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「覚醒できない最強の界紋もちの俺、なぜか層界で騎士見習いとして生きることになった」  作者: 翔飛龍髙
第一章

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第3話

 石造りの門をくぐった瞬間、空気が変わった。

 森の匂いが消える。

 代わりに、乾いた石と金属の匂いが混ざる。

「ここが……」

 言いかけて、言葉が詰まる。

 街、というには静かすぎる。

 人はいる。

 歩いている。

 話している。

 それなのに、どこか音が薄い。

 輪郭だけが先に目に入ってくる感じだ。

「第七層の都市よ」

 アリアが前を歩いたまま言う。

 振り返らない。

「ここから先は、騎士団の管轄」

「騎士団……」

 その単語だけが、妙に引っかかる。


 そのときだった。

 視界の端で、何かが揺れた。

 ――遅れて、音が来る。

 カラン。

 金属の音。

 一拍遅れて、人が倒れかける。

「っ……」

 反射的に一歩踏み出す。

 まただ。

 さっき森で感じたのと同じ。

 世界が、ほんの少しだけズレている。

「動くな」

 アリアの声。

 低い。

 近い。

「今、下手に触ると巻き込まれる」

「何にだよ」

 答えは返ってこない。

 代わりに、空気が一段だけ重くなる。


 ――来る。

 そう思った瞬間だった。

 路地の奥。

 “何か”が落ちてきた。

 人型。

 でも、人じゃない。

 輪郭が揺れている。

 立っているのに、立っていない。

「界喰い……」

 誰かが呟く声。

 その瞬間、周囲の空気が固まる。

 逃げる者と、止まる者。

 その境界だけがはっきりする。

「下がって」

 アリアが一歩前に出る。

 剣を抜く。

 ――遅い。

 そう感じた。

 次の瞬間。

 界喰いが消えた。

 いや、違う。

 “ズレた”。

 位置だけが、ほんの一瞬後ろにずれる。

 アリアの剣が空を切る。


「……っ」

 息が詰まる。

 今のは。

 俺がさっき感じたのと同じだ。

 世界が噛み合っていない。

 その歪みを、敵が使っている。

「見てるだけじゃ死ぬわよ」

 アリアが短く言う。

 その声で、現実に引き戻される。

 界喰いが再び動く。

 今度は遅れていない。

 速い。

 ――こっちに来る。

 理由は分からない。

 でも、身体が先に動いていた。


 踏み込む。

 剣はない。

 それでも、腕が振られる。

 その瞬間。

 世界が、一瞬だけ“止まった”。

 いや、違う。

 止めたのは俺じゃない。

 界喰いの動きが、半歩だけ遅れた。

 そこに、拳が入る。

 衝撃。

 鈍い音。

 界喰いが後ろに弾かれる。


「……っ」

 自分の手を見る。

 何が起きた?

 わからない。

 でも、今のは確かに――

 当たった。

「……今の」

 アリアの声が少しだけ変わる。

 初めて、ほんのわずかに驚きが混じる。

「何をした」

「知らねえよ」

 即答するしかない。

 本当に分からない。

 ただ、さっきまでと違った。

 “届いた”。

 それだけだ。


 界喰いが起き上がる。

 今度は迷いがない。

 一直線に来る。

 アリアが動く。

 今度は速い。

 一閃。

 今度は確実に、切り裂いた。

 黒い何かが崩れていく。

 空気に溶けるように。

「……終わり」

 短く言う。

 剣を下ろす。

 周囲の空気が、少しだけ戻る。

 その瞬間。

 足元に、さっきの違和感が残っていることに気づく。

 完全には消えていない。

 むしろ、はっきりしている。

「お前」

 アリアが振り返る。

 じっと見てくる。

「今の、初めてじゃないでしょ」


「何がだよ」

「届いたでしょ、さっき」

 言葉が詰まる。

 否定できない。

 確かに、当たった。

 でも理由がない。

「……偶然だろ」

「偶然であれは起きない」

 即答。

 一歩近づく。

 その距離が、妙に近い。

「名前は」

 突然だった。

「え?」

「名前」

 もう一度。

 短く。

 逃げられない聞き方。

 少しだけ間が空く。

「……蓮」

 言った瞬間、空気がわずかに変わる。

「桐嶋、蓮」

 アリアが小さく繰り返す。

 まるで確認するように。

 その目が、一瞬だけ揺れる。

「……そう」

 それだけ言って、視線を外す。


「覚えておく」

 理由は言わない。

 そのまま背を向ける。

「行くわよ。ここ、長居する場所じゃない」

 歩き出す。

 その背中を追う。

 さっきよりも、世界はまだ少しだけズレている。

 でも――

 一つだけ分かった。

 さっきのは偶然じゃない。

 俺は、何かに触れた。

 まだ名前のない何かに。

 そしてその感覚だけが、

 妙に、消えなかった。

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