第61話 辻斬りと妖剣
「アイダ、出ていきましょうか」
「待って、今皆で出て言ったら、辻斬りが逃げてしまうかもしれないわ」
結局ワイナ以外は気配を消したまま、様子を見守る事にした。
ワイナと男は無言で対峙する。
男が剣を抜いた――
それを見たワイナが声を掛ける。
「その方、何ゆえに罪もない人を切るのだ」
「ふっふっふっ、此奴が血を望んでおるのでな」
男の構える剣、
刃が月の光を受け怪しく光る。
「血だ、血を飲ませろーー」
それを聞いたワイナも剣を抜く。神剣ヌアザである。
「ふっふっふっ、面白い」
次の瞬間、男の剣が振り下ろされた――
「キンッーー」
剣と剣の凄まじい弾きあいである。
「なにっ!」
なんとワイナの振るう神剣が跳ね返されるではないか。
「ふっふっふっ」
男は余裕の笑みを浮かべている。だが、ワイナは直ぐ気が付いた。
「何なのだこの男の目は」
男の目はワイナを見ているようで見ていない。焦点が合っていないわけでもない。まるで何者かに操られているようだった。左右の目はワイナを追うことなく、常に同じ向きのまま動く。そのため視線の先がまるで読めない。
するとそこに月の光を受けて現れた一匹のコウモリ、その不規則な動きが止まると、ワイナの隣で、真黒な髪と瞳を持つ女性に変身した。神剣ヌアザの精霊である。
「この剣はただの妖剣ではありません……。人の執念、それも凄まじい怨念を感じます」
神剣ヌアザは魔物や妖怪には絶大な力を発揮するが、人に対しては只の剣になってしまう。
「血だ、血を飲ませろーー」
コウモリが舞い上がり、
再び両者は対峙、
しかしワイナの手が止まる。
相手がどこに斬り込んでくるのか、まったく読めないのである。
「くっ」
その不思議な目を見ていると、ワイナはめまいにも似たものを感じてしまうのである。
――だめだ、これは、男の目を見てはいけない――
ワイナは剣を下ろし気配を消すと、薄く目を閉じた。後は相手の気配だけが頼りだ。
「ふっふっふっ、そんなことで儂の攻撃をかわせると思うのか」
男の気配が後ろに回って来る。
「でぁーー!」
「んっ!」
かろうじて相手の剣を弾く。
すると今度は男の気配が右に左にと移動してゆく。ワイナはやはり剣先を下ろしたまま、わずかに目を伏せている。
その時、
「血だ、血――」
――其処だ――
手の中の神剣ヌアザが僅かに震え、ワイナの腕が動いた。
「キンッーー」
妖剣は真っ二つに折れ、鮮血を噴きながら空を舞った。折れた妖剣の柄を握ったままの男は、何が起こったのか分からぬのか、呆然と立ち尽くしている。
アイダたちが出てくる。
「恐ろしい剣であった」
ワイナが折れた剣を見下ろした。




