30.使い魔の好物は魔物でしょう?
「ルビー先輩。なんかすっげーうまそうなの食ってますね」
たくさんカツを堪能してお腹が重くなったころ、セーフゾーンに居た他のハンターの男性がルビーさんに話しかけた。
「あらパルマ、久しぶりね。この子達、今日がハンターデビューなの。色々心配だったから指導したら、ごちそうしてくれたのよ」
どうやらパルマさんというらしい男の人はちらりとこちらを見て、固まって休んでいる使い魔たちにも目を向けた。なんだか警戒されているみたい。私たちが貴族だからだろうか。
「モニークも一緒ってことは学生さんたちっすか? なんかすげーいい匂いがしたんで、つい気になっちゃって……」
パルマさんはちらちらとこちらを見ている。普通平民から貴族に声をかけることはない。無礼と取られかねないからだ。だから私たちが寛容な貴族なのか、見極めたいのだろう。
フワリンが私の近くに飛んできて「へっぷ!」と鳴いた。テレパシーを使ったわけではないけど、私にはフワリンの考えが理解できた。
「よければ少し食べますか? 新しく揚げるので、他の皆さんもどうぞ」
私がそう言ったとたんパルマさんの目が輝いた。元々言葉の駆け引きだとかが苦手な素直な人なんだろう。なんだか大型犬がしっぽをふっているように見える。
パルマさんの後ろにいた他のハンターさんたちも、ちょっとソワソワしているみたい。十人以上いたから、自分も食べられるのかと気にしているみたいだ。
フワリンはその様子を見てご満悦だ。「おいしいものはみんなで」がフワリンのモットーだから、たくさんの人に興味を持ってもらえるのが嬉しいのだろう。
「わー、ありがとうございます! 俺らもうずっと気になってて! ちゃんとお金は払いますから!」
パルマさんが他のハンターを手招くと、みんなで自己紹介タイムが始まった。全員と面識のあったモニークが率先して私たちのことを紹介してくれたから、見知らぬ貴族への警戒心は解けたみたい。その場にいたハンターは四組ほどで、みんな平民だったけど楽しく話すことができた。
お金がわりにお肉をくれる人もいて、料理も手伝ってくれた。そうして出来上がったカツサンドをみんなで食べる。みんな毛玉メシの虜になったようで、フワリンが夢中になって食べているハンターさんたちの上空を嬉しそうに浮遊している。
「そういえば、食事のお礼に今日狩ったウサギの魔物、あなたたちにも分けてあげるわ。使い魔たちにあげたいでしょう?」
ルビーさんがカバンから解体された肉と小瓶に入った血を取り出す。使い魔のキメラ化に必要不可欠な魔物の肉と血は、使い魔を持つ人の間で高値で取引されるのに、もらってしまっていいのだろうか?
「魔物の肉も血もすぐに腐るからいつも売らずに食べてるの。……うちのルディア、なかなかキメラ化してくれないのよね。自分で狩った魔物は一通り食べさせたんだけど、やっぱり難しいの。はじめからキメラ化してるフワリンが羨ましいわ」
ルビーさんがため息と共にこぼすと、マリアスさんもうんうんとうなずいた。使い魔を持つ二人は、今までに何度も試したことがあるみたい。
「私も何度か自分で狩った魔物の血を飲ませたけど、駄目だったな」
一人だけ特例により数年前に使い魔召喚を済ませたモニークも、スイミーには何度も魔物の血を与えているそうだ。それでも、キメラ化する気配は無いのだという。
最初から何の魔物のキメラなのかわからないくらい大量の能力を持ったフワリンを召喚した私には、そのロマンを完全に理解することは難しい。
「僕、ショコラに魔物の血を飲ませるのは初めてだよ。ほらショコラ、飲める?」
レヴィーが平皿に魔物の血を入れると、ショコラは興奮してキューキューと鳴いた。使い魔は草食や昆虫食でも、魔物の血だけは喜んで飲むという話は聞いていたけど、本当に嬉しそう。
キャンディも魔物肉を与えようとして、興奮したトットに爪をたてられている。スイミーはあまり変化がないけれど、目を見開いてじっとモニークを見つめていた。
「フワリン、お肉だよ。焼いた方がいい?」
私もフワリンに魔物肉をあげようとしたけど「へぷっぷ」と拒否されてしまった。火を通さないと駄目なのかと思って焼こうとすると、これも邪魔されてしまった。
「もしかしてフワリン、魔物肉が嫌いなの?」
私が問いかけると、フワリンは「へぷぃ……」と鳴いてそっぽを向いてしまった。他の使い魔たちを見ると、みんなとても幸せそうに魔物を食べている。
どんな使い魔でも魔物を好んで食べると授業で習ったはずなのに、フワリンはとても嫌そうだ。
「あーあ、やっぱりキメラ化は無理みたい」
キャンディとレヴィーとモニークは、残念そうにしている。主に反して使い魔たちは満足そうだ。
やっぱり魔物肉を食べないなんておかしいよね。どこか悪いところでもあるのだろうかと心配になる。
「フワリンはどう?」
好奇心いっぱいの目をしたキャンディがフワリンを捕まえる。私が事情を話すと、キャンディはしばらく考え込んだ。
「……お腹がいっぱいだと、それ以上食べたいなんて思わないよね。もしかしたらフワリンはすでに限界まで進化した個体なんじゃないかな?」
キャンディの言葉にフワリンは「へぷっぷーへっぷぃ!」と悔しそうに鳴いた。まさか本当にこれ以上能力を増やせないのだろうか。
「体にいいものというか、自分の体に必要なものはおいしく感じるから、使い魔にとって進化を誘発させる魔物はごちそうに思える。でもフワリンはもう進化の余地がないから、魔物肉を食べても栄養過剰でおいしいと思えないんじゃない? フワリンはよくわからない口の構造をしてるけど、味覚はあるみたいだし……」
フワリンは「ぺふ……」と鳴くと地面に落ちた。キャンディの言ったことはどうやら図星らしい。トットがにゃーんと鳴いてフワリンを前足でパフパフ叩く。「へぷうう……」と悲痛な声が上がった。
「大丈夫だよ、フワリン。フワリンは今のままでも十分すごいよ! 私の自慢のフワリンだよ!」
「まあ、これ以上能力はいらないわよね。今のままでも災害級だもの……」
私が一生懸命フワリンを励ましていると、あきれ返った顔をしたルビーさんが呟く。内容は全く否定できない。
みんなで不貞腐れたフワリンをなだめすかしていると、カツサンドを食べ終わったハンターたちが興奮気味に近づいてきた。
「めちゃくちゃ美味かったっす! 料理を教えてくれるなんて、すごい使い魔っすね!」
パルマさんを皮切りに、口々にカツサンドのおいしさを語るハンターたちを見て、フワリンは自尊心を取り戻したようだ。「へぷ!」と鳴くと私を急かして、みんなの明日の朝食を作るよう要求してきた。
こうしてはじめての冒険の夜はふける。ハンターのみなさんにも手伝ってもらって、およそ二十人分の朝食を完成させるとクタクタになってしまった。
でもみんなで料理を作るのはとても楽しい。学校に入学してから毎日が嬉しいことばかりだ。
私はテントに入ると、フワリンを枕にして横になった。一緒のテントに入ったキャンディとモニークが、不服そうにしながらも枕になってくれているフワリンを見て笑った。そういえば誰かと一緒に寝るなんて何年ぶりだろう。
その時の私は、明日非常に面倒な出来事が起こるなんてまだ知らなかったのだ。




