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第五十四話 「 野望 」



 魔岩山(まがんざん)の頂上。

地表を深く深く垂直に掘り下げた場所にすっぽり隠れるように魔王城(それ)はあった。

 

 先端は山状に尖り、塔の側面には歪(いびつ)な形をした窓が不規則に並んでいる。

まるで、巨大な棺桶が立っているような。

城と呼ぶには、あまりにも奇妙な塔。

 

 塔の一番上にある窓へ、一匹のコウモリが飛び込んだ。


 部屋の中央には、天井から吊るされた真紅色のカーテンに囲まれた大きな寝台。

その傍らに立つ、白いローブ姿の男が一人。

コウモリは、男の前へ静かに着地すると、黒いマントを羽織った小男へと姿を変えた。


 黒光りした髪の毛、尖った耳と鼻。吊り上がった眉と目。土気色の顔の半分を占めている大きく裂けた口から覗く小さな尖った歯。

小男は、円背をさらに小さく丸めるようにして白いローブの足元へ跪き


「ドゥシア様!ご報告ギャビッ!」


と、金切り声で告げた。


「なんだ? ギャビよ、言ってみよ」


「結界内に侵入者(ネズミ)、侵入者(ネズミ)が三匹入りこみましたギャビーッ!」


ギャビは慌てた様子でマントをばたつかせて見せた。


「侵入者(ネズミ)?」


ドゥシアは眉を顰め、フンッと軽く鼻を鳴らした。


「バラク、シャラーラ、ズィルザール、ドゥンケルを襲った奴らギャビッ!」


「ほう… 。どうやら、偶然この山に迷い込んだわけではなさそうだな。どうやって入り込んだものか … 。

魔王様、どういたしましょう?」


ドゥシアは寝台の方へ向かって声をかけた。


 … 少しの沈黙の後


「ドゥシア、ギャビよ。慌てなくてよろしい」


と、落ち着き払った穏やかな声が答えた。


「 …… ところで、ドゥシアよ。人間界(アレ)の様子はどうだ?」


「はい、ご心配には及びません。じきにお望み通りに… 」


ドゥシアが答えると、魔王は続けた。


「この世界は美しい。魔界の美しさとは実に対照的だ。

私はこちらの美しさも愛おしい」


「 … 魔王様がおっしゃる " この世界の美しさ " 、私にはわかりません。

人間たちは強欲な生き物。欲の為に、他人(ひと)の命を奪う者もいる。

魔物らとなんら変わりないではありませんか」


「 … その通りだ。人間は愚かで欲深い。だが、中には美しい心を持つ者もいる。

その者たちは弱く儚い。ああ… なんと哀れで愛おしい」


すっかり酔いしれたような言い方で、魔王はさらに続けた。


「私がこの世界の " 富 " を支配し、欲に穢(けが)れた者たちを排除すれば、美しく儚い命や自然が、くだらぬ争いで奪われることはなくなるでしょう。

人々は私を崇め、真(まこと)に素晴らしい世界となるのです」


 魔王の言葉に、ドゥシアは黙って耳を傾けていた。


「ゴミ山を漁りながら必死で生きている者もいれば、同じ人間の命をゴミのように扱う者もいる。

この歪んだ世界を、私が正してやるのです。

穢れた者には相応しい魔界(せかい)を。

心美しき者には 人間界(パラダイス)を。

その両方を支配する私こそが、" 真の神 " となるのです!」


「もし人間達(かれら)が逆らったら … 」


ドゥシアが最後まで言い終わらぬうちに


「 捻りつぶすだけ!この世はすでに我が手中にある」


そう言って、魔王は冷ややかに微笑した。


「 では、魔岩山(ここ)へ入り込んだ奴らは私が始末しましょうか? 魔王様の邪魔をする者は、早めに始末した方が良いのでは?」


「まあ、あせるな。たかが三人の人間。ドゥシアが行くほどの相手ではなかろう」


「では、ギャビに任せましょう。ギャビよ、ゴーレムを連れて奴らを始末せよ!」


「ギャビギャビッ!お任せを!」


ギャビはすっくと立ち上がり、トタトタと小走りで部屋をあとにした。


「私の計画を邪魔する者は排除して構わぬ。いっそ見せしめとして人間たちにその姿をさらすがよい」


「承知いたしました」


ドゥシアは一礼すると、ギャビの後を追って部屋を出て行った。


 ドゥシアの足音が聞こえなくなると、真紅色のカーテンが揺らぎ、魔王は寝台から窓辺へ移動した。

 そして、歪な窓から差し込むわずかな光に目を細めながら、端正な顔立ちに似合わぬ不気味な笑みを浮かべていた。


「あの世もこの世も私のモノ。恐れるモノは何もない。

… 欲しい。欲しい。私こそが世界(すべて)を支配するに相応しい … 」



          ♢ ♢ ♢



 その頃、城内のホールでは、ゴーレム兵達が、今か今かとざわついていた。

全身は茶褐色の岩石で覆われ、頭部には目と思(おぼ)しき青白い光が脈打つ二つの窪み。

それぞれに鼻らしき小石や、口らしき穴もあるが、表情というものは存在しない。

肩幅は広く、四肢は丸太のように太い。

足を踏み鳴らす度、地面を揺らす重い振動が塔の壁にまで伝わるようだ。


 小男のギャビがピョンピョン跳ね、必死に声を張り上げながらゴーレム達を仕切ろうとするが、彼ら(ゴーレム)は気にも留めていないようだ。


「おいっ!ゴーレムどもっ!ギャビの話を聞けギャビッ!

聞けってばギャビーーーッ!!」


そこへドゥシアが現れると、騒がしかったホールがピタリと静まり返った。


「ん? どうしたギャビ? おお、ドゥシア様!」


ゴーレムより遅れてドゥシアの姿を見つけたギャビは、慌ててドゥシアの元へ駆け寄った。


ドゥシアは、ゴーレム兵へ向けて言った。


「皆よく聞くがよい。魔王様の命令だ。三匹の侵入者(ネズミ)を捕らえよ。傷はつけてもよいが、息は止めるな。

" 反逆の見せしめ " として人間たちの前で処刑する!」


「ウォーーーーッッ!!」

「ボホホーーーッッ!!」


ゴーレム達が一斉に雄叫びをあげた。


「さあ!ギャビに続き、行くが良い!」


「フゴーーーーーーッッ!!!」

「よしっ!ゴーレムども、ついて来るギャビーーッッ!!」


巨兵ゴーレムの群れは、城から放たれた!






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