表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/37

32.今すぐ逃げ出したいです!

 木の陰から顔を見せたのは、私の姉のアンネマリーだ。他に二人、小柄な女子と背の高い男性がいる。

 

「まあ、クリスタ! モニークもいるのね!」

 

 私とモニークを見て、姉は喜色満面だ。神秘的な宝石眼をキラキラ輝かせて私の手を取ろうとしてくる。なんで聖女である姉がこんな森の中にいるのか。

 私が思わず一歩引くと、姉は悲し気に伸ばした手を戻す。そして祈るようなポーズでその美しい目を涙でにじませた。

 

「そうよね、ごめんなさい。私つい嬉しくて舞い上がってしまって……この間も悪かったわ。思えば私が一方的に約束したのだもの。クリスタの都合を考えていなかったわ。クリスタだって、クラスのお友達と昼食を食べたかったわよね」

 

 そういうことではないのだけど、姉が勘違いしてくれているならわざわざ本当のことを言う必要はないだろう。

 

「でも私もクリスタと仲良くなりたいの。たった一人の妹だもの……」

 

「もったいないお言葉にございます……」

 

 落ち込む姉へ、なんとか絞り出した言葉がこれだ。姉に悪意が無いのはわかっているから良心が痛む。でも距離を置いていたい気持ちに変わりはない。

 私が微妙な顔をしていると、後ろにいた男の人が姉の肩を掴んだ。そのままチラリと私を見る目に背筋が冷たくなる。貴族らしい金髪に青い瞳の整った顔をしたその人は、私に敵意を持っているみたいだ。その腕に抱かれたタヌキも、私を睨んでいる。

 

「アンネマリー、この子が君の妹かい? 紹介してくれるね?」

 

「まあ、メレディス様。この子が私の妹のクリスタですわ。とはいっても、私も一度しか会ったことがないのですが……」

 

 メレディスという名には心当たりがある。姉の婚約者である第二王子だ。ならば先ほど向けられた敵意にも納得する。

 彼は現王家の人間だ。王弟の娘である私は敵と言っていい。姉はのんきに笑っているが、王子の方は常に姉を警戒しているのだろう。一見笑顔で姉と話しているけど目に温度がない。

 

「はじめまして、クリスタ・フィストリア。私はメレディス・ネオライト。この国の第二王子だ。……君たちは久しぶりだね」

 

 私のことは警戒している様子だけど、キャンディたちには普通に接している。恐らくパーティーなどで会ったことがあるのだろう。モニークは平民だし、キャンディとレヴィーは中立派の派閥だ。王子にとってはそれほど身構える必要はない相手ということか。

 ちなみに王子は姉よりも二歳年上だ。私の四歳上ということになる。けれども学校の入学を二年遅らせて、姉と同じ学年で学んでいるのだ。表向きは婚約者を心配してということになっているが、正確には姉の監視のため。肝心の姉は恐らくその事実に気がついていない。

 

「それが君の使い魔かい? 空間魔法を使えると聞いたよ。すばらしいね」

 

 それ呼ばわりされたフワリンが「へっぷぷ」と不機嫌そうに鳴く。王子的には敵である王弟の娘が、建国王の使い魔に近い能力を持った特殊な使い魔を召喚したことは痛手でしかないのだ。フワリンのことを忌々しいと思っていても不思議ではない。

 どんな言葉を返したらいいのかわからなくて沈黙していると、にゃーと興奮した鳴き声が聞こえた。

 振り返ると、トットと毛足の長い猫が喧嘩していた。近くにいたキャンディが猫をトットから引きはがす。

 

「あらごめんなさい。ラビアンは美しくないものが嫌いなの」

 

 くすくすと、もう一人の少女が笑い出す。キャンディが舌打ちをして少女を睨みつけた。

 

「相変わらずだね、ミスティア・ファルマ。美しくないのはあなたの方でしょ? 自分が戦わずに使い魔をけしかけるなんて、陰湿なやり方。 侯爵令嬢としての誇りはないの?」

 

 キャンディがそう言うと、ミスティアと呼ばれた少女の顔から笑顔が消える。

 ファルマ侯爵家は王弟派閥の筆頭だ。元々軍に強い影響力を持っていた家だったけど、現王によってその力を削がれた。それでもまだ貴族家としては落ちぶれてはいない。過去に幾度か王家の血が入っているからだ。王家と同じ金髪の豊かな髪はその証である。

 どうやらキャンディと仲が悪いみたいだけど、何があったんだろう? 中立派と争っても王弟派にとってはマイナスでしかないと思うんだけど。

 

 キャンディに言い負かされたミスティア様を見て、王子は笑った。その笑顔に含まれるのは間違いなく侮蔑の感情だ。

 現王の息子に、その政敵である王弟派閥の筆頭。悪意に鈍感な聖女に、他国の聖人。色々な意味で怖すぎる組み合わせに私は戦慄する。さっきまでの平和な時間を返してほしい。

 

「あの、殿下。皆さまはどうしてこんなところにいるのでしょう?」

 

 レヴィーが空気をかえようと話題を提供してくれる。こういう時、レヴィーはとても頼りになる。

 王子は柔らかに微笑んで、その疑問に答えた。

 

「この森にソレイル神の聖地である湖があるのは知っているな。聖女には、定期的にその湖を浄化してもらっている。……それに彼、シノア・ミューズ様も同行したいということだったので、王家の護衛付きで来たんだ。ついでにアンネマリーがハンターの真似事をしてみたいというものだから、護衛には今離れてもらっているんだ」

 

 ハンターの真似事という言葉には嫌味がふんだんに込められていた。王子も嫌々許可したんだろうな。

 それよりも、ミューズという家名に驚いた。アール王国のミューズ家といったら、この世界で最もソレイル神に愛された家だ。一番最初の聖女が生まれた家で、一説によるとソレイル神がその聖女に恋をしたためにその血筋の永遠の繁栄を約束したのだという。

 そんなアール王国の宝ともいう存在に何かあったら大変だ。だから王子も同行しているのかな。

 そんなことを考えながらシノア様の方を見ると、なぜかシノア様は食い入るように私を見つめていた。いったいどうしたのだろう。

 

「そうだわ! 私たち、今日はDランクのセーフゾーンに泊まるのよ。あなたたちもよね。一緒に行きましょう!」

 

 姉のあまりの空気の読めなさに、私は閉口した。王子とミスティア様の目がとても怖い。よくこの中で笑っていられるな。シノア様も苦笑いしているから、聖女がみんなこうだということはないみたい。

 私たちは顔を見合わせて、なんとか逃げる方法はないかと考えた。このメンバーで楽しく狩りなんてできるはずがない。

 しかしいい言い訳が思いつかず、私たちは彼らと同行することになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ