第94話『分断:完璧 その1』
【ルイン視点】
目が覚める。
そこには濁った空が映る。
「どこだ、ここ」
勢いよく体を起こして辺りを見渡すが、霧に包まれててよくわからない。
「いてて……どこだよここ」
腰を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「リリスたちは居ないのか……?」
ゆっくりと、大量の霧を吸い込む。
『リリスゥゥゥゥー!!』
霧を吹き飛ばすほどに、本気でリリスの名前を呼ぶが、返ってくるのは沈黙だけ。
「ふぅ……多分気づいただろ!」
近くに転がり落ちていた魔導書を拾う。
「アタシもそろそろ動かないとかなー」
魔導書を指先でぶら下げて、魔導書を見つめる。
「そういえば、最近はあんまり戦闘に参加できなかったなー」
「新しい魔法とかも考えてたけど……とりあえずは貫通魔法だけで充分か!」
ふと、周りを見渡すと、謎の建物が目に入る。
「とりあえずアソコいくかー!」
魔導書を高く投げ、建物に向かう。
建物の近くまでくる。
「うーむ、この壁……この性質……」
壁を撫でながら、顎を抱える。
「壊せそうだな!」
魔導書を強く握りしめて、肩に力を込める。
「せーのッ――ドリャアッ!」
『ガラララ――』と言う音と共に、砂埃が舞い、石質の壁が粉々になって穴が開く。
「ふう、とりあえずオッケー!」
肩を鳴らしながら、頭を軽く下げて、壁の穴から侵入する。
「なんだぁここ?」
青白い光が、暗闇の中を薄く照らしていて、まるで水中の中のように感じる。
「なんかいそうだなぁ……」
慎重に、けれど確実に足を前に運んでいると、巨大なガラスの柱が目に入る。
中には不気味に鼓動する、瞳のようなものがあった。
「目?」
ガラスの柱に近づき、触れようとすると、どこからともなく低い男の声が聞こえる。
「おやおや。こんなところにお客さんだなんて」
「誰だっ!」
私の声は闇の中に消えて、沈黙が残る。
「リドーたちは死んだのか?だとしても早すぎる……」
「おいッ!何独り言をほざいてるッ!いいから顔を出しやがれぇっ!」
その声に、どこか優しさと懐かしさを感じる。
——昔、どこかで聞いたような響き。
「そんなに激情をさらすな」
「子供に見えるぞ?」
暗闇の中から、人影が覗く。
「お前はナニモンだッ!」
人影と目が合う。
その男は、一瞬目を見開くが、すぐに目を閉じて、口を開く。
「そう言うのは、自分から先に名を名乗るのが礼儀というものじゃないか?ルイン・シーザー」
「ッ……なんでアタシの名前を知ってやがる!」
男は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
「敬神ルズから教えられていただろう?」
『ルズ』という名前に、思わず固唾を飲む。
(なんで……ジジイの名前をッ)
「覚えていないか。彼が亡くなったのは十年前の話だからね」
男は急に私との距離を取ると、本を取り出す。
「ルインは、死についてどういう意味を持っていると思う?」
「は?なんだよ急にッ」
男を鋭く睨みつけるが、男は笑みを浮かべたままだった。
「私はね、死は拒む存在ではなく、求める存在だと思うのだよ」
男はそっと本を閉じる。
「ルズが死んだ時に思ったんだ。『人は生き続けるのが普通になったら、いずれかは死を求めるのではないか……』とね」
「私は、それを証明するためにここにいる」
男の手のひらが鋭く光り始める。
「それ故に、君に邪魔されるのは御免だ」
次の瞬間、目の前に異常なまでの魔力が迫っていた。
「爆破魔法」
「ッ——!?」
『ドガァァァァァァン』という爆発音が響き渡る。
壁や天井は崩れて、砂煙が舞い散る。
(リ、リリスの魔法……なんでアイツがッ——)
それも、リリスと同程度の魔力と破壊力。
すると、砂煙が勢いよく吹き消され、男がゆっくりと歩いてくる。
「今のを回避するとは。魔力が使えない君への天からのサプライズか?」
「ああ……あんな鈍っちょろい攻撃じゃあアタシに攻撃はできないぞ……ッ」
天井の破片が、腿に直撃して、血が吹き出すが、それでもなんとか立つ。
「そうか。では——」
異様な魔力が空気を震わす。
「炎魔法」
——第95話へ続く。




