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第15話 レイラとノラの怪鳥追跡


 ワイナとトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女レイラを連れているアイダがじっと前を見ている。


「アイダ、どうしたの?」


 レイラが聞いて来た。アイダのかすかな表情の変化を読み取っていたのである。


「この先に何かが居る」

「…………」

「私たちが束になって掛かっても勝てるかどうか……」


 アイダが見つめる遥か北の空に、黒い瘴気が渦巻いていた。


「あれが……ベリアル」

「ベリアル、あの堕天した大天使の名ね」

「レイラ、精霊界の北の外れで謎の怪物が暴れているというけど、どうなっているか調べて来て。それから話が本当なら、背後に居るという魔王ベリアルの事もね」

「分かりました。おいでノラ」


 レイラは風に乗っただけで背筋が震えた。




 荒涼とした谷の上から、レイラはノラと共に崖下を見ている。


「ノラ、あそこを見てごらん」


 村人が追い立てられ、その足元に舞うのは赤茶けた大地の土埃。皆うつむいて黙々と歩いている。


「さっさと歩かんか」


 鞭を持った半獣の獣人間が村人を大勢で追い立てているのだ。上半身は牛のようであるが、長い角を生やし、二本の足で立っている。


「もしかしてあれが魔王ベリアルの軍団兵士なのかしら」

「…………」


 しかし、ここで突発事故が起きる。

 蹴とばされ、転んで起き上がれなくなった一人の村人に、獣人の鞭が何度も振り下ろされたのだ。起き上がることが出来ない村人は両手で頭を覆って、悲鳴を上げる気力すらなく、土に額を押しつけた。


「起きんか、こら!」


 ついに獣人は剣を抜いた。


「ウッ――」


 剣が村人の首に振り下ろされると唸ったノラが飛び出して行ってしまう。


「ノラ、駄目、戻って!」


 だが、遅かった。ノラは一気に崖を駆け降りると、半獣人間に襲い掛かってしまった。突然襲撃されて、顔を覆った獣人は唸り声を上げて手を振り回す。


「アラカザンヴォアラホシーー」


 レイラは呪文を発して風に乗り、ノラを救い出すとその場を離れた。


「ノラ、駄目じゃない、あんな無茶をしたら」

「…………」


 ノラは黙ってうつむいている。


「……あ、そうか、ごめんね、お前の気持ちは……」


 レイラは足元に来たノラの頭を優しく撫でた。

 しかし大勢の村人をレイラ一人で救い出す事は出来ない。

 その場を離れると、さらに周囲を調査し始めた。精霊界の北の外れで、謎の怪物が暴れているという情報である。


「怪物らしいものは居ないわね」


 その時、


「ウッ~~」


 ノラが何かの匂いに唸った。風の属性を持つレイラは、遥か先の変化も風に乗って来る情報で知ることが出来る。だがノラはそれ以上に匂いで、辺りの異常を感じ取っているのだ。


「どうしたの」

「ウッ~~」


 ノラの唸り声が止まない。


「何か近くに居るのね」

「…………」

「ノラ、今度は何が有っても、私がいいと言うまでは動いたらだめよ」


 レイラはノラを連れて辺りを調べ始めると、


「あれは……」


 川辺に、一人の女が水浴びをしているように見えたのだ。

 しかし近づくにつれ、その脚が鳥の脚であることにレイラは気付く。


「あれは……ハルピュイア」


 それはおぞましき怪鳥ハルピュイアだ。

 レイラはノラと共にそっと近づいて行く。だが、レイラが枯れ枝を踏んで音を立ててしまった。


「ガッ」


 怪鳥は振り向くと、しばらくの沈黙が続いた後だ、上げた片足をゆっくり前に出し、音のした方向に向かって歩いて来る。レイラとノラはブッシュに隠れているが、怪鳥はのすぐ傍まで来ると辺りを窺い始めた。


「匂うよ、誰か隠れているね」


 息詰まる瞬間の後、


「そこだ!」


 怪鳥がいきなりレイラに飛び掛かった。


「ガッ――」


 ノラが変身したのはその時だった。鋭い牙が怪鳥の喉をめがけて喰い掛かる。精霊となったノラの身体が膨れ上がる。レイラを放した怪鳥は、巨獣に変身したノラと激しい格闘を始め、すぐ両翼を広げて羽を逆立て威嚇を開始、隙を見てノラの背中から首にかけて鋭い爪で切り裂き、羽根が刃物のように飛ぶ――

 しかしノラも執拗に攻撃、羽ばたく怪鳥の翼に食らいつき、地面へ引きずり落とす。翼が風を巻き起こし、小石が弾丸のように飛び散った。優位な姿勢に立とうと、両者は転げまわり、飛び跳ねる。しかし人面の怪鳥にノラのような牙は無い。ノラの反転攻勢に、怪鳥はついに退散して行った。


「ノラ、すぐここを離れよう。あいつが仲間を連れてきたら厄介だわ」


 その後も調査を続けていたのだが、一向に進展はない。それにしても疑問なのは、あの追い立てられていた村人は、一体何処に連れていかれようとしていたのだろうか。レイラはさらに調査する範囲を広げてみる事にした。但し、あの怪鳥はレイラと同じように風に乗る事が出来るはずだから、行動範囲は被る。調査は注意深く続ける必要がある。だが、ここでレイラは全く逆の判断を下した。

 あの怪鳥を追えば、村人の行き先も分かるかもしれない。


「ノラ、あの怪鳥の後を付けるのよ」


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