49.王位簒奪です!
結論から言うと、品評会は大成功だった。使い魔の能力で作ったパンなんてと馬鹿にしていた貴族たちが、パンを口にした瞬間手のひらを返したように褒めたたえる。私はフワリンが認められたようで嬉しかった。
「お疲れ様、クリスタ。……しばらく一人にならない方がよさそうだね」
ルート神官と一緒にレヴィーたちの元へ戻ると、周囲から視線を感じた。狙われてるな、と思う。幸いだったのは、まだ品評会は続いているから軽い雑談以外は許されないことだ。それがマナーなのである。
パンを買うには神殿に掛け合う必要があると、さっきルート神官が宣言してくれた。神殿は貴族に忖度しないから、落とすのは難しい。なら私に気に入られて直接仕入れればいいと考える貴族は多いだろう。
依頼は神殿を通すようにとは言われても、私が好意でパンを渡すなら問題にはならない。今後この奇跡のようなパンを手に入れることはステイタスとなる。この世でたった一匹の使い魔にしか作れない極上のパン。希少性も話題性も抜群だ。
「やっぱり知らない友達が増えそう」
「学校では気をつけなきゃね」
私の呟きに苦笑するレヴィーに、ルート神官も笑い出す。
「クリスタさんがいいと思ったら、差し上げていいですからね。神殿からは購入希望とその理由をまとめたものをお渡ししますが、値段をつけるのは相手側なので高額な依頼と仲のいい家からの依頼以外は断ることをお勧めします」
なぜ値段を相手側が決めるのか、それは使い魔の能力を搾取されないための神殿の決まりだ。オークションみたいなものらしい。私はとりあえず王家とは契約を結んでいるし、あとはキャンディたちの家を優先させるくらいでいいかなと思っている。
あとは気が進まないけど、父に言われたら渡すしかないだろう。父はちゃんとお金払ってくれるかな。一応娘だから、父が主催するイベントにはパンがないとおかしい。いくら私のことを放置しているといっても、たぶん納品するように言われると思う。
思わずため息をつくと、ファルマ侯爵が出てきた。ミスティア様も一緒だ。品種改良をしたブドウで作ったジュースの説明をすると、試飲が始まる。
「フワリン。ブドウジュースだって。飲む?」
フワリンが目を輝かせて「へっぷ」と鳴くので、使用人から二杯ジュースをもらった。
王家には品評会に出た本人が試供品を渡す決まりだ。ミスティア様が自らボトルを傾けてグラスに注ぐ。
毒味のためにミスティア様が一口飲むと、王家の方々も口をつける。
「フワリン。美味しい?」
首をかしげたフワリンは、あまり気に入らなかったらしい。グラスを使用人に返したその時、何かが割れる音がした。壇上に目を向けると、王妃が首を押さえて苦しんでいる。国王の手からもグラスが落ちた。
その後ミスティアさまの体が揺れて、頭から床に落ちてゆく。人ごみに邪魔されて、壇上から落ちたミスティア様がどうなったのかはわからない。
「え……?」
深い沈黙と狂騒が同時に訪れたようだった。父がゆっくりと壇上へ歩く。悲鳴の中で、国王を見下ろす父の口元が笑みを形作るのが見えた。
「毒……」
キャンディが震える声で呟いた。ファルマ侯爵は、父の右腕。まさか父が、王家の人間に毒を盛ったというのだろうか。
姉が、口元を押さえて目を見開いた。そうだ聖女である姉には毒は効かないはず。治癒の魔法も使えるし、きっと大丈夫。そう思っていると、父を見つめる姉の瞳が黒く濁った。遠くから見ても目立つ、光り輝く聖女の宝石眼が、色を無くす。そして姉はそのまま床に崩れ落ちた。
「な、んで……」
わからない。何が起こっているのだろう。
阿鼻叫喚のホールに、父の叫びが轟く。
「国王は死んだ。今日から私が王となる! 今こそ歴史を正す時だ!」
ホールが、一瞬にして静まり返る。誰もが信じられないという目で、壇上を見ている。いや、笑っている人もいる。父の派閥の人間だろう。
父が国王の遺体を踏みつける。野心と愉悦に満ちた瞳がギラギラと光って、視線だけで人を殺せそうな凶暴さが見えた。
「あの時私を殺さなかった。お前の落ち度だ」
二、三度。国王の背を骨が折れそうなほど踏みつけて、父は笑う。確かな狂気がそこにはあった。
興味を無くしたのか父の視線がホールの客たちに向けられると、幾人かの貴婦人がふらりと倒れる。ホールの空気は地獄のように冷え切っていた。
胸に抱くフワリンを潰れそうなほど抱きしめる。「へっぷ」という間の抜けた声に、少し安心した。
「ここに集いし貴族らよ。今より私がこの国の王だ! 平伏せよ」
父の叫びが空気を揺らす。その時、父の背後にきらりと光る何かを見た。
区切りの都合上短いです。




