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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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43/56

43.フワリンがご機嫌です!

 ウィズレッドくんの家出騒動から数日。フワリンはなんというか、毎日ご機嫌だった。「へぷい!へぷい」と鼻歌を歌い、トットにちょっかいをかけては猫パンチを食らう。くるくる回って目を回すこともあった。

 一週間もするころには私だけではなく、キャンディたちまで異変に気がついた。

 今日は特に機嫌がよくて、授業中に鼻歌を歌って先生に怒られている。

 

「フワリン。帰るよ」

 

 家に帰ってパンでも焼こうと思っていたら、フワリンがテレパシーを飛ばす。「お前らも来い」とキャンディとレヴィーとモニークに伝わったようで、三人とも喜んでついてくる。

 

「フワリンが呼ぶってことは新作だよね! 楽しみ!」

 

 キャンディはここ一週間、フワリンが新しい料理を教えてくれないことに不満そうだった。「今は修行中だ」とフワリンは言ったが、フワリンはこれ以上キメラ化できないはずだ。今までの能力を強化することはできるのかもしれないね、というのはキャンディの考察だ。

 一週間ぶりのフワリンの新作を、みんなで予想しながら帰るのは楽しい。とくにレヴィーはここのところ毎日のように魚の干物をくれた。フワリンがとても喜んでいたから魚料理かも。

 

 家に帰ると、ジュリー先生が出迎えてくれた。台所に行くと先生が隅に絨毯を敷いてくれる。ショコラとトットはその上で寝っ転がってくつろいだ。スイミーはずっとモニークの腕にくっついている。

 

「さあ、フワリン、何作るの?」

 

 フワリンは口から大きな水瓶を取り出した。なんだか見覚えのある瓶だ。あの初めて菌類生成を見せてくれた時のことを思い出す。

 

「フワリン、これ数か月かかるって言ってなかったっけ?」

 

 不思議に思ってフワリンに問いかけると「へっぷい!」と胸を張る。台所に残されたリンゴの皮を飲み込むと、数秒置いてまた吐き出した。その皮は干からびてしわしわになっている。

 

「まさか……時間を早める亜空間を作れるようになったの!?」

 

 キャンディはフワリンの暗黒の口をこじ開けて中を覗き込む。進化した能力について調べたくてたまらないのかもしれないけど、よくそんな怖いことができるなと思う。

 それにしても時間を早めた空間なんて、だいぶ怖ろしい能力だ。時間を止めることができるのだから早めることも可能なのだろうけど、人間が入ったらどうなるのかと考えるとぞっとする。

 

「じゃあこれ、もう食べられるの?」

 

 修行の成果を見せつけたくてたまらないフワリンが「最強の調味料のできあがりだ」とキャンディから逃げながら伝えてくる。へえ、これ調味料なんだ。

 

「これ、なんだか魚を塩漬けにして放置したやつに似てるなぁ」

 

 レヴィーがふたを開けて匂いを嗅いでいる。レヴィーの故郷にも似たようなものがあるのかな。これは魚じゃなくて大豆から作ったんだけど、覗き込んだら真っ黒でびっくりした。

 フワリンが布でこして使うというので、小さな壺に布を張ってそこに瓶の中身をお玉ですくって入れた。

 

「なんだか香ばしい香りがするな」

 

 こしてできた液体で壺がいっぱいになると「しょうゆ」だとフワリンが教えてくれた。そして口から白米を取り出すと、おにぎりを作るように命令してくる。フワリンを追いかけまわして質問攻めにしているキャンディを放置して、レヴィーとモニークでたくさんおにぎりを握った。

 出来上がると「へっぷい」と口から小魚の干物を取り出したフワリンが映像を送ってくる。どうやら小魚を煮込んで、またこすみたい。フワリンいわく「だし汁」を作るんだって。魚が主役じゃないんだね。

 出来上がっただし汁としょうゆを混ぜて火にかける。そこにお酒とお砂糖を少し入れたら完成だ。

 フワリンが口から炭と網を取り出す。今川焼の時に作ってもらった焼き台で火を起こして、油を塗った網を上に置いた。「焼きおにぎりだぜ」と大はしゃぎするフワリンと、それを捕まえようとするキャンディで台所は騒がしい。

 

「前のせんべいとは違うのか?」

 

 モニークが網の上におにぎりを並べながら首をかしげる。潰してないからせんべいみたいに硬くはならないと思うんだけど。

 おにぎりを並べると、フワリンが口から刷毛を取り出した。前にねだられて買ったやつだ。なんで画材を欲しがるんだろうと不思議だったけど、料理に使うものだったらしい。

 刷毛にさっき作った液体をつけて、おにぎりの両面にたっぷりと塗っていく。塗れば塗るほど香ばしい匂いがして、ソワソワする。

 

「いい匂い!」

 

 フワリンを質問攻めにしていたキャンディも、匂いを嗅いで戻ってきた。「焼きおにぎりー!」と叫びながらフワリンもやってくる。

 そろそろ焦げそうだなと思ったその時、フワリンが焼きおにぎりを一個吸い込む。「故郷の味だ……」と呟いたフワリンは、なんだか寂しそうだった。

 そもそもフワリンの故郷はどこなんだろう。ソレイル神のところかな。

 

「早く食べよー! お腹空いた!」

 

 キャンディが待ちきれないと、モニークからトングを受け取っておにぎりをお皿にあげる。フワリンは吸い込めるからいいけど、私たちはやけどしかねない熱さだから少し冷まさないと。

 お皿に盛った焼きおにぎりからはおいしそうな匂いがしている。魚でとっただし汁としょうゆの匂い。我慢できなくなって、みんなで目を合わせるといっせいにおにぎりを掴んだ。

 熱いけど、齧り付いてハフハフしながら食べる。お米の甘さにこんがり焼けたしょうゆと砂糖の甘じょっぱさがよく合う。鼻を抜ける魚の香りは生臭くはなく、今までこの味を知らなかったことを後悔するには十分だった。魚のいいところだけを抜き出したような繊細な味に、しょうゆのうま味がよくなじんでいる。

 炭火で焼いたせいで少し焦げている部分もあるけど、それがまた嫌な味ではない。むしろ焦げていることで香ばしさがプラスされてよりおいしくなっているような気がする。

 

「しょうゆっておいしいね。フワリン」

 

 フワリンは「へぷぷっぷ!」と次々焼きおにぎりを吸い込んでいる。「これで料理の幅が広がるぜ」と上機嫌だ。

 次は何を作るつもりなんだろう。なんとなくしばらくしょうゆを使った料理になりそうな気がする。

 

 そんなことを考えていた私はまだ知らなかった。フワリンが時間を早めた空間を作れるようになったために、発酵が必要なパンや吸水が必要な米の調理速度があがり、大量のパンと米を毎日料理する羽目になることを。

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