EP 14
特A級の完全駆除と、最強のまどろみ
新宿の夜空に走った十字の亀裂。
そこから溢れ出した神聖なる白銀の光は、限界まで搾取と肥大化を繰り返した醜悪なボス級魔将機の闇を、一瞬にして浄化していく。
光の粒子が収束し、全長40メートルを超える超巨大なエネルギーの大剣が、ガオガオンの頭上に顕現した。
聖なる力を極限まで高め、すべての邪悪なコード(バグ)を断ち切るための、管理者専用の最終兵器。
「来い! 【聖獣剣 ゴッドブレード】!!」
玲王のキーボード入力と同時に、ガオガオンの右腕(白虎)が天に伸び、黄金に輝く大剣の柄をガシィッと握りしめた。
その瞬間、新宿を覆っていた絶望の暗雲が吹き飛び、東京の街が真昼のような白銀の光に包まれる。
防衛省の地下司令室では、オペレーターたちが計器の振り切れた警告音の中で絶叫していた。
『ガオガオンの出力、さらに上昇! 計測不能の領域に突入しました!』
『熱源反応、すべてあの光の剣に集束しています! 周囲の市街地へのエネルギー漏洩……ゼロです!!』
信じられない制御力だった。
これほどの超質量エネルギーを振り回せば、余波だけで新宿区の半分が吹き飛んでもおかしくない。しかし、玲王の組んだ完璧なシステムは、エネルギーの1ビットたりとも無駄にせず、すべてを『敵の殲滅』のみにフォーカス(指向)させていた。
「ガオン、四神! 出力を剣に回せ! これで、最後だ!!」
『『『『『おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!』』』』』
五体の聖獣たちの全リソースが、滞りなくゴッドブレードへと流れ込み、刀身が限界を超えて巨大化していく。
「特A級デバッグ作業、完了!!」
玲王が仮想キーボードのエンターキーを全力で叩き抜いた。
ターンッ!!!
その強烈な打鍵音と完全にシンクロし、ガオガオンがゴッドブレードを大上段から一気に振り下ろした。
白銀の奔流が、麻痺したボス級魔将機の巨体を、エネルギーの核ごと真っ二つに分断する。
ピカァァァァァァァァァァァンッ!!!
音すらも置き去りにする、圧倒的な一閃。
魔将機の巨体が中央からズレて崩れ落ち、次の瞬間、抵抗する間もなく大爆発を起こして光の粒子へと還っていった。
瓦礫の山となった新宿の街に、キラキラと輝く光の雨が降り注ぐ。
それまで魔将機に吸い上げられていたハンターたちの『魂』が解放され、空へと還っていく、美しくも静かな光景だった。
「……ふぅ。タスクキル(撃破)、完了だ」
ゴッドブレードを構えたまま静止するガオガオンのコックピットで。
玲王は深く息を吐き、空中に展開していた仮想キーボードを非表示にした。
「終わった……。これでやっと、帰って寝られ……」
途端。
限界を超えた72時間連続勤務のツケが、一気に玲王の肉体を襲った。
「……あー、ダメだ。視界がマカロンどころか、ミルフィーユの層に見えてきたぞ……」
玲王は特注のPCメガネを外し、目頭を揉んだ。
極限の集中力で持ち堪えていた交感神経が完全にシャットダウンし、猛烈な睡魔と疲労が津波のように押し寄せてくる。
『おい、人間! 終わったぜ! 俺たちの完全勝利だ!』
『マジ最強っしょ! アタシらの合体、めっちゃ映えてたし!』
『素晴らしい実行結果でした、マスター。これで本日の業務は……マスター?』
ガオンや四神たちの歓喜の念話がコックピット内に響くが、玲王の耳にはもう届いていなかった。
「……ベッドより、この椅子……最高だな……」
最強の巨神の胸部。
玲王は、体圧分散率100%の超高級エルゴノミクス・メッシュチェアに深く体を預け、泥のように意識を手放した。
彼にとって、この完璧に空調の効いた『ホワイトな労働環境』こそが、今一番のオアシスだったのだ。
「……すぅ……すぅ……」
『……おい。マジで寝てやがるぞ、このテイマー』
ガオンが呆れたような念話を響かせる。
『そりゃそうっしょ。アタシらだって、あんなエグい速度でOS書き換えられたらショートするし。この人間、マジでヤバすぎ』(白虎)
『ええ。ですが……彼の組んだシステムは完璧です。激戦の後だというのに、機体温度は完全に平熱を保っています』(青龍)
『フッ、俺の最高の背中で、ゆっくり休むといいぜ。オーナー』(朱雀)
『ああ……玲王様の寝顔、とっても尊くて……今すぐこの重い愛で包み込んで差し上げたいわ……!』(玄武)
五体の聖獣たちは、玲王の安らかな寝顔をモニター越しに見つめ、不思議な温かさを感じていた。
ただのパーツとして扱われていた神の時代には決して感じなかった、強固な『絆』の感覚。
「しゃーねぇ。お前ら、こいつを家に送り届けるぞ。この最強の『福利厚生』を失うわけにはいかねぇからな」
ガオンの号令とともに、ガオガオンは光の粒子となって瞬時に武装解除し、眠りこける玲王を抱えたまま、夜の闇に紛れてその場から姿を消した。
***
一方、防衛省の地下司令室。
「……消えた、だと?」
対策本部指揮官・坂上真一は、レーダーから完全にロストした巨神の反応を見て、愕然と呟いた。
自衛隊の総力を結集しても傷一つつけられなかった三体のバケモノを、たった一撃で、しかも周囲の街の被害を最小限に抑えて消し飛ばした謎の巨神。
そして、あの先頭を歩いていた『寝癖の青年』。
「……若林先生。アレは、一体……」
「私に分かるはずがないだろう。だが、一つだけ確かなことがある」
与党幹事長・若林幸隆は、震える手で新しい『ピース』に火を点け、紫煙を深く吸い込んだ。その鋭い眼光が、モニターの残像を射抜く。
「あの巨神を操っていた青年……彼こそが、この崩壊しかけた日本を救う唯一の『特効薬』だ」
若林は、深く刻まれた眉間のシワを寄せ、坂上に向かって力強く言い放った。
「真一。防衛省、いや、国家の全情報網を使って彼を探し出せ。金、地位、権力……何を使っても構わん。何としても、我々の陣営に引き込むのだ」
「……了解しました」
坂上は奥歯で新しいコーヒーキャンディを噛み砕き、決意を込めて頷いた。
こうして。
過労死寸前の限界社畜エンジニアが、最高の睡眠モードに入っている間に。
日本の命運を背負う大人たちが、彼を巡って血眼になって動き出そうとしていた。




