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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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38/56

38.あなたは誰ですか?

 上機嫌で帰ったのはいいが、家には医者のケールさんが来ていた。父が定期的に私の健康診断をするためによこす人だ。

 私はこの人が苦手だ。いつも笑顔だが、なんだか私のことを人形のように思っているように感じる。

 

「クリスタお嬢様。ハンターとして森に入ったそうですね。それを知って、お父上は心配していましたよ。怪我でもされたら一大事ですから」

 

 父親が私の心配をするなんて思えないのだけど、定期的にケールさんが来て私の診察をするから一応気にはかけているのか……

 

「フワリンがいるから大丈夫です」

 

 私の近くをふわふわ浮遊していたフワリンを見ると、ケールさんは感情のこもらない目でフワリンを観察する。

 

「ほお、これが特殊な使い魔ですか。噂には聞いていましたが、本当に毛玉なのですね」

 

 フワリンは「へっ……」と鳴いて部屋の中を飛んでいる。なんだか態度が悪い。ケールさんのこと、嫌いなのかな?

 

「さあ、お嬢様。お部屋に行きましょう。今日は念入りに定期検診しますよ。使い魔も診てあげますからね」

 

 ケールさんはそう言ったが、フワリンはケールさんを一瞥すると部屋を出て行った。検診されるのは嫌なんだな。特殊な使い魔だから医者も困るだろうし、今日は私だけにしてもらおう。

 

「……しかたがありませんね。私も特殊な使い魔を検診した経験はありませんし、何かあったら呼んでください」

 

 私はケールさんと私室に行く。ベッドの上に寝転がるとケールさんがいつもの香炉を焚きはじめた。

 天井を見つめる視界がぐるぐると回って、意識がなくなってゆく。

 

 私はこの時はいつも、同じ夢をみる。夢の中は真っ暗で、誰かの泣き声が聞こえる。とても寂しくて、悲しい。

 泣き声は歳を重ねるごとに小さくなってゆく。まるで私と一緒に大人になって、声を殺して泣くことを覚えたように。

 いつも泣き声の主を探し出そうとするのに、見つからない。それがとても歯がゆくて、最後には神に祈るのだ。どうか彼女を助けて下さいと。

 

 そうして今回も同じようにして目が覚めた。検診を終えたケールさんが今回も健康だと告げて帰り支度をしている。

 この検診に意味はあるのだろうか。私は医者ではないからわからない。

 でもなぜか、ケールさんに夢のことは話せなかった。医者なのだから検診中のことは伝えるべきだと思うのに、話すことにためらいがある。

 あなたはいったい誰なのだろう。どうして私の夢に出てくるのだろう。

 

「そうでした。お嬢様。どうか危険なことはなさいませんよう……お父上が心配なさいますからね」

 

 なにか、焦っているように感じるのは気のせいだろうか……。私の体に、何か問題でもあったのだろうか。でも健康と言った言葉に嘘は無さそうだった。

 フワリンが部屋に入ってくると、ケールさんはまた静かにフワリンを観察しだした。「へっぷ」と鳴いたフワリンが私の腕の中におさまる。一瞬、フワリンとケールさんの視線があった。ケールさんは不自然に目をそらすと部屋を出ていく。

 

「フワリン。ケールさんに怖がられてる?」

 

 腕の中のフワリンは胸を反らして「へっぷぷ!」と偉そうだ。まるで遊びに勝った子供のようだ。「ぷへっへっへっへっ」と暗黒の口を少し開けて笑うフワリンは、まるでいじめっ子だ。

 いったいどうしたのだろうか。

 

 ケールさんを玄関で見送ると、もう遅い時間になっていた。慌ててジュリー先生の元に走る。

 

「ジュリー先生、食べてほしいのがいっぱいあるんです!」

 

 まだ夕食を食べていないことを期待して、思いっきり先生に抱き着くと、優しい顔で笑ってくれる先生に安心する。

 私は熱々のまま保管してもらっていたカツサンドと色々な味の今川焼をフワリンに吐き出させて、三連休の間にあったことを話した。

 

「第二王子殿下に腕をふるうよう言われたのですか……それくらいでしたらきっと大丈夫でしょう。しかし、あまり近づきすぎないようになさいませ。先程ケール医師にも、お嬢様の交友関係に関してしつこく聞かれましたから……王弟殿下もお嬢様があまり現王派閥と親しくなることは望んでいないはずです」

 

 ジュリー先生は私の話をハラハラしながら聞いていたがけど、王子が私の事情をくんで、最小限の交流でとどめておいてくれたことに安心したみたい。

 

「父はフワリンのことは気にならないんでしょうか?」

 

 私はジュリー先生に聞いてみた。特殊な使い魔を召喚したということは結構なニュースだ。私は父なら積極的に政治利用したがるのではないかと思っていたのに、何の命令もないことに拍子抜けしている。

 いくらフワリンの特技が料理だからって、利用価値はいくらでもあると思う。それこそ第二王子がやろうとしているように、特殊な使い魔が作った不思議な料理を振舞うパーティーを真っ先にやれば社交界で話題になるだろう。

 

「……それは私も妙だと思っています。王弟殿下はフワリンに対してあまりに慎重すぎる。まるで何かを警戒しているのではと感じます。……失礼しました。これは完全な憶測ですね」

 

 ジュリー先生の憶測は、間違っていないのではないかと思う。私が特殊な使い魔を召喚したことは父にとってはあまりいいことではなかったのかもしれない。

 そう考えると、なんだか怖い。父が何を目的に動いているのか、まったくわからなくなるからだ。

 フワリンを見るケールさんの目を思い出す。あの警戒心に満ちた目はなんだったのか。

 

「フワリン、何もしてないよね?」

 

 フワリンはそっぽを向いて口笛を吹いた。誤魔化すの下手すぎない? というか口笛なんて吹けるのか。あの暗黒からどうやって音を鳴らしているのだろう。

 なんにせよ、フワリンは確実に何か知っている。それを私に言うつもりはないみたい。ジト目でフワリンを見ると、フワリンは甲高いこえで「へっぷ」と鳴いて体を傾ける。大きな目は上目づかいで、まるで幼女のような媚びの売り方だ。

 

「それ、可愛くないよ。フワリン」

 

 私が言うと、フワリンは怒って何度も顔にぶつかってくる。それほんとに痒いんだってば!

 ふわふわの毛に鼻をくすぐられ私が大きなくしゃみをすると、フワリンは「へぷぷー」と楽しそうに逃げてゆく。

 結局ごまかされてしまったけど、フワリンは私のために何かしているのだと思う。人をからかって遊ぶのが好きだけど、優しい子だから。

 

「ソレイル神に感謝しないと」

 

 そう呟くと、ジュリー先生が微笑んで私の頭を撫でる。先生の胸ポケットに入っているハムスターのナナも、今川焼のかけらを頬袋に詰め込みながら私を見る。

 この三日間色々なことがありすぎて少し不安な気持ちになっていたけど、フワリンがいればきっと大丈夫。

 

 息を吐いたその瞬間。どこかから「いいな……」と聞こえた気がした。ああ、きっと夢の中の子だ。

 一瞬、胸が締め付けられるように苦しくなった。でもすぐに、霞のようにその感覚は霧散する。

 あなたはいったい誰で、どこにいるのだろう。気にはなったけど、私は首を振って忘れることにした。

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