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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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48/56

48.レシピはお高いです!

 しばし雑談していると、王族の入場の音楽が聞こえてくる。先程父と義母が入り口からホールに入ったので、本当に王族とその婚約者だけの入場だ。五百はいる着飾った貴族達がいっせいに頭を下げる光景は、どこか薄気味悪く感じた。


「楽にするといい。本日は年に一度の品評会。一年の成果を報告し合う大切な行事だ。この会場に集まったみなにとって有意義な時間となるよう努めよう。では、グラスを掲げよ。ネオライト王国の未来のために、乾杯!」


 王の挨拶の最後、事前に渡されたグラスを空に掲げる。昼間だけど室内には明かりがともっているので、グラスに注がれたジュースがキラキラと光を反射して綺麗だ。

 ジュースを飲んでいると、一人目が呼ばれる。最初の発表は新しい染色技術で染めた織物だ。とうとうと語られる宣伝文句をどの貴族も楽に聞いている。一部目を光らせる貴族もいるが、そういう人たちは多分後で商談を持ちかけるつもりなんだろうな。

 発表の時間は決まっているから、早々に次の商品に移り変わる。今度は小麦の栽培に関する研究をしている人だ。研究成果の発表のようで、少し難しい。


「出番は最後の方ですが、緊張していませんか?」


 ルート神官が退屈そうな私を見かねて声をかけてくれる。私はほとんど喋らなくていいと言われているし、大丈夫だ。使い魔の説明をするルート神官の方が緊張するんじゃないかな。

 次は新しく品種改良に成功したリンゴの発表で、カットされたリンゴを盆にのせたたくさんの使用人が現れた。参加者一人一人にリンゴを配っている。私のパンも同じように配られるのだろう。


「パンの準備をするので、そろそろ裏に。キャンディさんも私たちの前ですから、一緒に行きましょう」


 ちなみに今日の品評会では小さい使い魔しか入れない。キャンディもトットを置いて来たそうだ。確かにこの人込みで猫を放したら誰かに踏まれてしまうだろう。見かける使い魔は飛べるものかバックに入るものくらいだ。


「キャンディも発表には参加するの?」


「ちょっと手伝うだけだよ。発表はお父様がするから」


 大規模な水アメの製造開始と試食。砂糖が高価なこの国ではきっと盛り上がる。立て続けにフワリンのパンを発表するから、きっとみんな虜になるだろう。


 発表者の待機部屋へ行くと、配布する試食やサンプル品をたくさんの使用人が仕分けしていた。せっかく焼きたてのまま保管していたパンだけど、配られる頃には冷めてしまっていそうだ。


「これ、お願いします」


 私は口を大きく開けたフワリンが吐き出したパンを、使用人に渡した。めちゃくちゃな光景に使用人は完全に引いている。というか怯えている? 

 いつものことだけど、フワリンはそれを面白がってわざと数回に分けてパンを吐き出していた。パンに手を伸ばす使用人の手が震えていたのは、見間違いじゃないと思う。

 

「キャンディ!」


「あ、お父様」


 キャンディがそう呼んだのはキャンディより薄い桃色の髪のおじさんだった。キャンディの父にしては少し年齢が高い気もする。


「クリスタ、紹介するね。あたしのお父様だよ」


「はじめまして、クリスタ・フィストリアと申します」


 淑女の礼をして顔を上げると、キャンディのお父さんは目を見開いて、浮遊しているフワリンを捕まえた。


「君があのクリスタか。この使い魔は素晴らしい。一度研究したいものだ。ああ、水アメの件も感謝する。実に面白い活用法だ。私自身、パンは主食であって菓子ではないという固定観念に囚われていたようだ」


 フワリンをもみくちゃにしながら早口でまくしたてる姿は知的好奇心に囚われた時のキャンディに似ている。親子だなぁと思った。

 

「口の中を見せてほしいのだが」


 そう言われたフワリンは口を開ける。前に試してみたけど、フワリンが入れようと思わなければ空間には入れないらしく、手を入れても何もおこらない。キャンディのお父さんもそれに気がついたみたいで「興味深い……」と呟いている。

 フワリンは大人しくされるがままになっているけど、嫌じゃないんだろうか。もしかしたら大好きなトットの家族だから拒まないのかも。いつもトットのベッドか乗り物みたいになっているから。キャンディにもしぶしぶ付き合ってあげてるものな。


「ところで前に教えてくれたジャムのレシピだが、こちらで買い取らせてもらう。金額はこのくらいでどうだろう?」


 しばらくフワリンをもみくちゃにしていたキャンディのお父さんは、数枚の束ねられた紙を取り出す。受けとってみたら契約書だ。私はその契約書に書かれた金額に、開いた口が塞がらなくなった。


「足りないか?」


 そう問われて何度も首を横に振る。書かれていた金額は、貴族街に家が一件建ちそうなものだった。レシピは高く売れる。それは本当のことだったみたい。こんなに高いと思わなかった。


「足りたならよかった。今後も君と契約を交わす機会は多くなるだろう。水アメの活用方法をもっと知りたいのでな。そちらに関してはキャンディに任せているが、いい取引ができればと思っている」


 キャンディを見ると、いたずらが成功したみたいな顔をしている。小さく出された舌に悔しさを覚えた。フワリンは「腕が鳴るぜ」と新たなレシピ開発に前向きなようだ。この二人は結構いいコンビなんだよね。人を困らせて楽しむタイプだから。


「さて、もう出番だ。行くぞ、キャンディ」


 発表の順番が回ってきて、キャンディたちはホールに出て行った。砂糖に代わる安価な水アメを販売すると発表すると、ホールは歓声に包まれた。ただ平民にも買える価格に設定すると言うと、嫌そうな顔をしている人もいる。甘いものは貴族の特権だから、平民には不要と考えている人だと思う。

 だけどジャムが試食用に振舞われると、みんな顔が明るくなった。私も使用人にジャムの乗ったスプーンをもらって食べた。


「これはガーデンの子が喜びそうですね」


 ルート神官はこんな時もガーデンの子供たちを気にしている。子供たちがみんなお菓子を食べられるようになったら嬉しい。私もそう思う。


「今度ガーデンでお菓子の炊きだしをしてもいいですか?」


 ふと思いついて聞いてみると、ルート神官は嬉しそうに笑った。未来の楽しみが増えて私も嬉しい。


「フワリン、その時はよろしくね」


 まかせろと言わんばかりに腕の中に飛んできたフワリンを抱きしめて、名を呼ばれるままにホールに足を踏み出した。多くの貴族の視線がいっせいにフワリンに向けられて、ホールがどよめく。気持ち悪いという声が聞こえて、ムッとした。フワリンは確かに謎の生き物だけど、愛嬌はある。こうなったらフワリンのレシピで作ったパンを、絶対においしいと言わせてみせる。私はフワリンを撫でて、まっすぐに顔を上げた。


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