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6話 交易都市エッガ2

「ふぃぃいいい~~」


軍議が長くなったので、皇帝に許しを貰い、抜け出していた。


皇帝が指示してくれた炊き出しの余りを貰うと、

拠点のすぐそこにある原っぱで、手を枕に横にならせてもらった。


渓谷から見える夜景は綺麗だ。


……どうやらこの国は、本当に終わったらしい。


半年前の魔族侵攻より、破竹の勢いで国を落とされ、数多くの都市が陥落している。

連絡も取れず、どうなっているのか分からない場所も多いらしい。

現在残っている戦える者も、国中の軍隊がばらばらに分断されたせいで、一部の地方有力者たちが抗っているのが聞こえる程度。


そんな状況で非常に不謹慎で申し訳ないが、ひとまずは安心してしまった。

今ここには大量の軍人さんたちがいるし、参謀の人たちも頼りになりそうだった。


乗せられていたけれども、実のところ皇帝と二人で都市を救うなんて、大それたこと、自信が無かったんだ。

小市民の身では、自分一人の肩に大勢の命が乗っているなんて状態じゃなくて、ほっとしてしまう。

——だから、ひとまずは安心だ。


「あまり余から離れすぎるな。探したぞ」


気付いたら枕元に皇帝がいる。

大勢に敬われているのを見るまで実感がなかったが、この国で一番偉い相手。ボクがここで生まれていたら、きっと口を利くのも難しい存在だ。

そう考えたら、急に不思議な気分になる。


「なぁ、皇帝。」

「どうしたトロールよ」

「だから違うってば」


思わずツッコむ。

少しの沈黙を挟んで口を開いた。


「あんまりぴんと来てないんだけど。軍議とかよそ者が同席していいの?」


国の行く末を決める大切な場。

発言することはなく、途中から皇帝も退出を許すなど気を遣ってくれたとはいえ、体験したこともないような重苦しい空気に、疲れ果ててしまった。


「……許せよ。あまり離れると死にかねんのでな。」

「えっ、どういうこと」


さらっと怖いことを言われる。

右も左も分からない中で、不穏なことを言われては困る。

正直、あまり恐ろしいことは嫌だ。


「怖がるな、死ぬのは余である。誰がお前のような明らかな強者に喧嘩を売るかよ」


軽く笑いながら続ける。


「先の将校の多数は穏健派でな、余に仕えてくれる者達であったからよいが、余は嫌われておる。この拠点でも、一兵卒から将官まで、敵は相当数いるだろう」


ずっと疑問だった。

初対面のときから、どうしてこんなに馴れ馴れしいのか。


皇帝は会ったばかりのボクなんかに取り入り、信用するしかないのだ。

それがボクにこの世界のしがらみがないからか、皇帝本人の信仰によるものかは分からないが。


「と、いうわけで。行くぞ」

「へ?」


頓狂な声をあげてしまう。

お風呂や寝所或いはトイレなど、どこか付き添ってほしいということだろうか。


「さぁ、出発だ。エッガを解放しに行くぞ」

「いやいやいや! 軍人さんたちと散々話し合ってたじゃないか! それにここの偉い人たちは仕えてくれて信頼できるって言ったでしょう」


慌てて返す。


「必要なのは情報だったからな。もうよい、エッガを解放するなら我らだけで十分だ。」


おかしなことを言っている。


「先も言ったが、余はもともと人気がないし、女々しくなよなよして国を亡ぼしたなど、軍人からは蔑まれておる。もたもたして、暗殺の準備を整えられたり、お前と離れた隙を狙われたら堪らん。余が安心して腰を据えるには、文句の言えない功績が必要なのだよ」


唖然としてしまう。

あまりに情けないことを明朗に言ってのけるものだから、雄々しささえ感じる。


「さぁ立て、このままだと余もエッガの民も無惨に殺される。人助けだぞ」

「ええええぇぇぇぇ」



エッガ内部。都市庁舎。


占拠された行政区画で、報告が行われている。

歓待用の豪奢な椅子に腰掛けるのは、少年の姿をしたエルフ。

虫の姿をした魔族に囲まれ、当然のように敬われている。


「立てこもりはどうにもならんか」

「はい。地上階は洗い出しましたが、大多数は塩山の坑道に潜っており、時には回廊の崩落すら厭わぬ抵抗を受け、難航しております。……完全な殲滅には時間がかかるかと」

「都市内部でも、一部の堅牢な物資集積区画に立てこもった各商会の護衛を中心に、散発的な抵抗も続いております」

「……面倒だな」


エルフは頬杖をつき、頬を膨らませ露骨に退屈そうに呟いた。


「魔王様の遷都宣言には、リモートで出るしかないか……」


給仕の虫人が恭しく皿を差し出す。

水と、生麦。

ポリ、と無造作に口へ放り込む。


「不味い」

「鍵を回収できた穀物庫では最上級の品ですが、やはり高級商会の貯蔵庫は固く閉ざされており……」


その時。

血みどろの指によって、扉が叩き開けられる。


「太守、覚悟——!!!」


言い終わる前に、閃光が散った。

轟音と共に、硝煙が吹き荒れる。


エルフは、立ち上がりもせず指を一つ動かしただけだった。

虫人たちが壁のように並び、その向こうでは部屋を飾っていた調度品が爆炎に粉砕され崩れ落ちる。


「僕たち最高位魔族たるエルフを殺していいのは、魔王様だけなんだよ」


爆発を聞きつけ、新たに部屋にぞろぞろと入ってきた虫人たちが、盾となった虫人の死体を引きずっていく。

チラと部屋を片付ける様子を見るが、すぐに興味を失ったように視線を逸らす。


「あと少しで、魔王様の楽園になるというのにな」


不機嫌な様子で、窓から塩山を眺める。

月明かりに照らされて白く輝く山肌には、無数の穴が穿たれている。

坑道だ。人間たちが掘り、逃げ込み、今もなおしがみついている場所。


その奥底に、まだ熱が残っている。


「地上は押さえた。水も物流も断った。それでも潜るか……」


小さく舌打ちする。

しかしその態度とは裏腹に、どこか楽しそうだ。


「邪悪な人間なんて絶滅すればいいんだ……」


虫人の誰かがぼそりと呟いた。

エルフはピクリと耳を動かし、一瞬だけ顔を顰める。


「まあ、いい。順番だ」



「ぶはッ!」


もぞもぞと土の中から這い出る。


交易都市エッガの裏手。

都市と半ば同化した塩山の内部。

半ば埋まっていた旧い地下坑道を掘り進み、坑道内部へ侵入した。


「ゼェ…ヒィ……ひと使いが……あらいよ」


肩の上から降りた皇帝が、軽く土を払う。


「よし、魔族どもをぶち殺すぞ」

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