EP 9
永遠の有給休暇。獅子の咆哮と聖獣剣!
ズガァァァァァァァァァァンッ!!
白虎の強烈な「物理的フィードバック(鉄拳)」を顔面にモロに食らった中間管理職魔将機は、料亭の敷地を飛び越え、隣接するビルの壁面に激突してひしゃげた。
『ピィィガガガ……ッ! け、計算外のパワーハラスメント! 当社の労働基準から大きく逸脱しています……!』
火花を散らしながら立ち上がろうとする敵魔将機。
しかし、ガオガオンの圧倒的な機動力の前に、体勢を立て直す隙すら与えられない。
「青龍、朱雀。追い打ちだ。奴の言い訳を完全に黙らせろ」
『はい。これより無慈悲なコストカット(火力集中)を実行します』
『オラァ! 俺の熱いパッションを受け取りなァ!』
ガオガオンは空中に跳躍し、左腕の青龍から放たれる極太の紅蓮レーザーと、背中の朱雀から放たれる真紅の炎弾を同時に雨あられと叩き込む。
装甲が溶け、回路が焼き切れ、敵魔将機は為す術もなく蹂躙されていく。
「す、すごい……。あれだけ苦戦したバケモノが、まるで赤子扱いだ」
料亭の庭園で、坂上真一が刀を下ろしたまま呆然と見上げている。若林もまた、言葉を失ってその無双ぶりを目に焼き付けていた。
『ガガガ……! まだだ、まだ終われません! 進捗が、ノルマが達成されるまでは……!』
全身から黒煙を上げながら、中間管理職魔将機が最後の悪あがきに出た。
背中から無数の黒いケーブル(触手)を全方位に射出し、周囲のビルや電柱、ひいては逃げ遅れた人間たちから強引にエネルギーを吸い上げようとする。
『労働とは自己犠牲! 倒れるまで働くことこそが美しいのです! さあ、皆様の魂を我が社のために……!』
「……つくづく、救いようのないブラック企業だな」
コックピットの中で、玲王はPCメガネをスッと指で押し上げた。
その瞳には、徹夜明けの気怠さではなく、すべてのバグを根絶やしにする特A級エンジニアの冷徹な怒りが宿っている。
「部下の命を吸い上げて延命するシステムなど、社会の害悪でしかない」
玲王の両手が、仮想キーボードの上にピタリと置かれた。
「お前に有給を取らせてやる。永遠にな」
ターンッ!!
エンターキーが叩き抜かれると同時、ガオガオンの胸部に位置する巨大な『黄金の獅子の顔』が、その顎を限界まで大きく開いた。
『おうよ相棒!! 俺の怒りのボリューム、限界突破だァァァッ!!』
ガオンの裂帛の気合いと共に、コックピット内の全エネルギーが胸部に集束していく。
圧縮された電磁波と神気が、球体となって黄金のスパークを散らす。
「強制シャットダウン信号、出力!!」
「獅子王の咆哮!!!」
ガオガオンの胸から、目に見えない圧倒的な音波と電磁パルスの奔流が放たれた。
物理的な破壊ではない。それは敵の電子頭脳へ直接叩き込まれる、特A級の「システム強制停止コマンド」である。
『ガ……ギギギ……致命的エラー……システム、フリーズ……し、進捗、ダメで……す……』
音波を浴びた中間管理職魔将機は、ピタリと動きを止めた。
放たれていた黒いケーブルがダラリと垂れ下がり、全身の禍々しい赤い光が完全に消灯する。完全に論理破壊された証拠だ。
「さあ、トドメのデバッグ作業だ」
玲王は右手を高く掲げた。
「空間ストレージより、管理者用ウェポンを実体化」
『『『『『おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!』』』』』
玲王のコマンドと四神たちの共鳴。
夜空が十字に割れ、そこから眩いばかりの神聖な光の粒子が溢れ出す。
光はガオガオンの右腕(白虎)の手に収束し、全長40メートルを超える超巨大なエネルギーの大剣へと姿を変えた。
すべての邪悪なコードを断ち切る、究極の管理者ツール。
「【聖獣剣 ゴッドブレード】!!」
夜空を真昼のように照らす白銀の刃。
玲王はエルゴノミクスチェアに深く座ったまま、静かに宣告した。
「業務終了。……お疲れ様でした」
ガオガオンが、大上段からゴッドブレードを一気に振り下ろす。
白銀の奔流が、フリーズした中間管理職魔将機を、その忌まわしいブラックなコアごと真っ二つに分断した。
ピカァァァァァァァァァァァンッ!!!
音すらも消え去るような、究極の一閃。
分断された巨体は抵抗する間もなく大爆発を起こし、無害な光の粒子となって赤坂の夜空へと還っていった。
奪われかけていたインフラも、人々の通信網も、すべて完全に正常化(ホワイト化)された。
「……終わった……のか」
若林が、ポロリと葉巻を落とす。
料亭の庭園には、ただ静かな夜風と、任務を完遂して屹立する黄金の巨神の姿だけが残されていた。
「やった……! やったわ! これで私の責任(損害賠償)は完全にゼロよぉぉぉ!」
庭の隅で、清掃カートを抱きしめながらルチアナが歓喜の涙を流していた。
コックピットの中。
玲王はホログラム・ウィンドウをすべて非表示にし、深く息を吐いた。
「……ふぅ。これで残業はすべて完了だ。さて、帰ってあの最高級カカオ豆の発注リストを作らないとな」
国家の危機を救った直後でも、彼の頭の中はすでに「最高のスイーツ作り」へと切り替わっていた。




