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2話 火事場の馬鹿力1

困った。

大自然を見回しながら頭を抱える。


どうしたものか、さっぱり分からない。

辺りのものは小道具のように小さく、かといって人工物も自然も作り物ではありえない雄大さと精密さを誇っている。


「白兎もおにぎりも追いかけた憶えはないんだけどなぁ」


小人の世界に来たようだ。

何か話を聞けるだろう少女は、すやすやと寝息を立てて起きる様子はない。


困り果て洞窟の辺りを散策していると、自転車と買い物袋が少し離れたところに散逸している。

ひとまず荷物を回収しに行く。


「う〜〜ん、卵が割れてる… 勿体無い…。おっ、アイスまだ冷たいや」


自転車を立ち上げ、袋に食材を詰め直しながらひとりごちる。

バニラバーを口に咥えた。


どうしようかサッパリ分からないので、アイスを消費しながらぼんやりと自然を見渡す。

本当に雄大な世界だ。

小高い丘の上だからか、遥か遠くまでよく見える。

大瀑布に、密林地帯、連なる山々に、山々の合間にはレトロな村まで見える。


「——ん?」


よく見ると燃えている。

家屋にも火の手がかなり回っているようで、とうてい焚き火や焼畑をしているようには見えない。

目を凝らすと、家屋の中に人影が見えた。


頭が真っ白になる。

しゃにむに走り出した。



弟を抱きしめながら震えている。

窓からは家々に火をつけて周る魔族が、我が家に近づいて来るのが見える。

ニタニタとした顔と目が合ったので、急いで顔を引っ込める。


どうしてこんなことになったのか…


ーー半刻前


よく晴れた昼下がり、村一貫となって行う、ふさふさ羊毛刈り祭りの最中であった。突如、魔族ーー小柄な大人ほどの大きさをした黒虫のような怪物がやってきた。

多くの村人が町を見たこともない田舎では、一生縁がないほど華美な装いをした軍隊であった。


新しく村の辺りを治めることになったという、魔族軍の間使を名乗る男の呼びかけで、村の者は皆、並ばされていた。


「あー、お馬しゃん、ねね、お馬しゃん!」


四つの弟は無邪気に喜んでいる。

目立たないように、抱き上げて口を塞いだ。


「魔王陛下の勅命である!! 人間という病毒は断罪の誉れを得た!」


一際目立つ格好をした魔族の指揮官は、高らかに宣言する。


「魔王軍の快進により、貴様らの国は終わりである。よって各領土は太守猊下に一任された」


魔族の指揮官は細長い肢体を広げ、黒く照り輝く身体を顕示し、酔ったように村人へ語りかけている。


「猊下は貴様ら劣等種の人畜風情は、存在するだけで世を穢す病毒だと仰せだ! よって火焔滅菌を施す!!」


あまりにもあんまりな話だ。

堪らず村長たちが声を上げた。


「我々は支配に従います! 命だけは助けてください!」

「おまちくだされ… せめて子供達は…」


「先に断罪されたいか!いいだろう欲しがりさんめ!」


魔族の指揮官は、声を上げたものたちを軽く掴むと、次々に家の中に放り投げた。放り投げられたものたちは窓を破り、血だらけになって転がっていく。


「穢れを浄化してあげるのだから感謝してほしい。恨むのならば、我ら魔族に負けた貴様らゴミ共の国を恨め」 


指揮官は水筒を取り出すとビチャビチャと水を贅沢に使い、村長たちに触れた手を洗っている。


「ハッ!! かーーっぺッ! うーー汚い汚い。劣等種と話すなど貧乏くじだ。穢らわしい、穢らわしい、ゴミの服にも触れてしまった… 最悪だ!」


魔族の兵隊たちも、兜の隙間から汚いものを見る目を覗かせていた。

あまりにも冷たく嫌悪に満ちた目に弟が晒されないよう、背中に隠す。


「せめてもの慈悲だ! 諸共家に戻れ! 貴様らに関わる全てをまとめて送り出してやる」


村の皆は火の付いた松明に追い立てられ、適当な家々に押し込められていく。

そして魔族の兵士は出入りが出来ない様、板材を用いて扉や窓を次々に封鎖していった。


「念入りに扉を塞げ! 終わったものは家畜を運び出せ! さぁ、油を撒け! 火をつけろ! 」


私たちが、そんなに悪いことをしたのでしょうか

黒々とした煙に包まれ、部屋にも火が及んできた。


せめてもの抵抗に、換気のために開けた窓から魔族を睨みつける。


その魔族は最初は嫌悪の表情を浮かべていたが、こちらが見ていることに気がつくとニタニタと笑い、下品なハンドサインを片手に、燃えた木片を投げつけてきた。


たまらず部屋に戻るが、そこはすでに煙と炎だらけであり、まともに下がることもできない。

弟を抱えて窓辺に寄り、身体を魔族が投げる木片からの盾とする。弟は既に意識がない。

魔族に霞む目を向けると、ニタニタとした顔と目が合い、涙が溢れる。


次の瞬間、部屋に大量の砂が次々に放り込まれてくきた。


「ゲホッゲホッ!!」


何が何だかわからない。口に入った砂を吐き出す。

弟と共に砂から這い出てると、見る限り村中を包まんとしていた火の手が弱まっており、未だ残る火を消さんと巨人が奮闘していた。


家のすぐ下を見ると、唾を吐いていた魔族は踏み潰され平らになっていた。

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