EP 8
一切の遅延なし! 聖獣機神、合体!
「フルスクラッチOS、起動。……聖獣合体!!」
玲王の低く響くコマンドと同時に、料亭の庭園を包み込んでいた夜の闇が、五色の強烈な神気によって完全に払拭された。
『よぉし! 待ちに待った特A級の出勤時間だぜ!!』
ガオンが咆哮を上げ、黄金の獅子ボディを展開して全高15メートルを超える巨神の胴体へと変形する。
それに呼応するように、四神たちが光の粒子となって各パーツへと姿を変え、ガオンの胴体へと飛び込んでいく。
『右腕パーツ・白虎、ジョイント! マジこのOS最高! 肩凝りゼロで出力120%!!』
『左腕パーツ・青龍、ジョイント。冷却システム、完璧な水冷で回っています』
『バックパック・朱雀、ジョイント! 最高のVIPフライトをお約束するぜェ!』
『下半身パーツ・玄武、ジョイント! 私の重い愛(重力アンカー)、玲王様に直結ですわ……!』
ガシャンッ! ガシャンッ! と、重厚にして流麗な金属音が重なっていく。
それは、かつて四神たちがシャバで遊び呆け、ドライバーの更新をサボっていた頃の「エラーと火花まみれの合体」とは全く別次元のものだった。
玲王が72時間のデスマーチの末に組み上げた「完全ホワイト化OS」。その恩恵により、各モジュール間の通信遅延は0.00001秒未満。摩擦係数ゼロ、エネルギーロス・ゼロの、まさに芸術的な合体シークエンスである。
「な……なんだ、あの子たち! あんなにスムーズに合体できるなんて聞いてないわよ!?」
清掃カートの陰でガタガタ震えていたルチアナが、目を丸くして叫んだ。
神である彼女でさえ、これほどまでに洗練された神の力の行使を見たことがなかったのだ。
そして、その光景を最も食い入るように見つめていたのは、防衛省のトップ二人だった。
「……おお……」
刀を下ろした坂上真一の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
自衛隊の艦艇開発にも携わっていた彼は、その巨神の構造がどれほど異常であるかを直感的に理解していた。
「美しい……。一切の無駄がないフォルム。全パーツの稼働効率が完全に100%で同期している……! あれが、一人の青年が構築した『完全なシステム』だというのか……!」
「ああ。我々大人が、どれだけ予算を注ぎ込んでも到達できなかった『究極の兵器』。それが今、この目の前に……!」
若林幸隆もまた、葉巻を持つ手を震わせながら、黄金の巨神を見上げていた。
全高50メートル。
新宿の夜に顕現した時以上の圧倒的な神気と威容を誇るその姿。
『メインシステム、オンライン。最終プロトコル認証』
『聖獣テイマー:百夜玲王』
巨神の胸部、黄金の獅子の顔の奥に位置するコックピット。
そこには、超高級エルゴノミクス・メッシュチェアに深く腰掛け、マイボトルのコーヒーを啜る特A級社畜・百夜玲王の姿があった。
「よし。環境構築は完璧だ」
玲王が仮想キーボードに手を添えると、巨神が地鳴りのような雄叫びを上げた。
「【聖獣機神ガオガオン】……フルスクラッチ・オーバークロックモデル。出勤完了だ」
その威容を前に、残骸から組み上がった「中間管理職型魔将機」が、ギリギリと機械音を鳴らして一歩後ずさった。
だが、すぐに体勢を立て直し、巨大な印鑑型のレーザー砲を突きつける。
『ガガッ……! なめるな! 我が社の決裁は絶対だ! この「緊急稟議書(超高出力レーザー)」を通せェェェッ!!』
ズドォォォォォォンッ!!
印鑑の先端から、料亭ごと赤坂の街を消し飛ばすほどの極太の赤黒いレーザーが放たれた。
「承認を求めるなら、事前に根回し(ネゴシエーション)くらいしておくんだな」
玲王は指を弾く。
「玄武。重力シールド展開。稟議は『却下』だ」
『ふふっ、お任せを!』
ガオガオンの足元から、漆黒の重力場がドーム状に展開される。
直撃した超高出力レーザーは、玄武の放つ「重い愛(重力)」の前に紙屑のようにひしゃげ、光の粒子となって霧散した。ダメージはおろか、コックピットの玲王が持っているコーヒーの液面すら揺れない。
『バ、バカな!? 当社の絶対的な決裁が、いとも容易く……!』
「お前の通そうとしている稟議は、すでに時代遅れなんだよ」
玲王は、キーボードを力強く叩いた。
「朱雀、出力全開。お前の『進捗』を、俺が強制的に管理してやる」
『オラァァァ! 遅刻は許さねェぜ!!』
真紅の炎を吹き上げ、ガオガオンが音速を突破して敵の懐へと肉薄した。
中間管理職魔将機が慌てて「進捗管理(巨大モーニングスター)」を振り回すが、ガオガオンは青龍(左腕)のブースターによる精密な姿勢制御でそれを軽々と躱す。
「白虎。物理的フィードバック(鉄拳)を入れてやれ」
『アタシのクレーム、全額受け取れやァァァ!!』
ズガァァァァァァァァァァンッ!!
ガオガオンの黄金の右腕が、中間管理職魔将機の顔面(センサー部)に深々と突き刺さった。
装甲がひしゃげ、敵の巨体が盛大にバランスを崩して後方へと吹き飛ぶ。
「さあ、業務改善の時間だ」
玲王のメガネの奥の瞳が、絶対零度の光を放った。
特A級社畜による、容赦のない「最終面談」が始まろうとしていた。




