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「覚醒できない最強の界紋もちの俺、なぜか層界で騎士見習いとして生きることになった」  作者: 翔飛龍髙
第一章

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第4話

 騎士団の建物は、外から見るよりも静かだった。

 中に入った瞬間、音が薄くなる。

 足音だけがやけに響く。

「こっち」

 アリアの案内は短い。

 振り返りもしない。

 石の廊下を抜けるたびに、空気の重さが変わる。


 さっきまでの街とは違う。

 ここだけ、何かが“整いすぎている”。

「……慣れないな」

 小さく呟くと、アリアが一瞬だけ横目で見た。

 それだけで終わる。

 会話にはならない。

 長い階段を下りる。

 降りるほど、空気が冷えていく。

 そして――

 扉。

 鉄の扉だった。

 周囲だけ、明らかに違う材質。

「入るわよ」

 アリアが迷いなく開ける。

 その瞬間だった。

 空気が変わる。

 重い。

 視界が一瞬だけ揺れる。

 中は広い部屋だった。

 だが、広さの感覚がおかしい。

 奥行きが掴めない。

「……ここ」

 言いかけて、言葉が止まる。

 部屋の中心。

 そこに、何かが“浮いている”。

 人の形。

 でも、存在の仕方が違う。

 立っているのに、床に触れていない。

 影だけが遅れている。

「界膜反応体」

 アリアが短く言う。


 それ以上の説明はない。

「訓練用よ」

「……訓練?」

 その瞬間だった。

 “それ”が動く。

 いや、動いたように見えた。

 次の瞬間には、距離が詰まっている。

 ――速い。

 理解する前に、体が反応する。

 踏み込む。

 同時に、世界が一瞬だけ“遅れる”。

 違和感。

 まただ。

 森、街、あの界喰いと同じ。

 ズレ。

 その一拍の中で、手が届く位置に入る。

 拳を振る。

 空気を切る感触。

 ――当たる。

 確信があった。


 次の瞬間、衝撃。

 遅れて来る。

 鈍い音とともに、“それ”が後ろへ弾かれる。

「っ……」

 自分の拳を見た。


 当たっている。

 今度は、はっきりと。

「今の」

 アリアの声。

 低い。

「また、同じ」

「……偶然じゃねえのか」

 言いながらも、そう思っていない。

 拳の感触が残っている。

 さっきよりも“確か”だった。

 “それ”が起き上がる。

 ゆっくりと。

 今度は、さっきより明確にこちらを見ている。

 視線がある。

「反応が変わったわね」

 アリアが小さく言う。

 そのまま剣を抜く。

 一閃。

 ――終わる。

 はずだった。

 だが。

 “それ”は、切られる瞬間だけ、わずかにズレた。

 刃が通る位置から、ほんの数センチ。

 そこに“いなかった”。


「……っ」

 アリアの目が細くなる。

 初めて、明確な警戒。

「今のは」

 返事はない。

 “それ”が再び動く。

 今度は速い。

 いや、速いというより――

 “連続していない”。

 動きが繋がっていない。

 空白の中を飛んでくる。

「蓮!」

 呼ばれた瞬間、また体が動く。

 理由はない。

 でも、踏み込む。

 その瞬間。

 世界が、また一拍だけ遅れた。

 今度は違う。

 “掴める”。

 そう思った。

 拳を出す。

 今度は、狙っていない。

 ただ、そこに合わせる。

 衝撃。

 今度は逃げない。

 “それ”が、確かに止まる。


 沈黙。

 部屋の空気が一瞬だけ止まる。

 そして――崩れるように、“それ”は消えた。

 跡形もなく。

「……今のは合格」

 アリアが剣を収める。

 そのままこちらを見る。

「動けてた」

 短い評価。

 それだけ。

「訓練ってのは……これか」

「そう」

 即答。

「さっきまでのは全部、最低限の反応確認」

「……最低限でこれかよ」

 思わず漏れる。

 アリアは答えない。

 代わりに、少しだけ視線を外す。


「それで」

 少し間を置く。

「さっきの“ズレ”」

 その単語で、空気が少しだけ変わる。

「何か分かってる?」

「分かるわけないだろ」

 即答する。

 だが、自分でも分かっている。

 さっきより、確実に“触れた”。

 アリアは一歩だけ近づく。

 視線が合う。


「……そう」

 小さく言う。

「なら、まだ触らない方がいい」

 それだけ。

 そのまま背を向ける。

「今日はここまで」

 扉へ向かう。

 その背中を見ながら、気づく。

 さっきまでのズレが、

 完全には消えていない。

 むしろ――

 少しだけ、馴染んでいる。


 嫌な予感がした。

 それでも足は止まらない。

 この感覚の正体は、まだ分からない。

 ただ一つだけ確かなのは――

 さっきの一撃は、

 偶然じゃなかった。

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