EP 12
スパゲッティコードを書き換えろ! 奇跡のライブコーディングと巨神合体
『ボス級魔将機、主砲のチャージを開始! 目標、あの若者たちです!』
防衛省の地下司令室でオペレーターが悲鳴を上げた瞬間、モニターの中の三体の巨大な砲口から、空間を歪めるほどの極太の破壊光線が放たれた。
「やらせるかよ! 行くぞお前ら、変形だ!!」
ガオンの咆哮と共に、ギャル、OL、ホスト、ゴスロリの姿をしていた四神たちの身体が眩い光に包まれる。
次の瞬間、光の中から現れたのは、巨大なメカニカル・タイガー(白虎)、流線型のメカ・ドラゴン(青龍)、燃え盛る機械鳥(朱雀)、そして重厚な装甲を持つ亀型のメカ(玄武)だった。
司令室の坂上真一と若林幸隆は、またしてもタバコとコーヒーキャンディを床に落とした。
「人間が……巨大な機械獣になっただと!?」
『ふんっ、この程度のビーム、私の玄武シールドで……きゃあっ!?』
『ちょっと玄武! シールドの展開位置ズレてるし! アタシの尻尾が焦げたんだけど!』
『うるせェ白虎! てめェの出力が高すぎて俺の飛行スタビライザーがブレてんだよ!』
『……朱雀、貴方の放熱量が規定値を超えています。私の冷却システムに致命的なエラーが……』
ドガァァァンッ!!
ボス級魔将機の光線をなんとか逸らしたものの、四神たちは空中で激突し、地上で絡み合い、盛大に火花を散らして転げ回っていた。
「おいバカ共! 連携がグダグダじゃねえか!!」
ガオンが頭を抱えて(前脚で)叫ぶ。
無理もない。数年間も別々にシャバで遊び呆けていたせいで、それぞれのドライバのバージョンが全く合っていないのだ。APIの互換性も最悪。これでは合体どころか、動くだけで自滅してしまう。
その惨状を、燃え盛るアスファルトの上に立つ玲王は、死んだ魚のような、しかし特A級の冷たい瞳で見つめていた。
玲王の目の前に展開されたホログラムのマルチウィンドウには、四神たちから送られてくる大量のエラーログが滝のように流れている。
【Error: 白虎スレッド競合】【Warning: 青龍メモリリーク】【Fatal: 朱雀熱暴走】【Critical: 玄武重力場崩壊】……。
「……なんだ、このクソコードは」
玲王の低く、地を這うような声が戦場に響いた。
それは、魔将機の咆哮よりも恐ろしい、徹夜明けのエンジニアの『静かなるマジギレ』だった。
「変数名は適当、無駄なループ処理の嵐、各モジュールの独立性が皆無でお互いの足を引っ張り合っている。……こんなゴミみたいなスパゲッティコードで、よく今まで『神のシステム』を名乗っていたな」
『ひっ!?』
四神たちの巨大な機械ボディが、玲王の放つ特濃のブラックオーラにビクッと震え上がる。
「どけ。俺が全部書き直す」
玲王は両手を上げ、空中に展開された巨大な仮想キーボードに指を添えた。
彼の中の、特A級AIエンジニアとしての全リソースが、目の前の聖獣たちのOSへと接続していく。
「オーバークロック・モード、起動」
ターンッ!!
エンターキーを叩く強烈な打撃音を皮切りに、玲王の指先が視認不可能な速度で躍動し始めた。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!!
それはもはやタイピング音ではなかった。熟練の格闘家が放つ、無数の打撃音。
空中に光の軌跡が走り、無数の文字列が玲王の周囲を取り囲んで高速回転していく。
『な、なんだこのタイピング速度は!? 司令! あの青年の周囲から、計測不能なレベルのデータ転送が発生しています!!』
司令室のオペレーターが狂ったメーターを見て絶叫する。
坂上は目を剥き、若林は息を呑んだ。「あいつは……魔法使いか? いや、電脳空間の神業だ……!」
戦場のど真ん中で、玲王はボソボソと、しかし狂気的な集中力で呟き続ける。
「白虎の過剰な出力を、青龍の主砲のチャージ用バッテリーにバイパス。朱雀の無駄な自己主張(アイドリング時の謎の発光)プロセスを強制終了し、そのリソースを玄武の重力制御シールドの演算に全振りする」
『ああっ! 俺のカッコいい発光ギミックがー!?』(朱雀)
『すごい……私の冷却水が、一瞬で適正温度に……』(青龍)
「関節部の駆動アルゴリズムを、俺が焼いたクレープの『生地を伸ばす黄金比』と同じ数式で再定義。動力伝達ロスをゼロにする。……よし、コンパイル(翻訳)!!」
玲王が最後にエンターキーをターンッ!と叩きつけると、戦場を覆っていたエラーの警告音がピタリと止んだ。
代わりに、五体の聖獣たちの機体から、汚れなき純白と黄金のオーラが吹き上がる。
『な、なんだこれ……!』
『ウソ、身体がめっちゃ軽い! ネイル変えた時よりアガるんだけど!』(白虎)
『愛の重さはそのままに、機動力だけが飛躍的に向上していますわ……!』(玄武)
ガオンが、歓喜の咆哮を上げた。
「すげぇぞ人間! 完璧に最適化されてやがる! 魔力回路のロスが、0.00001%もねぇ!! これなら……いける!!」
玲王はメガネのブリッジを中指で押し上げ、迫り来る三体のボス級魔将機を冷徹に見据えた。
「OS(土台)のアップデートは完了した。お前ら、最高のパフォーマンス(残業)を見せろ」
玲王の右手が、空中に浮かぶ『合体』のコマンドウィンドウに伸びる。
「ガオン、そして四神。実行だ」
ターンッ!!
特A級社畜エンジニアのコマンド入力が完了した瞬間。
五体の聖獣たちを繋ぐ、不可視のデータリンクが物理的な光の帯となって新宿の夜空に展開された。
『システム・オールグリーン。聖獣合体プロトコル、最終フェーズへ移行します』
玲王の組んだ完璧な新OSが、無機質かつ流麗なアナウンスを響かせる。
『下半身モジュール、接続! 重力アンカー、定着しますわ!』
『バックパック、接続! 最高の飛行スタビライザーだぜェ!』
『右腕パーツ、ジョイント完了! 出力120%!』
『左腕パーツ、ジョイント完了。冷却システム正常』
摩擦係数ゼロ。エネルギーロス・ゼロ。
防衛省の技術者たちが一生かかっても到達できない、芸術的なまでの変形合体シークエンス。
全高50メートルを超える黄金の巨神が立ち上がったその時。
玲王の足元が光り、彼自身が巨神の胸部――ガオンの顔の奥にある『コックピット』へと転送された。
「……ほう」
玲王は、コックピット内を見渡して満足げに頷いた。
目の前には、視界を360度カバーするフルダイブ型のホログラムモニター。
そして何より玲王を感動させたのは、彼を包み込むシートだった。
「体圧分散率100%の超高級エルゴノミクス・メッシュチェアに、最適化された空調システム……。ブルーライトを完全にカットする視覚フィルターまで完備されている」
玲王は深くシートに腰掛け、首をポキリと鳴らした。
「最高に『ホワイト』な労働環境だ。これなら、あと100時間は戦える」
『アホか! お前は早く帰って寝ろ!』
ガオンのツッコミがコックピット内に響く。
玲王は仮想キーボードに手を置き、巨神の『システム・ステータス』を全開にした。
ズズンッ……!!
巨神が一歩踏み出しただけで、東京の街が大きく揺れた。
圧倒的な神気と、オーバークロックされたエネルギーが黄金のオーラとなって噴き上がり、夜の闇を完全に払拭する。
『メインシステム、オンライン。最終プロトコル認証』
『聖獣テイマー:百夜玲王』
『メインコア:ガオン』
「さあ、見せてやろうぜ。特A級のデバッグ作業ってやつを」
玲王の言葉に応えるように、巨神が、新宿の空に向けて腹の底から震えるような雄叫びを上げた。
「【聖獣機神ガオガオン】……フルスクラッチ・オーバークロックモデル! ここに爆誕だァァァッ!!」




