第11話 首なし犬の伝説
話はアイダたちが赤い目の魔術師ファイチヴォを倒した後から始まる。精霊界の北の外れで謎の怪物が暴れていると知らせを聞いて出かけたのだ。
そしてアイダがジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れて歩いていると、この村の前を通りかかった。
「これは調べる必要があるわね」
アイダたちが通りかかった村では無残な死体や、不可解な事件が多発していたのだ。静かな村で発見された死体を調べるアイダたちは、妖怪か魔物の仕業と推測した。
「詳しく教えて下さい」
村人の話では、数年前から不可解な事件がたびたび起きているのだという。
最初の事件は外を歩いていた村の若い娘が深夜突然襲われた。当然そんな時間に若い娘がなぜ外に出ていたのか、皆は不思議がった。
更に内臓を食いちぎろうとするまでなら、オオカミの類いだろうが……
そしてまた新たな惨劇が発生しようとしている。
「実は……」
ここ数日の事である、やはり若い娘が夜中に外に出ようとして、家人に何度も止められる例があるのだという。
それを聞いたアイダはピンときた。
「では私たちを家に隠させて下さい」
深夜である、
――やっぱり――
家の周囲に怪しげな生ぬるい風が吹いて、何かが娘の寝ている部屋に入ってくる。物の怪のような得体の知れない何かが、フワッと漂っている。すると娘の枕元に立ったそれが声を掛けた。
「娘よ、付いてくるがいい」
「はい」
娘には何かが見えているようである。
アイダは皆に、合図をするまでは行動を起こさないようにと念を押して、家人にも全てを任せて欲しいと言ってある。
妖の行く後から娘がふらふらと歩いて外に出た。淡い月明かりの道を歩いて行く。周囲に影絵のような景色が浮かんでいる。
妖と娘が行く後からは、アイダたちが悟られないようにそっと付けている。
すると、何やら前方に人のような者が立っているではないか。
「娘よ、よく来てくれたな」
「…………」
なんと娘はその若者のような者にそっと寄り添っていく。だが、その者が声を荒げた。
「違う、其方ではない!」
娘には見えていないのだろうが、それは明らかにまやかしである。その者の顔が苦痛に歪んでゆく。隠れていたアイダたちが姿を現し、声を掛けた。
「おまえは何者なの?」
「ンッ!」
アイダたちに気づいたその者の姿が変わり、真っ赤な口を開けた。その瞬間、風の悪魔少女が娘をさらった。
姿を現した魔物は、オオカミのような頭に蛇の胴体がついてうねっている。
「なるほど、それがおまえの正体ね」
「ガーー!」
唸り声を上げる魔物にジャガーのワイナが飛びかかってゆく。たちまち激しく闘いが繰り広げられて、ワイナの牙が魔物を傷つけた。
蛇の胴体を持つ魔物は、動きがジャガーに劣って見える。
魔物は低く唸ると、勝てぬと悟ったように逃げ出した。それを追うワイナをアイダが止めた。
「ワイナ、待って」
「…………!」
「あの魔物が何処に行くのか、後を付けてみましょう」
アイダとワイナ、トゥパック、キイロアナコンダと風の悪魔少女は、逃げて行く魔物の後を追っていった。
そこは古い橋のたもとである。魔物のすがたが見えない。
「何処に行ったのかしら」
「アイダ、これを見て」
風の悪魔少女がアイダを呼んだ。
「これは……」
そこに有ったのは、頭の無い蛇と、首を斬り落とされた犬の死骸であった。
アイダたちは村人から話を聞いた。話の内容はこうである。
ある日この橋を通りかかった、サムライとその娘がいた。娘を休ませている間に、サムライは用足しに森の中へと入って行く。すると残された娘のところに、一匹の野良犬が親しげに寄ってきた。
娘は優しくその犬を撫でていると、突然その犬が激しく吠えた。犬は娘の背後から忍び寄る蛇に気が付いたのだった。
犬は蛇の頭に食い付き振り回して噛み切ってしまう。
だが、悲鳴を聞いたサムライが駆けつけると、倒れている娘の側で暴れる犬を見た。
「この外道!」
サムライは刀を抜くと、一太刀で犬の首を斬り落としてしまった。
それからは、深夜になると村の娘を呼び出す魔物が現れるようになったのだった。
「でも魔物は言っていたわね」
――違う、其の方ではない――
「首を斬り落とされた犬は、優しくしてくれた娘さんを探しているのではないかしら」
犬の無念と蛇の怨念が橋の下で混じり合ったのだと。アイダは村人と話し合い、犬の供養をする事にした。アイダと風の悪魔少女は犬の死骸を丁寧に埋葬すると、優しく話かけた。
「あなたの事と話は理解したわ。首を切ったサムライは勘違いをしていたの。娘さんが襲われたとね」
「あなたに優しくした娘さんは、きっと今は悲しんでいるはずよ。もう関係のない村の娘さんを襲うのは止めてあげて」
その後村に魔物が現れる事は無くなった。
アイダは再びジャガーのワイナとゴリラのトゥパック、キイロアナコンダ、風の悪魔少女を連れて歩き出した。
「アイダ、見てごらん」
パーティーの後をついて来る犬がいるではないか。
「……おいで」
しゃがんだ風の悪魔少女が声を掛けた。近づいて来る犬は、じっとアイダと風の悪魔少女を交互に見ている。
「この犬はもしかして……」
犬の身体は月明かりに淡く透けていた。
「あなたは精霊なのね」
犬はアイダの前まで来ると、じっと止まって見つめ始めた。
「いいわ、付いていらっしゃい」
パーティーに新たなメンバーが加わった。犬が少女を見上げている。風の悪魔少女はこの忠実そうな犬に名前を付けてあげる事にした。
「そうね、あなたは野良犬だったんでしょ」
「…………」
「だったら、ノラにしましょう、どうノラ」
「…………」
声を掛けられて嬉しそうではあるが、無口な野良犬である。
「ノラ!」
突然走り出した少女が振り向き大声で呼ぶと、コケるようにダッシュして付いて行く犬に皆が笑った。
「ノラ」
今度はゴリラのトゥパックが呼ぶが、犬は少女の足元から離れようとしない。
「あ、こいつ、そうかおれより悪魔の方がいいんだな」
「悪魔なんて……」
「悪魔でなきゃ何なんだ」
「……私にもちゃんとした名前が有るんです」
風の悪魔少女の名前はレイラであった。
「何だ名前がちゃんと有ったんだ、だったら最初からそう言えばよかったじゃないか」
「だってあなたが一方的に私の事を悪魔悪魔って言い続けたでしょ」
「…………」
「ごめんなさいね、これからは貴女をレイラって呼ぶわ」
虹の精霊アイダが取りなすと、ノラが嬉しそうにレイラを見上げていた。




