それぞれの気に留めること
森での採取を終えて、教会へと帰ると外で洗濯物を干していたのか、ミリシャが大きめの籠を両手に抱えて、教会の中へと入るところだった。
「あら、エイレーン。お帰りなさい」
「ただいま。片付け、終わったところ?」
「えぇ。そういえば、さっきロアも帰ってきていたわよ。今はイリシオスと一緒に釣ってきた魚を天日干しにするからって、捌いているみたい」
額に浮かぶ汗を手の甲で軽く拭いながら、ミリシャは楽しそうに答える。
「へぇ、ロアって料理も出来るのね。それなら、明日の朝食は期待できそうかしら?」
「ふふっ。そうね。……エイレーン、何か良い事でもあったの?」
ミリシャが顔を覗き込むように聞いてきたため、エイレーンははっとして、口を真っ直ぐに結びなおす。
「え、どうして?」
「だって、朝に比べたら、表情が柔らかくなっているもの」
彼女の目の鋭さに驚きつつも、エイレーンは小さく笑って、先程の出来事を話すことにした。
「実はね、森の中でこの前、私を追ってきた人に会ったの」
「えっ!? 大丈夫!? 何かされてない?」
ぐいっと近づけられる顔には、不安と心配が混ざり合っていた。
「だ、大丈夫……。それでね、ちゃんと話し合ってきたから、とりあえずは……大丈夫、かな」
だが、他にも自分を探している異端審問官がいるため、完全に安心するにはまだ早いだろう。
「そうなのね……。うん、でも良かった。あのね、ずっと心配していたの。この前のエイレーンってば、凄い形相だったから、あの人に嫌な思いでもされたのかなって……」
少しだけほっとしたような表情をするミリシャにエイレーンも笑みを返す。
「ありがとう、心配してくれて……」
「でも、嬉しそうなのは、それだけじゃなさそうね」
ミリシャは何か意味を含めた笑みを浮かべ、口元を隠す。
「ねぇ、良かったら、今度、その人を教会へ連れてきて? 一緒に夕飯でも食べましょうよ。それに、どんな人か気になるわ」
何かミリシャは勘違いしているようだが、この際は置いておこう。
「えぇ? うーん……。まぁ、一応、聞いてみるけど、あんまり期待はしないでね?」
異端審問官が普段、何をしているのか知らないが、ここへと訪れる時間はあるだろうか。
それよりも見たところ、クシフォスの性格上、人と関わることが苦手なような気がする。
「さて、夕飯の支度でもしてくるわ。ロアの釣ってきた魚、少し余っているといいんだけれど」
「たくさん釣ったって言っていたから、少しくらい夕飯に使っても大丈夫だと思うわ。私はこの辺りを軽く箒で掃いてから手伝いに行くわね」
「えぇ、ありがとう」
出来るだけ、皆が喜ぶものを作りたいと思う。それなのに、ふと脳裏に浮かんできたのはクシフォスの後ろ姿だ。見た目の割にかなり細身だったがちゃんと食べているのだろうか。
……なぜかしら。彼は自分を追ってきていた人なのに、どうして気になるんだろう?
その理由はまだ分からない。でも、会って、話をしていけば、自分に納得のできる答えが見つかるかもしれないとエイレーンは自分で気付かないうちに笑みを零していた。




