第93話『分断:解析 その2』
「……囲まれたな」
辺りを覆い尽くす霧に紛れて、無数の赤い光が瞬く。
「か、囲まれたって……もうどーするのよー!」
「戦うしかない」
地面に触れ、巨大な影を生成する。
「使わせてもらうぞ。リリスッ」
巨大な影の中から、激しく発光すると、爆音と共に、霧が吹き晴れる。
「なによ今の攻撃ー!」
「前、リリスにお願いして影の中に魔法を撃ってもらったんだ。その魔法を今発動させた」
爆風が治ると、多くの異形魔物の死骸が散らばっていた。
「まあまあ削れたな。だが、まだまだ立っている」
異形の死骸の上に、別の異形魔物が立ち尽くす。
「何匹いるのよ……」
「ざっと百匹かしら……?」
(探知を使った時は数十体程度しか反応しなかったのに……まさか集まってきたのか?)
「ひとまず、異形を削りつつ、あの男を追うぞ」
『了解――!』
カルデラが風と熱を起こす。
「混合魔法・熱風!」
カルデラの魔力は互いに衝突し、巨大なファイヤートルネードとなり、異形共を覆い尽くす。
「カルデラ、ルナ。お前らは異形に集中してろッ」
「言われなくても、わかってるわよっ!」
影に潜ると同時に、部屋に津波が押し寄せる。
「ちょっと!せっかく燃やしたのに、全部消化しちゃったじゃない!」
「うるっさいわね!あなたが炎を使うのが悪いのよ!」
(全く、こんな状況でも言い争いするのかよ……そもそもルナは真面目だろ)
そんなことを思いながら、影の中を潜っていると、一匹の異形と目が合う。
(まさか――見えているのか?)
(いや、そんなはずはない。影空間の魔力は地上からは探知できないはずだ)
異形を横目に、リーマンが進んでいった方向に向かう。
その時。
「ヴルグガガガガガァァァァ」という呻き声に近い咆哮が響き、その異形が、影の中に居る俺にめがけて突撃してくる。
(なっ……なぜわかる)
異形は、真上。
その地面を掻きむしる。
(だが、入っては来られない。ここは俺の領域だ)
異形を無視して、リーマンの逃げて先に視点を戻す。
その時、突然背中にとてつもない衝撃が走り、影空間が歪んで体が地面にめり込む。
上を見上げると、巨大な石板が、異形を切り裂いて影の中にめり込んでいる。
(ッ――!?)
痛みと共に、影空間を維持している魔力が揺らいで、空間が崩れ始める。
(まずいッ……!閉じ込められたら窒息するッ――)
手を伸ばして、影から出ようとするが、巨大な石板が体を挟んでいて抜け出すことができない。
「見えていますよ。アルベド・ミラノ」
影の中でもはっきりとわかつた。
リーマンの声が聞こえる。
(な、なぜ見えるんだ……ッ)
「このまま、溺れ死んでもらいましょうか」
その言葉を最後に、リーマンの声は聞こえなくなった。
同時に、影の空間が崩れ、猶予はほぼなくなった。
(死ぬ……いや、これでいい――)
ついには影空間が完全に崩れ、ただの地中になった。
「もう!なんで全然削れないのー!」
「数が多すぎます……」
カルデラとルナの声が微かに聞こえる。
【リーマン視点】
薄暗い廊下をゆっくりと進む。
「確実にアルベド・ミラノは始末出来ただろう」
「同志レイルには『時間を稼げるばいい』と言われたが、私には始末も出来たみたいだ」
微かに光が漏れる扉を開く。
その部屋に踏み入ると、鼓動のような揺れが、一定のリズムで部屋を揺する。
「そろそろ……準備は整いますね」
部屋の中央に立つ、ガラスの円柱に触れる。
「Mr.ドゥケイルはとてつもない結界術で禁忌の魔物を封印しましたね」
ガラスの中には巨大な心臓が、ゆっくりと震える。
「仮にMr.ドゥケイル含む六戒師がここに来ようと、栄光は私たちが掴む」
「時代は『死を拒む時代』から」
「『死を望む時代』へと移り変わる――」
誰もいない空間に、自分の声が響く。
「そうだといいな」
突然、耳元で何者かに囁かれる。
「誰です」
ゆっくりと振り返る。
「なんと……アルベド・ミラノ。死んだと思っていました」
そこには、殺したはずのアルベドが立っていた。
「ちゃんと確認しないとな」
「なぜ生きている」
アルベドは軽く笑いながら、口を開く。
「一度消えた空間に俺が常に展開している持ち運び用の空間を展開した」
アルベドは地面の影に手を入れると、刃先が血に濡れたナイフを取り出した。
「あの時落とした石板はおそらく魔力でコーティングされていたな」
「地面に落ちた事で、魔力のコーティングが外れ、石板はただの地面になった」
突然、眩暈が起き、体が左右に揺れる。
「まあ、俺を殺す前に貴様が死んでちゃ世話ないがな」
腹部を激しい痛みが襲う。
手を当てると、当てた手にとてつもない量の血が付着した。
「……さすがです。Mr.アルベド」
その場に膝をつく。
「私の魔法は他人の脳を魔力で型取り……情報を抜き取る能力だ」
「あなたたちには前に、ボルテカで会っている……」
地面に大量の血が流れる。
「その時に、Ms.リリスとMs.エレナ、Ms.ネオン……そして、Mr.アルベドの情報を抜き取った」
「死に際にそんな話されても困るな」
アルベドは視界の端を歩いて、リヴァイアサンの心臓に近寄る。
「これを破壊したら全ては終わるな。貴様の死も無駄になる」
「……私の死は、望んだ死です」
「そうか」
意識がどんどん遠ざかっていく。
「最後に……時代は変わります――」
――第94話へ続く。




