EP 6
神々、出勤のお時間です
料亭の美しい日本庭園に、神々しいオーラと共に降臨した異世界の最高戦力たち。
しかし、その光景はあまりにもカオスだった。
「だーかーらー! なんでわたしまで連れてくんのよぉぉぉ!!」
「うるせェ! ちょうどあんたを問い詰めてた最中にマスターから『緊急招集』がかかったんだから仕方ねぇだろ!」
ヨレヨレのエンジ色のジャージ姿で頭に手ぬぐいを巻き、清掃カートにしがみついて涙目になっている女——女神ルチアナ。
それを背中から振り落とし、黄金のオーラを放つ大型犬——ガオン。
そして、その周囲に降り立った美男美女の四神たち。
「……なんだ、あいつらは?」
ワイシャツを破り捨て刀を構えたまま、坂上真一が呆然と呟く。
「あれが……玲王君の言っていた『下請け業者』なのか? どう見ても、ただの犬と今どきの若者、それに……清掃員にしか見えんが」
若林も葉巻の灰を落とし損ねて目を白黒させている。
『……ザザッ……エラー、エラー。未確認のリソース(戦力)を検知。……貴方たちは、何者ですか? 当社のリストラ(排除)対象リストには存在しませんが』
庭園のスピーカーから、中間管理職AIの合成音声が響く。
「リストラ対象外だと?」
玲王は仮想キーボードから視線を外さず、冷たく言い放った。
「当然だ。俺たちは『外部の専門業者』だからな。……おいお前ら、まずはその庭の物理的なバグ(小型魔将機)を掃除しろ」
「おうよ! 準備運動にはちょうどいいぜ!」
ガオンが咆哮を上げる。
『アタシのネイルの邪魔すんな!』
ギャル姿の白虎が、ルーズソックスを履いた足で回し蹴りを放つ。ただの蹴りではない。猛烈な衝撃波が巻き起こり、小型魔将機が数体まとめて庭石に叩きつけられ粉砕された。
『定時外の業務ですが、マスターの命令とあらば』
メガネのOL・青龍が指先を向けると、そこから極細の紅蓮のレーザーが放たれ、魔将機のコアだけをミリ単位の精度で撃ち抜いていく。
『俺の優雅なフライトを邪魔するなァ!』
ホスト風の朱雀が指を鳴らすと、庭園を包み込むような真紅の炎が舞い上がり、敵の多脚をドロドロの鉄屑へと溶かす。
『玲王様の視界に入るゴミは、すべて重力で押し潰して差し上げますわ』
ゴスロリ姿の玄武が微笑むと、十数体の魔将機が目に見えない巨大なプレス機で潰されたように、ペシャンコになって地面に沈み込んだ。
「……信じられん」
坂上は思わず刀を下ろした。
自分たちが死闘を繰り広げていた特殊装甲の機械獣たちが、たった数秒で、しかも人間の姿のままの彼らによって文字通り「掃除」されていく。
一方、本物の「掃除道具」を持っているルチアナは、庭の隅っこで清掃カートの陰に隠れ、ガクガクと震えていた。
「ヒィィ……! 魔将機……! サルバロスの手先ぃ……! み、見つかったら殺される……! いや、それより日本政府のえらい人に見つかったら、絶対に損害賠償を請求されるぅぅ……!」
彼女は防衛省のトップである若林と坂上をチラチラと盗み見ながら、必死に気配を消そうとしている。
「わ、わたしはただの清掃員……時給1100円のモブキャラ……空気……」
そんなダメ女神に、和室から冷徹な声が降ってきた。
「おい、そこの清掃員」
「ヒィッ!?」
ルチアナがビクゥッ!と肩を揺らす。
「ちょうどいい。庭のバグはあいつらが大体片付けた。後の細かい残骸は、お前がその箒とちりとりで掃いとけ」
「……え?」
ルチアナがポカンとする。
「俺は今、敵のメインサーバーと論理戦の真っ最中だ。物理的な後片付けに割くリソースはない。時給が発生してるなら、キッチリ働け」
「あ、はい……ッス」
全知全能の女神(神魔鬼大戦の勝者)が、徹夜明けの社畜エンジニアに顎で使われ、涙目で魔将機の残骸を箒で集め始めた。
「……玲王君。あの大層なオーラを放っている若者たちと犬はともかく、あの清掃員の女性は一体……?」
若林が困惑気味に尋ねる。
「あぁ、あれはただの責任逃れをする元請けの社長みたいなもんです。気にしないでください。それより、幹事長たちは部屋の奥に下がっていてください」
玲王はルチアナを完全に「使えない下請け」扱いし、再びホログラム・ウィンドウへと向き直った。
『……警告。現場の物理デバイスがすべて排除されました。……理解不能なエラー。あなた方は、どのようなプロセスで我が社のシステムを……』
中間管理職AIの声が、先ほどまでの余裕を失い、微かに焦りを帯び始めている。
「物理層の掃除は終わった。次は……論理層の番だ」
玲王の両手が、再び極限の速度で仮想キーボードを叩き始める。
「自己犠牲? やりがい? そんなクソみたいなパラメータで組まれたシステム、俺が根底から書き換えて(リファクタリングして)やる」
特A級社畜による、ブラックAIに対する壮絶な『論理的口論』が、いよいよ火蓋を切った。




