短編集No.022 宗教
世界にはいくつもの宗教がある。70年くらい前までは、多くの人がどこそこの宗教は間違っているだの、自分たちの宗教がただしいだのと言って争っていたという。
しかし私はそれを解決してくれるお方に出会った。
トキヒサ様は、世界は神の怒りに触れ、言語と宗教をいくつもの種類に分けられてしまったとおっしゃっている。
私はよくわからないが、バベルというとても高い建造物が、神様の領域にまで踏み込んでしまったらしい。
それに怒った神様が、世界中の人々に争いの種を植えつけたと聞いた。
「ああ、最初は一つの言葉、一つの宗教だったのに。なんて人間て愚かなのでしょうか」
トキヒサ様の説経は、いつもこの言葉で始まる。
何百、何千、何万年も前にこの広大な地球を支配していたその宗教は、まさしく世界宗教だったのだろう。
私たちは、本当の宗教のために戦わなければならない。
* * * * *
ここ最近、私たちの生活を脅かす厄介がある。
トキヒサ・チャンという推定五十代の宗教家が開いた世界教は、ほんの五年ほどで瞬く間に地球中に広まった。
唯一の救いはあまりにも荒唐無稽で知識階級人が信じていないことだろうか。
しかしそれも今までなのかもしれない。
武装警察は管轄下のアンドロイドを使ってどうにか押さえ込もうとしているが、世界教側も武装を始めたという話はあまりにも広まりすぎた。
しかし、多くの人がこれらに無関心な現状は、一政治家として私は危惧をしている。
そういえば最近は、若者が入信するケースが増えていると聞いたな。
久しく家に帰れていない。娘は大丈夫なのだろうか。
そうだ、今度の議会で何人かと意見を交換しておこう。
プライベートルームを手配するように、秘書にメッセージを書き残そうか。




