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第3話 人界に降りる許可


 アマゾンのジャングルを、人には分からない緑の風が流れている。


「また人界に降りておったのか」

「…………」


 ジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダを連れている少女の名はアイダ。虹の精霊であり、ダスザと呼ばれる風の神の一人娘である。

 太陽の光が雨粒に差し込み、反射・屈折して七色に分かれ、美しい虹となる。雨上がりの空に現れるその虹は、神の祝福とも天からの贈り物とも言われる。その姿こそが、虹の精霊アイダであった。

 少女の傍に控えるジャガーのワイナがアイダを見る。ジャングルで親を亡くしてさ迷っているところをアイダが見つけて保護した経緯があるのだ。それ以来、母親のように見守り続けてきた。ゴリラのトゥパックはまだ若いころ、後継者争いで瀕死のけがを負い倒れているところをアイダに助けられて、その後再度の決闘に勝ちリーダーの地位に就いた。現在はゴリラ界の王である。


 ダスザの周囲、アイダの視線の先には妖精や精霊が並んでいた。だがその奥には魔女や吸血鬼の姿も見える。


「何をしに人界などへ行く。そんなに興味があるのか?」

「父上、人界では野生生物が危機に瀕しております」

「…………」


 その時精霊たちの背後から声が掛かった。


「お前と何の関係がある。人間など滅びようが構わん」


 そう鋭く言い放ったのはファイチヴォ、赤い眼の魔術師であった。その後に1万人の血肉を喰らい不死の存在になったという、血塗れの翼を持った人面怪鳥が、その赤い羽を震わせ足踏みをしている。しかし、


「貴方の意見は聞いておりませんよ」


 そう凛と言い放ったのはダスザの横に座るマドレ、水の母とも呼ばれる少女の母で、木々の精霊でもある。

 魔術師の後ろで木の棒で戦う戦士たちが不穏にざわめき始めた。





「あの人たちに何を言っても無駄のようね」


 アイダはワイナとトゥパック、キイロアナコンダを連れて父ダスザの前から引き下がっていた。


「こうなったら最後の手段よ。父上が駄目なら、後はトゥパ様しかいないわ。付いてらっしゃい」






 ここは雷神の館である。


「お前は虹の精霊アイダではないか、何用があって参ったのだ?」

「トゥパ様……」


 トゥパは雷神であり、アマゾンにおいて精霊界を支配する最高神である。

 アイダは泉の精霊や月の神、山の主、戦いの神にまで頼み込み、ようやくトゥパ神との謁見を果たしたのである。


「私は野生生物たちの危機を見過ごしてはおけないのです」

「…………」


 アマゾンの精霊界を支配する最高神トゥパは、少女アイダの行動などとっくにお見通しのはずである。


「私の考えは間違っているのでしょうか?」

「…………」

「ですから人界に降りる正式な許可をトゥパ様から頂きたく、こうして参りました」


 黙って全てを聞いていたトゥパ神は、やがて静かに語り始めた。


「精霊界には勝手に人界に降りたり、人間と安易に関わりを持つてはならない決まりがある。それはお前も存じておろう」

「ですが――」

「まあ後を聞け」


 トゥパは若く活発なアイダに苦笑いをしているようである。


「その方がこれまでこっそりと人界に降りていたことは見逃そう」

「…………」

「お前のしようとしていることには意義がある。だがたとえどんな理由が有ろうとも、勝手に人界に降りることはやはり許されない行為である。そこでだ――」


 アイダがすぐ身を乗り出した。


「ですが――」

「アイダ、儂の話はまだ終わっとらんぞ」

「――――!」

「全く、最後まで話を聞けと言っておるではないか」

「はい……」


 アイダは頭を垂れた。そして雷神は話の先を続けようとする、しかし、


「だが、その……」

「…………」


 トゥパ神は咳払いをした。


「今回だけは儂から特別な許可を与えてもいいのだが、それには条件がある」

「…………」


 どこか言いづらそうな顔である。

 だが、ついに口を開いた。


「儂の為に悪魔の糖蜜を捕って来るのだ」

「…………」


 アイダにはトゥパの言っている意味が分からなかった。


「あの……」

「実はあの糖蜜は儂の大好物でな。だが女悪魔どもが意地悪をして手に入らないのだよ」

「…………」

「まず糖蜜を取って来い。その後で考えてやる」

「あ、あの、その糖蜜とは――」


 ここまでで謁見はそそくさと打ち切られ、雷神はアイダの前から消えてしまった。悪魔の糖蜜とは一体何の事だ。女悪魔が邪魔をしている?


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