EP 8
聖獣機神ガオガオン、怒りの出勤
一般市民という「最強の盾」を失った死蟲機たちは、ただの醜い害虫の群れでしかなかった。
「総員、射撃開始ッ!! 害虫どもをこの街から一匹残らず駆除しろ!」
坂上真一の号令と共に、自衛隊員たちのアサルトライフルが一斉に火を噴く。
それに呼応するように、手加減を解除されたガオンと四神たちが、これまでの鬱憤を晴らすかのように死蟲の群れへと突っ込んだ。
『オラァァァ! アタシらの極上スイーツを返せやァ!!』
白虎の拳が死蟷螂を粉砕し、朱雀の炎が死蜘蛛の糸ごと敵を焼き尽くす。
青龍のレーザーと玄武の重力が戦場を蹂躙し、形勢は一気に逆転した。
『バ、バカな……! 私の完璧なマイクロマネジメントが……! ヒューマンリソース(市民)のハッキングが、たった一人のエンジニアに破られるなど!!』
新宿の巨大モニターの中で、魔人ギアンが白塗りの仮面を歪めて絶叫する。
『ええい、こうなれば仕方ありません! 事業統合(M&A)です! 我が社の全リソースを一点に集中させ、貴方たちを物理的に圧殺する!!』
ギアンが両手を高く掲げた瞬間。
新宿のド真ん中、高層ビル群の中心で、アスファルトがドーム状に大きく隆起した。
ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォンッ!!!
地割れと共に這い出してきたのは、想像を絶する巨大なバケモノだった。
無数の卵を抱え、絶え間なく死蟲を産み落とし続ける巨大な母蟻――『死王蟻型』。
そして、その周囲を覆うように、あらゆる物理攻撃と光学兵器を反射する絶対装甲の蟲――『死甲虫型』が幾重にも融合していく。
全長100メートル超。
それはもはや生物ではなく、醜悪な装甲と無数の脚で構成された、巨大な『ブラック企業の本社ビル(要塞)』そのものだった。
『ハァーッハッハッハ! 見なさい! これが我が社の究極のモノリス(巨大一枚岩)要塞! これでもう、貴方たちの攻撃は一切通用しません!』
圧倒的な絶望を前に、自衛隊員たちの銃撃が止まる。
四神たちも、その見上げるような巨城から放たれる圧倒的な死の気配に息を呑んだ。
だが。
ただ一人、鼻血で口元を汚したボサボサ頭の青年だけは、決して絶望などしていなかった。
「……事業統合だの、巨大モノリスだの……時代遅れもいいところだ」
玲王は血に染まった指でPCメガネを押し上げ、ギラリと危険な光を放つ瞳で巨大要塞を見上げた。
「無駄に肥大化しただけのクソシステム(組織)。そんなものは、俺の『神の箱』を汚した免罪符にはならない」
玲王は大きく息を吸い込み、宙に浮かぶ仮想キーボードに両手をかざした。
彼の脳は、先ほどの市民解放パッチの代償で限界まで熱を持ち、陽炎のように熱気(排熱)を放ち続けている。
「……さて。これより、完全な残業の時間だ」
玲王の低い声が、戦場に響き渡る。
「ガオン。四神。……出勤しろ。今すぐ俺に、あのバグをぶっ叩くための『最強のデスク』を用意しろ」
『おうよ相棒!! テメェのその熱い怒り、そっくりそのまま俺のコアにぶち込みなァッ!!』
ガオンの咆哮が新宿の空を震わせる。
傷だらけの四神たちが、玲王の怒りに共鳴するように、今まで以上の激しい神気を爆発させた。
「フルスクラッチOS、起動! 聖獣合体!!」
光の粒子となった神々が、空中で複雑に交差しながら巨大なパーツへと組み上がっていく。
しかし、今回の合体は第2章の時とは明らかに異なっていた。
玲王の脳髄から発せられる『特A級の怒りと熱(排熱)』が、システムを通じてガオガオンの各パーツに直接流れ込んでいく。
『……す、すごい! いつもより出力がダンチだ! 全身が熱いぜ!!』
『ええ! 玲王様の熱……私の中に直接……! ああっ、愛が、愛の重力(質量)が限界を突破しますわッ!』
『冷却システム追いつきません! でも、最高にハイな気分です!』
通常、黄金の輝きを放つはずの『聖獣機神ガオガオン』の装甲が、玲王の熱暴走に同期して、マグマのような『赤黒い色』へと変色していく。
ズゥゥゥゥゥンッ!!
大地を踏みしめて顕現したのは、排熱による白い蒸気を全身から噴き上げる、深紅の巨神だった。
「【聖獣機神ガオガオン】……オーバークロック(限界突破)状態」
コックピットの中で、玲王は血を流しながら不敵に笑った。
「さあ、ギアン。どっちの組織がより凶悪か……教えてやる」
限界を超えた社畜と、赤熱する神の巨神。
最強のホワイト環境が生み出した『怒りのオーバークロック形態』が、巨大なブラック要塞へとその牙を剥いた。




