第95話『分断:完璧 その2』
「炎魔法」
異様な魔力が、熱を帯び、赤く燃え盛る。
(今度はエレナのッ——!?)
「どうやら、エレナ・ルーシーは教祖ファラリスの遠縁の孫らしい。それはあれほどの魔法を扱えるわけだ」
男は本をめくりながら、静かに喋る。
「はぁ……はぁ……」
腿から血が滴り落ちる。
「なるほど、自らの腿部を犠牲に回避を選んだか」
(痛えッ……!死ぬほど痛えッ……風穴が開いちまってる……ッ)
「し、死ななけりゃただの風邪っちゅうからなぁッ……!」
しかし、大量の出血に、視界が歪む。
「そうか。では、死ぬまで嬲り続けよう」
再び男の手のひらが光る。
(今度はなんだ……ッ、誰の魔法を……)
「炎魔法」
男の右手の中に、強大な魔力の塊が現れる。
(またエレナのだッ……)
「風魔法」
男の左手の中から、轟音に近い風の音が響く。
辺りの瓦礫が震えるほどに強力な風が、辺り一体を覆う。
(ぐっ……!)
風に吹き飛ばされそうになり、近くの瓦礫に捕まる。
「炎嵐魔法」
「なッ……!?」
歪んだ視界に映ったのは、とてつもない嵐に乗る、赤く煌めく炎の姿。
(エレナの魔法を組み合わせてッ……!?)
「想像の力というのは無限大。人には人の個性がある」
「私には、"完璧"という二文字がある——」
男の両手から、炎を纏った竜巻が現れる、全体を焼き尽くさんばかりに、虱潰しに竜巻が私に近づいてくる。
(逃げねえと死ぬッ——)
瓦礫を風除けに、地面を這いながら竜巻から離れるが、足の痛みと頭痛の両方が限界を迎えた。
(ダメ……だ、意識が——)
——
18年前。私はシーザー家の末っ子として産まれた。
「ルインよ、相手に名を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀じゃ」
「うっせーなジジイ!」
私はシーザー家の中でも一番の無礼者で、自分勝手で、魔法が使えなかった。
「こら、ルインッ!」
それでも、親父とジジイは笑って私を見てくれた。
私を捨てたオカンも兄も、私を見てくれなかったのに。
「ルインよ。お前さんは魔法が使えないが、それ以上の物を持っておる」
「あん?なんだよジジイ」
「魔法が使えない」その言葉は何度も言われたし、何度も言った。
けれど、それ以上に、ジジイからは「個性」の話を聞かされた。
「魔法は想像の世界。ルインも、何かを見つければ、きっとワシやレイルのような魔法使いになれるさ」
10年前、ジジイは死んだ。
長生きしたもんだと、幼い私は思った。
「ジジイ……ジジイ!」
「ルイン……お爺ちゃんはもう居ないよ」
私は、ジジイのことが、親父のことが嫌いだった。
それでも、ジジイが死んだ時。
親父が浮かべた涙はもっと嫌いだった。
それから1年も満たないうちに、親父は消息をたった。
「あのクソ親父ッ……ガキのアタシを置いてくなんて、どうかしてるぜッ」
それから、生きていく為にインフェルナの裏路地で人を脅して、金を奪って食い繋いできた。
私は一度も殺しなんてしてきてないし、殺そうとも思わなかった。
「ねえルイン〜!」
そんな中——
「強そうだから、私たちのパーティメンバーになってよ!」
リリスたちと出会った。
その旅の中で私は——
「個性」を知った。
——
無意識のうちに足が血の滲む地面を踏み締める。
「何が……完璧だぁ?」
足は震えているが、それでも立ち続ける。
「そんなもん、誰が決めたんだよ……」
「少なくともッ!ジジイと親父は……アタシに完璧を求めちゃいねぇッ!」
ただ、怒りに任せて——
「大魔力貫通魔法……インディヴァール」
私が求めた個性。
ただ、感情に任せて——
「魔力をぶつけるッ……!!」
地面が激しく震える。
地面が裂け、異様なまでに魔力が辺りを覆う。
「ッ……そう来たか、ならばこちらも——」
「完璧魔法」
周りの音は、もはや聞こえない。
今は——
「最初で最後の殺し合いダァァァァッ!!」
——その瞬間、空間が“歪んだ”。
音も、痛みも、感覚も、何もかもが消えたみたいだった。
——第96話へ続く。




