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第14話 食人植物ボーンハブル


 アイダはジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女レイラを連れて歩いている。


「今日はこの辺りで野宿か」

「気味の悪いとこだなぁ」


 日が暮れてきたから野宿の場所を探さなければならない。だが辺りは鬱蒼と木々繁り、不気味な化け物さえ出てきそうな雰囲気である。


「この辺りじゃないか、人食い植物の生えてる森ってのは」


 アイダたち一向は、ボーンハブルの噂を聞いていた。人骨を集める食人植物として恐れられている妖怪である。その正体は、女吸血鬼の魔術によって邪悪な姿へと変えられた植物の精霊だという。

 ボーンハブルが泣くと、悪いことが起きる前兆ともされている。

 地元の農家では、ヤギや牛などの家畜が血が吸い尽くされて殺された噂も流れている。血液のほとんどが地面に流れ出て吸収されるため、まるで血を吸われたかのような死骸の姿になるのだと。


「まあ、そんな化け物植物が出て来たらおれ様が退治してやるがな」


 ゴリラのトゥパックが周囲を見まわしている。


「じゃあ念のために火を焚きましょう」


 アイダの指示で枯れた木々が集められて火を点けようとするのだが……


「ん?」

「火が点かないーー」


 湿気ているのか、全く火の点く様子がないのだ。


「駄目だわね」


 と、その時、


「何だ!」

「ワイナ」


 ジャガーのワイナが蔦に巻き取られて、空中でもがいているではないか。


「くそ!」


 トゥパックが剣を抜いて振るうも蔦まで届かない。


「トゥパック、元はあそこよ」


 アイダが指差す先に、人の胴のように太い蔦が何本も捻れ合わさる本体がいた。


「よし」


 トゥパックはすぐゴリラに変身すると、蔦によじ登ってゆく。

 蔦を何本も引きちぎる――


「ワイナ、今行くからな」


 だが、トゥパックが蔦を伝わりワイナに近づくと、


「ウグッ」

「トゥパック!」


 トゥパックも首に新たな蔦が巻き付き、吊るし上げられる。


「アラカザンヴォアラホシーー、ウッ……」


 今度は呪文を唱えようとしたアイダが首を蔦に巻かれてしまう。


「ヤロウ」


 そう叫んだキイロアナコンダの剣も簡単に蔦を切る事が出来ないで、絡まれ、身体の自由を奪われていく。蔦は植物であるが柔らかく、しなやかで、尚且つ意外に硬いのだ。唯一、レイラだけは難を逃れているが、変身した風では蔦から仲間を助けられない。


「アラカザンヴォアラホートシャザムスヴァーハー」


 精霊に変身したアイダが蔦から逃れると、再び呪文を唱えた。だがその時、

 森の奥で赤い目が光る。


「ふん、しょせん植物なんだね、だらしない」


 誰かの呟く声が聞こえた。

 そして別な呪文を唱える声に、森中の木々が悲鳴を上げるように揺れた。

 地面が震え、枯葉が宙を舞う。


「えっ」


 アイダが身構えると、


「おまえの自由にはさせないからね」


 蔦の背後から呪文を唱え続ける女吸血鬼が現れたのだ。

 赤い瞳、

 異様に長い爪、

 以前から噂になっていた吸血の鬼。


「アラカザンヴォアラホートシャザムスヴァーハー」


 アイダも懸命に呪文を唱え続ける。

 二人の呪文が森を震わせ、女吸血鬼の赤い瞳から血が流れ始める。

 レイラもアイダの横に立ち、呪文を放つ――

 互いに譲らない呪文合戦でが続いている。アイダの額にも汗が滲み、唇から血が流れた。身体が揺れ、ガクッと膝を地に着いてしまう。

 二対一となり、やがて女吸血鬼の口が裂け、赤い血がタラタラと顎を伝わり胸に滴り落ち始める。ついにその身体がやせ細ったようになり、バッタリと前に倒れた。


「アイダ!」


 レイラが吸血鬼の前で同じように倒れているアイダの身体を抱き起こす。


「しっかりして、アイダ」


 アイダが眼を開けた。


「……吸血鬼は……どうなったの……」

「あいつは倒れました」


 アイダはレイラの手を借りて立ち上がり、前を見た。女吸血鬼が倒れたまま動く様子がない。


「ワイナ」


 蔦に巻き取られてしまっていたワイナの身体が下ろされて来た。トゥパックも同様である。蔦の動きが変わってきているではないか。

 だが、五人が無事に揃ったと思えたその瞬間、


「トゥパック!」


 トゥパックが背後から、再び立ち上がった女吸血鬼に襲われたのだ。


「ンッ」

「ガッッ」

「この、ヤロウーー」


 振り向いたトゥパックが両手で女吸血鬼の首をガッツと掴んだ。


「ウグッウグッーーーー」


 ゴリラトゥパックの剛力に首を絞められた女吸血鬼の顔が、苦痛に歪んでゆく。やがてぶるぶると震え出した吸血鬼の身体、ゆっくりとその首が後ろに倒れた。呪文の激突で力を使い果たしていた女吸血鬼は、もはやトゥパックの剛力から逃れる力を残していなかった。

 これで一件落着、そう思われたその時、


「アイダ、後ろを見て」


 レイラが声を掛けた。皆の背後から蔦の精霊が現れたのであった。

 ワイナ、トゥパック、キイロアナコンダと全員が身構えると、その精霊が静かに語りかけて来た。


「皆さん……私がボーンハブルです」


 蔦の精霊の話に皆は聞き入った。


「私は人間を恨んでいたのです」

「…………」

「なぜ私達植物だけが人間の餌にならなければならないの。人間に切られ、燃やされ、踏みつけられた記憶が私を苦しめます。でも私は……ただ、誰かに分かってほしかっただけなのです」

「…………」


 皆は黙って聞いている。


「そんな私の憎しみにつけ込んだのが、あの女吸血鬼でした。思い上がっている人間に復讐してやろうと、恐ろしい言葉で持ち掛けられたのです」


 その結果いつのまにか私は、浅ましい食人植物となってしまったと泣き崩れてしまう。


「蔦さん」


 アイダは優しく声を掛けた。


「蔦さん、全てはこの女吸血鬼のした事です。あなたは操られていたのですよ。植物のあなたに罪は有りません」


 アイダはそうキッパリと言い切ったのであった。





 翌朝である。鬱蒼とした森にも微かな朝日が差し込んでいる。


「じゃあ皆んな、行くよ」


 アイダはジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、レイラを連れて歩き始めた。


「アイダ、後ろを見てごらん」


 レイラが声をかける。皆が振り向くと、全ての蔦が手を振るように揺れていた。


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