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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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34/36

34.味方が増えました!

「できたわ! さあ、みんなで食べましょう!」

 

 できあがったスープは細かく裂いた干し肉に、野菜の皮まであますところなく使ったとても安上がりな代物だ。塩だけで味付けしたシンプルなものだけど、フワリンが「へぷ」と感心しているから、それでもおいしくなるように工夫されているんだと思う。

 

「ガーデンでは慈善活動に使える金額が決まっているの。人に頼って生活している子供たちに、高価な物を与えるのは違うもの。炊きだし一回で使える金額は多くないから、なるべくおいしくなるように工夫したのよ」

 

 姉の手から器によそわれたスープを受け取る。湯気からはとても安心する匂いがする。家庭料理の嗅ぎなれた匂いだ。

 少し口に含むと、干し肉と野菜の風味がスープに溶けだしていて薄味ではあったけど美味しかった。

 

「パンを出しますね」

 

 スープがゆきわたったのを見て、フワリンにお願いする。フワリンは口を大きく開けると、作り置きの丸パンを取り出した。パンは作った直後にフワリンの口の中に入れたから、焼きたても同然だ。

 パンを配ると、王子は色々な角度から観察して失望したような顔をした。見た目はただのパンだもの、フワリンの能力に期待していたけれど当てが外れたと思っているのだろう。

 顔色が変わったのは、丸パンをちぎった時だ。その柔らかさに驚く王子を見て、私はほくそ笑んだ。王子が何か言おうと口を開いたが、それより先に姉が私に詰め寄ってくる。

 

「クリスタ! このパンはどうやって作るの! 私にも作れるかしら!?」

 

 興奮した様子で私の肩を掴む姉になんと返したものかと逡巡した。

 

「……このパンは、フワリンの能力がないと作れません」

 

 そう言うと、姉は深く息を吐き残念そうにしていた。きっとこのパンをガーデンの子供たちに食べさせたかったのだと思う。

 

「……素晴らしいパンだね。クリスタ。ぜひ今度城の晩餐会でその腕を振るってほしい。頼めるかい?」

 

 ああ、王子に初めてフルネームで無く名前を呼ばれたな。多少は使えそうな人材だと思ったのだろう。姉だけでなく私も現王の陣営に組み込んで王弟派をけん制するには、王家が用意した席で私の能力を披露する必要がある。姉の様に婚約という形でなく、料理を作らせる程度なのは私が庶子だからか。

 なんにせよ、私にとって損はない。むしろいい塩梅の提案だと思う。

 現王家に能力を認められるということは、もし父がなにかしでかしても私のことを守ってくれると言われているのと同義なのだ。王子は私が政治的な問題に巻き込まれたくないと思っていることを察して、逃げ道をくれたということである。その代わりに少し現王のために働けと、そういうことだ。

 

 私はフワリンを見る。「へっぷ」と鳴いたフワリンは、この展開を予想していたみたい。作り置きはパンより米の方が多かった。それなのにパンだけを出せと言ったのは、フワリンがいないと作れないものだったからだ。それが王子が認めるほどの希少価値を生んだ。

 

「いつでもお呼びください。殿下」

 

 そう言うと王子は満足そうに笑った。あからさまに態度が軟化している。王子は膝の上に乗せていたタヌキにもパンをあげると、スープをすすった。

 その隣で、ミスティア様はどうでもよさそうに食事している。王弟の娘である私が、現王のための仕事を頼まれていても気にならないみたい。やっぱり何かがおかしい。

 

「……なあ、クリスタ。米のこと、聖女様に教えちゃだめか?」

 

 私が考え込んでいると、モニークが耳打ちしてきた。モニークは王子と合流してから口数が極端に減っていた。たぶん政治的なことがわからないから、失言をしないように黙っていたのだろう。

 私はフワリンに、米の炊き方を姉に教えてもいいか聞いてみた。米は誰にでも炊ける。きっと王子も安価で仕入れられる米が食べられるとわかれば飛びつくだろう。民の食生活を守るのも王侯貴族の義務なのだから。

 フワリンは「へぷ!」と了承してくれた。口からおにぎりを吐き出して、姉の元へ飛んでゆく。

 

「まあ、クリスタ。これは何? 見たことのない料理だわ」

 

 王子に認められた今、姉と距離をとる理由は薄くなった。今までは父親にも関心を持たれない庶子だったから、誰も守ってくれない中で権力闘争から逃げ回るしかなかったのだ。しかし王子が認めてくれたことで、逃げ場ができた。

 まあ姉は闘争の中心人物だから、近づくと面倒ごとに巻き込まれるのは変わらないけど、気分的にはだいぶ違う。

 

「それ、米なんです。神殿では家畜を育てるから知っていますよね? エサとは思えないくらいおいしいので食べてみてください」

 

 私がそう言うと、姉はとても驚いていた。私もフワリンもこんな風に驚いてくれるのを楽しいと思っている。きっと一口食べるだけで、毛玉メシの虜になってくれるだろう。

 

「お前。家畜のエサを聖女様に食べさせるだなんて、死にたいようね」

 

 ミスティア様が、怒り狂って私を怒鳴りつける。しかし姉は、私の言葉を信じたようだ。

 

「大丈夫よ、ミスティア。さっきのパンもおいしかったもの。それに米が食べられるなら、あの子たちも毎日お腹いっぱいになれるわ」

 

 姉はその美しい宝石目を輝かせてチャーハンのおにぎりを口にした。シノア様と王子は興味深そうに見ているが、ミスティア様は汚らしいものを見る目をしている。

 

「……ねえ、クリスタ。これは私にも作れるかしら?」

 

「作れますよ。フワリンが、レシピを教えてもいいと言ってくれました」

 

 おいしかったと、その顔が示している。王子もシノア様も、一口食べた。私はモニークとキャンディとレヴィーと一緒に、にやにやしながらその光景を眺める。フワリンの料理のおいしさを、私たちは誰よりも知っているもの。

 

「キャンディ・サード。これの作り方を効率的に広めるにはどうしたらいい?」

 

 王子がキャンディに問いかける。問いかけの体だがサード家への命令と同義だろう。

 

「市場が混乱しないよう調整が必要です。父に相談します」

 

 キャンディはできないことをできると言わない。自分の手には余ると判断したから、持ち帰ることにしたのだろう。

 

「レシピは、他国の人間である僕にも教えていただけるのでしょうか? アール王国でも、米が食べられたら助かる人が大勢います」

 

 シノア様が王子の顔色をうかがいながらたずねる。この国をあげて米を普及するというなら一枚噛みたいと思っているのだろうが、シノア様は聖人だ。おそらくあまり政治というものに詳しくないので、尻込みしているのか。

 フワリンが「へぷぃ」と鳴くと、シノア様と王子と姉に初めてテレパシーを送った。

 

「ソレイル神の御心と知れ」

 

 聖人であるシノア様と姉は、とっさにひざまずいた。王子は何か考えているようだ。

 私はフワリンのいつもと違う様子に少し困惑していた。特殊な使い魔であるフワリンは、ソレイル神とのつながりが深いのだろうと気がついてはいた。

 もしかしたらフワリンは私が思っているよりずっと、ソレイル神に重大な使命を与えられているのかもしれない。

 なんだか怖くなって、浮遊しているフワリンを捕まえる。両手でぎゅっと抱きしめると、いつものように「へぷぅ?」と鳴いた。……うん、フワリンはフワリンだ。

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