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白色毛玉とおいしいもの食べ隊!  作者: はにか えむ


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31/37

31.どちら様です?

「もうダメ! あたし魔力切れ」

 

 翌日の昼間、今日はルビーさんたちから離れてグループだけで狩りをしていた。使い魔たちとモニークはまだ元気だけど、キャンディとレヴィーは疲れ切っていた。私も正直体力の限界だ。森の中ってとても歩きにくい。

 太陽はまだ真上にあるので狩りを止めるには早すぎるけど、休憩しないと動けないほどに消耗している。

 

「少し休もう。みんな森に慣れていないからしょうがないさ」

 

 一人だけ疲れた様子が全くないモニークが、周囲の安全を確認してくれる。私たちは倒木の上に座って天を仰いだ。

 

「フワリン、お水ちょうだい」

 

 しょうがないなとばかりに「へぷっ」と鳴いたフワリンが口から人数分のコップを出して、魔法でキンキンに冷えた水を注いでくれた。

 その水を一気に飲み干して息をつく。フワリンは使い魔たちにも水をあげていた。

 

「この辺りはCランクの領域に近い。少し警戒しておいたほうがいいかもしれないな」

 

 周囲を見回したモニークは、近くの木に結びつけられた紐を見つけると地図を出して場所を確認する。ハンター協会では紐の色と結び方でハンターたちが自分の居る場所を把握できるように工夫しているのだ。森で迷子になったら大変だから、とてもありがたい。

 トットが水を飲みながらニャっと鳴いた。大丈夫と言っているようだ。

 

「さっきトットが鑑定してたよ。たぶんここには動物の痕跡が薄いから、くつろいでるんだと思う」

 

 キャンディは、恐らくトットは鑑定魔法で野生動物の痕跡を探せるのだろうと言っていた。動物の行動範囲は大体決まっている。ここを縄張りにしている動物はいないのだろう。

 

「そうか? なんだか物音がするから、近くに何かいるのかと思ったんだが……」

 

 モニークの身体強化は五感の強化も可能だ。森を歩くときは聴覚や嗅覚を強化しているみたいだから、本当に何かいるのかもしれない。レヴィーが腰にはいた杖を抜く。何かが近づいてきたらすぐに魔法で威嚇できるようにだ。

 モニークは物音がするという方向にさらに耳を澄ませた。

 

「あ、多分人だ。大丈夫そうだな、他のハンターだろう」

 

 モニークがホッとしたように倒木に座った。レヴィーも杖をホルダーに戻して、コップを手に取る。私たちはしばらくの間休憩した。

 疲れた体にお日様の暖かさがしみ込んで眠気を誘う。私たちは油断しすぎていたのだと思う。隠密に長けた固有魔法を持つ魔物が存在することが頭から抜け落ちていた。

 

 最初は羊だと思った。突然近くの茂みが揺れて、そこから全身が灰色の毛に覆われた大きな体が飛び出してくる。その生き物はものすごいスピードで私に迫ってくる。

 

「クリスタ!」

 

 真っ先に反応したモニークが手を伸ばしたが、手が届くよりも私がその生き物に押し倒される方が早かった。

 私はなすすべもなく目を閉じて身を固くする。食われる。そう思った。

 

 しかししばらく待っても痛みがない。頬には確かにぬめりとした濡れた感触があったし、獣の呼吸も聞こえる。私は固く閉じていた目を開けた。

 

「犬……?」

 

 口の周りも目も、灰色の太い毛糸のような毛に覆われているが、それは確かに犬だった。なぜかしっぽをブンブンと振って、私の頬を舐めている。

 モニークが私に手を伸ばした体勢で固まっているのがわかった。キャンディとレヴィーもどうしたらよいのかわからないという顔をしている。

 犬は私の頬を舐めるのに飽きたのか、ちぎれんばかりにしっぽを振ったままおすわりした。私は混乱したまま起き上がる。

 

「あーもう、びっくりした! 誰の使い魔よ、これ!」

 

 私が無事だったことに安堵したキャンディが叫ぶ。その顔はまだこわばっている。そうとう驚いたのだろう。私だって驚いた。

 

「クリスタ。大丈夫か?」

 

 モニークが服についた土をはらってくれるが、私の心臓はまだバクバクと脈打っている。犬はキューンと鳴いてうつむいた。私にはその姿が反省しているように見えて、思わず犬の頭を撫でる。

 心臓がやっと落ち着いて、ため息がこぼれた。犬は大人しく撫でられていて、こちらへ攻撃する様子はない。近づいてくるまで気配がなかったことと、攻撃してこないことから間違いなく誰かの使い魔であるとわかった。

 

「誰か来る」

 

 私の無事を確かめてから、杖を取り出して周囲を警戒していたレヴィーが呟いた。レヴィーが見る方向から、小さく声がした。

 

「すみませーん」

 

 今度はちゃんと気配がある。遠くから近づいてくる複数の人間がいる。がさがさと大げさに音をたてているのは向こうもこちらが人間だとわかっているからだ。ハンターには動物と間違えられて攻撃されないように、他のハンターに近づくときのマナーがある。

 木の陰から現れたのは、歳の近そうな黒髪の男の子だ。その目を見て、みんな息を飲んだ。

 

「宝石眼……?」

 

 その瞳は七色に輝く宝石眼だった。フワリンが魔法を使った時と同じ、そして私の姉とも同じ色だ。

 それは彼が治癒と浄化の力を持った聖人であることを意味する。この国には聖女または聖人は姉しかいないはずなのに。

 

「アール王国からの交換留学生……?」

 

 キャンディがポツリと呟いた。アール王国はソレイル神が初めて降臨なさった聖地。ソレイル神の寵愛を受ける聖女または聖人が、最も多く生まれる聖国だ。

 彼は私と目が合うと、じっと私を見つめた。まるで時が止まったかのようにその瞳の輝きから目を離せない。長く見つめあっていたような気がする。いやもしかしたら一瞬だったかもしれない。

 私の前にいた犬が一声吠えると、男の子の方へ走っていった。その鳴き声で我に返って、男の子が口を開いた。

 

「……申し訳ありません。使い魔のマリが急に走りだして、ご迷惑をおかけしてしまいましたか?」

 

 礼儀正しく腰を折り紳士の礼をしてみせるその子は、間違いなく貴族だ。キャンディが交換留学生と言っていたから、同じ学校に通っている上級生なのかもしれない。

 こちらが口を開こうとすると、彼の背後から彼を呼ぶ声がした。

 

「シノア様? マリは見つかりまして?」

 

 その声を聞いた途端、間違いなく私の顔は歪んだだろう。一度聴いたら忘れない、小鳥の様に甘い柔らかな声。私は今すぐにその場から逃げ出したくなった。

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