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第4話 悪魔の糖蜜


「ゾボ様、悪魔の糖蜜とは何のことでしょう?」


 ゾボは呪術師である。その力ゆえに周囲から恐れられていたが、精霊たちを敬う心だけは失っていなかった。 


「はっはっはっ、雷神から難題を出されたの」

「ゾボ様」

「アイダ」

「はい」

「悪魔の糖蜜とは、四人の女悪魔たちの誰かが隠し持つ秘宝という話じゃよ」


 ゾボの話では簡単には手に入らないだろうという。


「ゾボ様、私はその悪魔たちに会いに行きます」

「そうか、行くか」

「はい」


 アイダはまた人に変身しているジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダを連れて、ゾボの教えてくれた女悪魔たちが住むという谷に向かい歩き始めた。






「えっ、あの人たちは何をしているのかしら?」


 精霊界には妖精だけでなく魔女や魔術師、妖怪の類も住んでいる。人界と精霊界は完全に別の世界ではない。ときに両者は交わることがある。


「お葬式?」


 それにしてはちょっと変だ。埋葬される遺体らしいものを運んでいない。

 そして一番気になったのが、行列で中央を歩く少女である。着飾っているが、泣いているように見えるではないか。


「あの、皆さんは何をなさっているのですか?」

「…………!」


 聞かれた者が慌てて手を振り、逃げるようにして行ってしまう。


「付いて行ってみましょう」


 おかしい。これは何かあるに違いない。

 行列は村はずれの辺鄙な場所にある祠の前で止まった。すると着飾った少女だけを残して、皆小走りに帰ってしまう。一人残された少女は祠の前に座り下を向いて泣き出すではないか。


「あの、びっくりしないで」

「…………!」

「私に訳を説明してくれない。力になれると思うの」


 アイダは震えている自分と同じくらいの年齢だろう少女に、そっと話しかけた。

 だがもうアイダにはおおよその見当はついていた。そして予想はやはり当たっていた。少女は生贄であったのだ。血のように真っ赤な羽毛に覆われた猛獣が今夜現れて自分を喰うのだという。神出鬼没のまるで妖怪のような猛獣であると噂されていて、毎年若い女性の生贄を出さないと、村に災難が及ぶと言うのである。


「分かったわ、貴方を助けるから安心して」

「えっ、でも……」

「今から村に帰っても騒ぎが大きくなるだけでしょうから、祠の奥に隠れていなさい」


 アイダは少女の代わりに祠の前に座って待つ事にした。ワイナとトゥパック、キイロアナコンダも祠の奥に隠れた。

 祠のある場所は集落の入口や道の辻などが多いが、山の神を祀るように奥深い山奥など、精霊人間が立ち入らないような場所に祀られるものもある。ここは村人もめったに来ない寂しい場所である。


 日はいつの間にか落ち、

 闇が忍び寄り、

 小鳥も声を潜める。

 静かになっていた祠前の広場に怪しげな風が吹き始め、

 村人が点していった灯篭の灯りがフッと消えると、

 やがて辺りに生臭い匂いが漂ってくる――


 ――来たわね――


 闇の中からヌシッと現れた妖怪は、確かに真っ赤な羽をはやした猛獣である。首をだらりと前に落としたまま、これまた真っ赤な目玉をぎらつかせてゆっくり歩んで来る。

 アイダがすっくと立ち上がると、獣は一瞬おやっとした表情を見せたが、すぐ威嚇を始める。だがアイダは涼しい顔で、


「なるほど、お前が少女たちを毎年生贄にさせている妖怪なのね」


 とその獣の表情を眺めているではないか。

 それを見た妖怪の態度が一変した。


「貴様、村人ではないな!」


 そして背後からワイナとトゥパック、キイロアナコンダが出て来ると妖怪は激しく一喝して、踵を返し逃げだそうとする。だがその瞬間をワイナが見逃さなかった。ジャガーになったワイナが妖怪の後ろから襲い掛かったのである。

 二頭は激しく争ったが、ついに妖怪の喉にジャガーの太い牙が食い込み、そのまま押さえ込まれると、やがて獣は窒息し、勝負は付いた。




「ありがとうございました」


 村の長老が当惑気味に感謝の言葉を述べた。いまだに妖怪が退治されたというのが信じられないのだ。また襲って来るのではないかと。


「大丈夫です、獣の死骸を見たでしょ。あれが妖怪の正体です」


 村人が妖怪と思い込んでいた正体は、異形の猛獣だった。

 確かに村人は見た。信じられない出来事であったが、とにかくこれで一安心と皆胸をなでおろした。


「さあ、妖怪退治は終わったわ。急ぎましょう」

「次はいよいよ女悪魔か」

「ええ。悪魔の糖蜜を手に入れないと、人界へ降りる許可が貰えないもの」


 アイダは再びジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダを連れて歩き始めた。

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