れないからか。


「そういえば今日は大丈夫?」

「うん、晴れているとそれに伴った状態になるから」

「でも、無理をするのは駄目だからね。またあの状態になってしまったら僕の腕でも掴むといいよ」

「それって私に触ってもらいたいだけじゃ……?」

「どう思ってくれてもいいけど一緒にいる子に無理をしてほしくないだけだよ」


 そこまで時間が経過していないものの、一番心配になる対象は彼女に変わってしまっていた。


「大原先輩って昔からそうなの?」

「うん、だけどみんなこうでしょ?」

「あ、女の子だけに優しかったりとかっ」

「ほとんど男の子の友達しかできなかったかな」


 そうなれば自然とその男の子達に向くわけで、彼女の想像している感じにはならないわけだ。


「佑未さんとしかいないけど」

「昔の友達だから」

「大原先輩、私達がちゃんと行くからね」

「はは、ありがとう」


 少し歩けば興味を持てるお店が多い土地なのは楽でいい。

 お店が見えてきてしまえば女の子三人ですぐに盛り上がり始めて微笑ましかった。

 そのつもりはなくても一人だけ輪の外にいるのは見ていて気になるので、いつも三人で楽しそうにしていてほしいと思う。

 とかなんとか考えていないで集中して追っておかないと不味いか。

 すぐに着く場所ということは他にもここに来て楽しんでいる人達は多いのではぐれてしまいそうだ。


「お兄ちゃんお兄ちゃんっ、ここに入っていいっ?」

「うん、寄りたいお店にどんどん寄ればいいよ」


 うーん、二千円で足りるのかな。

 お腹が空いてお昼ご飯が食べたいとなったときに「た、足りない……」とならなければいいけど。


「ここ、多分女性向けのお店」

「他にも女の人ばかりだからそうなんだろうね」

「大原先輩は気にならない?」

「僕一人で来ているわけではないからね、こうして竹内さんと話しながら見ていたら不審がられることもないと思う」

「大原先輩は意外」


 だからそれはみんながいてくれるからだ。

 自分の用で一人で突撃はできないから最低でも絶対に佑未は連れていく。


「あ、こうして腕を掴んでおけばもっと問題なくなる」

「はは、それならこのままあの二人のところに行こう」

「大原先輩は見せたがり?」

「これだと竹内さんだけ可哀想だからだよ」


 センスがないから協力してあげられないのもあった。

 その点、あの二人が近くにいたらアドバイスをしてくれるだろうからと考えてのことだ。


「むふふ、大原先輩もちゃっかりしているね」

「お兄ちゃんなんてこんなものだよ」


 安定して女の子と一緒にいられるのなんてかなり久しぶりだけど。

 機会が少ない分、そういう風に見えてしまうのであれば受け入れるしかなかった。




「な、なんだここは……こんなところに私達を連れ込んでなにをするつもりなの!?」

「梅さんがお肉を食べたいって言っていたからガッツリお肉が食べられるお店にね」


 意外だったのは竹内さんが全力で乗っかっていたことだ。

 佑未は「えぇ、太っちゃうよ」とか言いながらも早足だった。

 いまも竹内さんと二人で「どれにしようかな」とメニューを見ている。


「ま、それはいいけどなんでこの配置なの?」

「ごめん、いまは我慢してもらうしかないかな」


 長居するわけにもいかないから三十分も経過しない内に出ることになる。

 出た後は今度こそ横に行って竹内さんと仲良く歩けばいい。


「大原先輩は悪くないよ、さらっと佑未さんの隣に座った妹に文句を言いたいだけで」

「特に意識していたわけではなかった」

「なのに佑未さんの隣にさらっと座ったということは佑未さん大好きじゃんか……」

「梅も好き」

「も、ってことは駄目じゃん……」


 前に進めるために先に選んでもらうことにする。

 ゆっくりお喋りするのは注文を済ませてからでも十分にできる。

 彼女が決めたあたりで二人も決まったみたいなので店員さんを呼んだ。

 ここにきたらこれ、という料理があるからスムーズだった。


「ねえ大原先輩、これって寝取られってやつだよね。これならまだ妹が男の人と仲良くしていた方が精神的によかったよ」

「竹内さんが大好きなんだね」

「そりゃ大好きに決まっているでしょ、もう十年ぐらい一緒にいるんだから」

「佑未だからノーカウント、とはならない?」

「ならないよ、それどころか妹関連なら大原兄妹はライバルでもあるんだからね?」


 こちらが出しゃばらないようにしていてもこれだと難しいな。

 自分が〇〇をすればなんとかなる状態ではないから一緒にいるとそれはそれで問題が出てくるということか。

 なるべく言い合いをしているところは見たくないからもうどうしようもなくなったら逃げようと決めた。


「梅、あーん」

「ぶふぉ!?」


 飲み物を飲んでいるときではなくてよかったね……。


「僕達なんてこんなことばかりしてきたのに変」

「はぁ……はぁ……ゆ、佑未さんはいいの?」

「ん? 佑未さんとしたいならすればいい」

「はは、梅さんこっちの味も求めているんだね? はい、あーん」

「な、なんだなんだ? 私を太らせたいのかあ!? あむ!」


 うん、最初から最後まで楽しそうだった。

 そしてお約束とばかりに満腹になった梅さんが歩きたくないなどと言い出して運ぶことになった。


「梅は重くない?」

「うん、軽いよ」


 なんか変な甘え方……? うーん、僕がこれぐらいの年齢になって話しづらくなったのか父がたまに部屋まで運ばせてくるから父と比べたら遥かにね。

 あとは佑未もソファで寝てしまって部屋まで運ぶように頼まれることがあるからそのことでも地味に筋肉トレーニングができていたのかもしれない。


「でも……体のあちこちがお兄ちゃんに触れているのがなあ……」

「大原先輩は欲情したりしない」

「いや、梅さん自身がもう少しぐらいは気を付けてほしいというか……」


 確かに、気を付けないと悪い人にやられてしまう。

 身を任せてくれているのは嬉しいけどね。


「分かった、それなら途中から僕が梅を背負うから佑未さんがやってもらえばいい」

「え、お兄ちゃんが疲れちゃうからいいよ」

「ふふ、優しい」

「別に今回のこれはお兄ちゃんが悪いわけじゃないからね」


 こういうところもずっと変わらないな。

 頭を撫でたくなったから撫でさせてもらったら「え、いつものことでしょ」と困ったような顔をされてしまった。


「大原先輩、僕にもしてみてほしい」

「やるよ?」


 求められてできることならやっていくだけだ。

 

「ちょ、ちょっと待った! それはなんか違う……じゃない?」

「口調がおかしい

「あのね、こういうところで似た者同士は不味いんだから!」


 佑未の迫力に負けたのかそれ以上は重ねてこなかった。

 弱っているメンバーがいるままでお店には行けないので住宅がある方に向かって歩いていく。


「大原先輩」

「なに?」


 起きていたのか。

 彼女はそのまま腕に少し力を込めてから「このままあの二人に気づかれないように距離を作って」と言ってきた。


「ごめん、ちゃんと話してからならいいけどそうではないなら流石にね」

「そ、それでも合わせてくれようとしちゃうんだ……相手は妹じゃないんだよ?」

「うん、ちゃんと事情を話してからなら合わせるよ」


 佑未や竹内さんだけに合わせているとは思われたくない。


「た、確かめたかっただけだからいいよ。今日は四人で遊んでいるんだから最後まで四人で盛り上がらないとね」

「そっか」

「って、そもそも大原先輩は付いてきていただけか。もっと参加してきてよ」


 参加できないほど離れているわけではないけど近すぎないいまの距離感が落ち着く。

 これなら絶対にメインにはならないからだ。

 露骨にやりすぎていなければこちらにばかり意識を向けてしまって相手を疲れさせてしまうこともないのがいい。


「あとさ」

「うん」

「大原先輩のことを妹が気にしているのにこれは意地悪だよね」

「佑未や梅さんだってそうであるように竹内さんも大人だから大丈夫だよ」


 竹内さんにとって僕が好きな人で、何回も相談を持ち掛けられては協力してきたのにそれっぽいことをしているとかでもないのだ。

 そ、そもそもの話、僕が不思議野郎だったからそのときは気になった、というだけのことではないだろうか?


「は、はは、最初に佑未さんのことを出すあたりがシスコンさんみたい」

「そ、そんなにかな?」


 それについてはスルー……なんて。


「ふ、二人とも」

「「なに?」」

「僕ってシスコンに見える?」


 できればこんな情けないことは言いたくはない。

 だけど自分目線だとあくまでつもりでしかなくて、気が付けば恥を晒している可能性がある。

 もちろん、妹に優しくできるのはいいことだと思うけど度が過ぎていると……。


「佑未さんにだけじゃなくて僕達にも優しくしてくれるから大原先輩が大原先輩らしくいるだけだと思う」

「私も――と言いたいところだけど他の人がいるところでも私を優先しちゃうときがあったからなあ」

「なるほど、大原先輩のシスコン度は五十パーセントといったところか」


 落ち着こう。

 周りの目を気にして距離を置いたり、わざと冷たく対応をしたりするよりはいい。


「ま、最近は梅さんにばかり優しいけどね」

「確かに気に入る速度が異常」

「ま、妹、それってどっちに言っているの……?」

「佑未さんのお部屋でゆっくりしたい」

「ちょっ、妹さん!?」


 お、部屋なら僕が入るわけにもいかないし、僕だけ解散か。

 どうしよう、今日は花を探しに行きたい気分ではないから寝るとか?

 お昼寝をしても夜にぐっすりと寝られる幸せな脳をしているからそれもいい選択となりそうだ。


「下ろして大原先輩っ、私は妹と話し合わないといけないから!」

「分かった」


 地面に足がついたことで安心したかのように――そのままタックルしていた……。

 そこまでではないにしても身長差があって竹内さんが倒れかけたのを慌てて支えていた……。


「お兄ちゃん」

「うん?」

「はあ……そこはお兄ちゃんも『さて、まいと話さないとな』とならないと駄目でしょ」

「え、求められてはいないからまだ名前で呼べないよ」


 いつものそれで求められたらすぐに変えるけど。


「そ、そうじゃなくてまい……つまり妹と話すってこと」

「あ、ああ! ごめん、すぐに分かってあげられなくて」

「うぅ、謝られて余計に傷ついた!」


 ああっ、走っていってしまった。

 くっつきながら歩いている二人を放っていくわけにもいかないから最後尾を一人とぼとぼと歩くことに。


「大原先輩、いまみたいなのが一番最悪だからね」

「うん、反省しているよ」

「あと、妹のこと名前で呼びたいなら呼べばいいと思う」


 っと、それを出してしまうのかって、先程の会話が聞こえていたからこうなっているのだから意味はないか。


「竹内さんはどうなの?」

「質問に質問で返すみたいで微妙だけど梅のときはどうだった?」

「名字が嫌いだから梅でいいよって言ったの。だけどこれを見る限り、そうして正解だったね。だってそうでもなければずっと名前で呼ばれなかっただろうから」

「それなら僕のことも妹と呼んでほしい、あと佑先輩って名前で呼ばせてもらう」

「分かった、改めてよろしくね」


 なんかどんどんと進んでいくな。

 だからといって勘違いはしないようにしないと。

 メインではなくてモブみたいな感じでいい。

 かといって、ずっと参加できないのは寂しいという面倒くさい人間だった。

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