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「覚醒できない最強の界紋もちの俺、なぜか層界で騎士見習いとして生きることになった」  作者: 翔飛龍髙
第一章

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第6話

第6話 「名前」

 触れられたところだけ、熱が残っている。

 それ以外は、やけに冷えていた。

 腕を動かす。

 遅れる。

 少しだけ。

 噛み合っていない。

 ――昨日より、ひどい。

 視線を落とす。

 手の位置が、わずかにずれて見える。

 合わせる。

 合わない。

 合わせ直す。

 それでも、少しだけ遅れる。


 息を吐いた。

 浅い。

 吸う。

 遅れる。

 気持ち悪い。

 でも、

 ――慣れてきている。

 それが一番、嫌だった。


 布の音。

 近づいてくる。

 顔を上げる。

 アリアがいた。

 いつもと同じ顔。

 何も言わない。

 視線だけが、こっちを見ている。

「……座って」

 短い。

 命令みたいに。

「別に、平気だ」

「うるさい」

 一歩、近づく。

 距離が詰まる。

 反射的に、少しだけ身体を引いた。

 その動きに、アリアの視線が落ちる。

 腕。

 止まる。

「……見せて」

「だから、平気だって」

「見せて」

 同じ言葉。

 強さだけ、少し上がる。

 黙る。

 腕を差し出す。

 自分の動きが、少し遅れる。

 それを、見られている気がした。

 触れられる。

 指先。

 冷たい。

 その瞬間、

 ずれていた感覚が、無理やり引き戻される。


 噛み合う。

 急に。

 乱暴に。

 足が、ちゃんと地面を踏む。

 呼吸が揃う。

 視界が、重なる。

 戻った。

 でも――

 完全じゃない。

 奥の方で、何かがまだずれている。

 押さえつけられているみたいに。

 違和感だけが、残る。


「……」

 アリアは何も言わない。

 ただ、触れたまま、少しだけ力を入れる。

 確かめるみたいに。

 離れない。


「……お前」

 言いかける。

 やめる。

 代わりに、

「……なんでやってる」

 別の言葉になる。

 視線が一瞬だけ動く。

 すぐ戻る。

「別に」

 短い。

「任務」

 それだけ。

 指が、少しだけ強くなる。

 痛くはない。

 でも、

 離れない。

 数秒。

 そのまま。

 やがて、

 ゆっくりと手が離れる。

 さっきまで噛み合っていた感覚が、

 少しだけ、またズレる。

 完全には戻らない。

 さっきの位置が、正しかったのかも分からない。

 でも――

 さっきの方が、楽だった。

「……あんまり動くな」

「動かないと訓練にならねえだろ」

「壊れるわよ」

 即答。

 少しだけ早い。

 視線が逸れる。

 横。

 それだけ。

 また戻る。

 何もなかったみたいに。

「……壊れてもいい」

 口から出た。


 意識していない。

 アリアの動きが止まる。

 一瞬だけ。

「……よくない」

 小さい。

 さっきより低い。

 でも、

 はっきりしていた。


 沈黙。

 風の音だけが通る。

 距離が、少し近い。

 離れない。

 そのまま。

 アリアが、口を開く。

「……蓮」

 止まる。

 一瞬。

 反応が遅れる。

「……あ?」

「何でもない」

 即答。

 少しだけ早い。

「聞き間違い」

 視線を逸らす。

 横。

 そのまま戻さない。

 沈黙。

 短い。

 でも、

 さっきより長い。


 名前。

 今、呼ばれた。

 確かに。

 でも、

 もう戻された。

 なかったことみたいに。

 なのに――

 耳に残っている。

 その音だけが。


「……」

 何も言わない。

 言えない。

 そのまま、

 アリアが立ち上がる。

「行くわよ」

 いつもの声。

 変わらない。

 さっきのことなんて、なかったみたいに。

 背中を向ける。

 歩き出す。

 一歩。

 地面を踏む。

 少し遅れる。

 でも、

 さっきよりは、マシだった。


 視線を上げる。

 前を行く背中。

 少しだけ、

 近い。

 距離は変わっていないのに。

 さっきより。

 ほんの少しだけ。

 そのとき、

 胸の奥で、何かが引っかかった。

 さっきの接触とは違う。

 もっと奥。

 界紋のあるあたり。

 じわりと、

 何かが“馴染む”。

 広がるわけじゃない。

 ただ、

 静かに、

 そこに“いる”感覚。

 消えない。

 むしろ、

 前よりはっきりしている。

 ――まずい。

 理由は分からない。

 でも、

 分かる。

 これは、

 ()()()()()()()じゃない。


 前を行く背中が、少しだけ止まる。

 振り返らない。

 でも、

「……遅い」

 それだけ言う。

 歩き出す。

 何もなかったみたいに。

 足を動かす。

 追う。

 一歩。

 ズレる。

 でも、

 止まらない。

 そのまま進む。

 ――さっきより、怖くない。

 それが、

 一番、嫌だった。

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