第五十五話 「 作戦 」
その頃、山頂では
「どうする?ゴーする?するするぼーん作戦〜っ!!」
ひとりテンション高めの俺にリンが尋ねた。
「 … で? 一応聞くけど、真面目な作戦があるのよね?」
「よくぞ聞いてくれました。言うぞ?言っちゃうぞ?」
「もったいぶらずに教えてくだされ」
「 ああ。 さっき俺たちは、進もうとしたら足が重くなって思うように歩けなかっただろ? " 歩こうとする " のを阻む力が働いたからだ。 … つまり!」
「ふむ。つまり?」
「 " 歩かなければいい " のさ。歩くのをやめて、うつ伏せで匍匐前進するんだ。そうしたら進むはず。するする〜っとな」
「呆れたっ!どんな立派な作戦かと思ったら匍匐前進ならスルスル行けるですってェ?
じゃあ、勇者がお手本を見せてちょうだい!」
「俺は真面目だぞ。自称雑学博士の名案!この作戦は間違いない!見ててくれ」
そう言って、地面に体を伏せる。
背中のリュックで完全に亀状態だが致し方ない。
体をできるだけ低く、地面と一体化するような気持ちで。
そして、前腕、肘、膝、つま先を使って前へ進むのだ。
進む。
一歩。
進む。
一歩、また一歩。
… しかし、スルスルボーンッとはいかないものだ。
匍匐前進初心者のせいもあり、正直、歩くより速く進んでいるとは言い難い。
焦りを感じながら、しゃかりきに体を動かしてみる。
「勇者… ?」
リンがいつもより低めの声色で俺を呼ぶ。
「はい?」
リンの冷ややかな声色を気にしない素振りで答える。
「匍匐前進でもたいして進めていないみたいね?」
「いや… 俺的には順調順調、順調でありますっ!」
「そうかな… 私にはそう見えていないけど。それにね、歩くのダメなら匍匐前進… って、箒ちゃんのことはどう説明するの?箒ちゃん、行きはスイスイ帰りがノロノロ… だったわよ?」
「うむ。そうだな… ふむふむ 」
手足の動きを止め、考え込む素振りを見せる。
うつ伏せで地面を見つめていると、ふと岩陰に生えている小さな草花が目に留まった。
乾燥した地面から伸びた葉や茎は弱々しく、今にも枯れかけている。岩陰で充分な日光も当たらないのだろう。
俺は、無言で体を起こした。
「勇者どん、どうしましたかな?」
「ちょっとタイム!」
リュックサックから水筒を取り出し、その小さな草花に水を与えた。
「喉が渇いてるだろ?たっぷり飲んで元気出せよ」
「これから魔王城へ行くっていう時にどうしたの?」
「この草ら見てたらほっとけなくてさ。魔王討伐するまで放っておいたら、枯れてしまうだろ?
緊急を要する事態だ。 … お?ここにもあるぞ」
少し離れた場所に見つけた草花にも水をわけ与える。
「良かったなぁ。たくさん飲んで元気になれよ」
『アリガトウ』
「……… えっ? 喋った?」
『アリガトウ』
「おおぅ!俺の言葉がわかるのか」
『アナタモワカルノネ』
「君たちは、魔王の力を受けている " 魔草 " なのか?」
『イイエ。自然界で生まれた草花ヨ。
ココヘ人間が来るのはずいぶん久しぶりダワ』
「そうか… 。実は、この先にある魔王城を目指しているんだが、何かの術がかけられていて、進もうとしても思うように進めなくて困っていたんだ」
『アラ。ソレナラ " 魔王城へ行コウト思ワナケレバイイ " ノヨ』
「" 魔王城へ行こうと思わなければいい ?そういうわけにはいかないよ。俺たちは魔王討伐の為にここへ来たんだから」
『行くノヲヤメル必要ハナイワ。" 魔王城へ行コウ " と
思うノヲヤメルノ! " 魔王城へ行コウト思ウカラ邪魔サレル " ノヨ。
ダカラ、考エルノヲ止めるノ!カンタンデショ?』
「… "魔王城へ行こうと思うから " 邪魔される??
考えるのをやめろと言われてもなぁ… 」
この草花の言うことを信じていいのだろうか?
もしや、俺たちを罠にはめようとしている… ?
いや、今の俺には打開策が思いつかないのだから、信じる以外に他はない。やってみて損はないはず。
疑って何もしないより、信じて失敗する方がいい!
俺は、言われた事を頭の中で整理しながら策を練った。
その様子を見ていたモジャがリンへ話しかける。
「勇者どん、何やら草花と話しているようですぞ?」
「勇者の能力は植物とも話せる能力なのかしら」
「今までそんな事はなかったはずですぞ。勇者どんのオンビンリョクは、進化しとるんですかのぅ」
「オンビンリョクが進化…? 面白いわね … 」
すると、突然勇者が立ち上がった。
「そうか!わかったぞ!」
「何がわかったのですかな?」
「俺たちは " 魔王城に向かおうとしていたから " 阻まれた。
箒ちゃんは、行きは軽い気持ちで飛んで行ったが、帰りは
" 魔王城の場所を俺たちに伝えようとしたから " 妨害された」
「ふむ」
「つまり、これは " 魔王城に関する強い気持ちを持っている者の行動を封じる術 " なんだ』
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「魔王城を頭に浮かべたらダメだ。心を " 無 " にするんだよ」
「何も考えなければ進める、とな?難しそうですな」
「そうね… 魔王城のことを考えずに魔王城を目指す、なんて。魔王城の場所を知ってしまった以上、忘れるなんてできないわ 」
「俺には秘策がある。よしっ!見せてしんぜよう!」
すかさずしゃがみ込み、リュックをまさぐる。
「 … これだ!」
その手応えに、思わず口元が緩む。
汚さないよう、母ちゃんに頼んで作ってもらったピンクの布カバー。
リュックサックに大事にしまい込んでおいたカードホルダーだ。
チョコウエハースやレトルトカレーのおまけでゲットしてきた俺の宝物。
これこそが、俺の切り札。
ゴクリと唾を飲み込み、迷わず一枚のカードを引き抜く。
「俺の、ターーーンッ!!」
勢いよく立ち上がり、頭上高くカードを掲げる。
そして、精一杯カッコつけてカードを読み上げる!
「ミーコ・スペシャルカード!!!
" 晴れた日曜日のミーコ " 降臨!
お日様サンサン・桜咲く咲く・クロワッサンでサックサク・モーニングゥゥゥゥゥゥッ!!」
金色とピンク色のラインで縁取られたカードに描かれているのは、お洒落なカフェテラス、丸テーブルの席につき、片手にクロワッサンを持つミーコ。今にもバターの香りがしそうなサクサク・クロワッサンを食べようとしている瞬間の絵柄だ!ポニーテールに真っ白リボンと、レースをあしらったワンピース姿。
か、か、かわゆーーーーーいっ!!
「これを!俺は3の岩に召喚っ!!」
俺は、胸元に当てた人差し指と中指の間にカードを挟み、そのまま平行に滑らすよう腕を前へ!
3つ先にある岩を目掛けて。
すると、カードは風に乗り、狙い通り3メートル程先にある岩の下へポトリと落ちた、
「おっと!ミーコのカードがっ!(汚れてしまう!急いで拾わねばっ!)」
反射的に走り出し、スライディング!
ミーコのカードを拾い上げる。
「えっ?嘘でしょっ?」
「勇者どん、やりましたな!」
おおおおおおおおーーーーーーーーっ!!
俺は成功した!!!
思考から " 魔王城 " を消し去り、ミーコだけに神経を集中させたことで、想定以上のスピードで進むことに成功したのだ!
推し活パワー、侮るなかれ!!
この作戦ならグイグイいけるではないかっ!!
「すごいけど ……… 私には無理だわ」
「わしも ……… 自信がないですなぁ」
リンとモジャは同時にため息をついた。
そんな二人をよそに、カードを抱きしめ浮かれる俺と
喜びを分かち合うようにクルクル回る箒ちゃん。
魔王城を出たゴーレム巨兵たちが、こちらへ向かっているとはつゆ知らずーーーーー。




