第五十三話 「 山頂 」
〈 ーーー空の向こうに 虹が見えたら
宝物 見つかる合図
泉湧き出る 希望の光
目指せ 走れ あの場所まで さあ行こう!
いざ進め!いざ進め!
いざ進め!Let's move on! 〉
桜の花びらが舞い散るステージ。
ピンク色のフワフワした髪の毛を揺らしながら、元気いっぱいに歌うミーコ。
頬もピンク色に染まって、最上級に可愛い。
観客は俺ひとり。天にも昇る気持ちだ。
歌い終わると、ミーコが俺を見つめて言った。
「勇者さん、応援してます!」
ーーー 驚きと感激のあまり、声が出ない。
" 推し " が 俺を推してくれるとは!!!
胸がいっぱいで、ただただ頷くだけの俺 ーー
その時、突然ライトが消え、ミーコの悲鳴が響いた。
俺は、観客席から立ち上がり走り出す。
「ミーコォォォォーーーーーーー っ!!!」
※ ※ ※
「 ‥…… 勇者どん?勇者どんっ!!起きてくだされっ!」
激しく体を揺さぶられ、ハッと我にかえる。
「 … うぇっ??! えっ?? 夢かぁ… 。良かった … 」
どうやら、ほんの数秒夢を見ていたらしい。
モジャの手を握っていたせいか …(夢見スプレーが残っていたのか )?? (第四十一話「 難関 」参照)
気がつけば、全身汗びっしょりだ。
ミーコに何かしらのアクシデントが起こった夢‥。
幸せな気分だったのに、不吉な終わり方で胸がざわつく。
「勇者、なんだか顔色が悪いけど大丈夫?」
「悪い夢を見てしまった … 」
「空を飛んだ恐怖のせいですかの?もう安心ですぞ」
足元の雲がゆるりと解けていく。
龍雲は俺たちを地面に降ろすと、瞬く間に飛び去って行った。
「お礼を言う間も無く行っちまったなぁ … 」
龍雲を見送った後、今いる場所を確かめるように辺りを見回す。
眼下に見えるのは、一面に広がる真っ白な雲の海と、
隙間からわずかに覗く山肌の緑。
ここへ来た目的や時間さえも忘れてしまいそうな美しさだ。
渇いた地面にはゴツゴツした岩。
その傍らに、遠慮がちに寄り添う草花たち。
何の変哲もない山頂に思える。
「 … 肝心な魔王城が見当たらないぞ?」
「龍雲が場所を間違えてしもうたのか?」
「姿を隠す魔法で見えていないだけ、かな?」
俺は、何か触れる物はないかと腕を前に突き出してみた。だが、何も触れない。
「結界の中には入り込めたから、近くにあるはずよ。
ぐずぐずしていたら魔物達に気付かれるわ。急いで進みましょう」
いつ、どこから魔物が現れるかわからない。
緊張で手のひらに汗が滲む。
リンとモジャも、いつになく真剣な面持ちだ。
俺たちは、慎重に山頂の地を踏みしめる。
一歩、二歩、三歩 …
だが、進むごとに違和感があることに気がついた。
足が妙に重い。硬い地面のはずが、泥沼を歩いているような感覚。
" ここから先には進ませない " と地面が意思を持っているかのようだ。
「どうも足が重いんだが」
「私もよ。この調子じゃ簡単には進めないわ。
魔王城に着くまで、魔法は極力控えたいのだけど … 」
「勇者どんの " オンビンリョク " とやらで何とかならんのかのう?」
「それが、いまいち効果がわからないんだよなぁ。
リンやモジャが聞き取れない魔物や動物の言葉がわかる、くらい。 とは言え、ここには俺たちしかいないしなぁ … 」
『マジカァァ!ヤクタタズカッ? … デモ、スキ♡』
「えっ?! やだ、ちょとぉっ!箒ちゃんじゃない!!
いつのまに?」
『リンニ忘レラレテタカラ、追イカケテキタ!』
「ごめんごめん!」
リンはなだめるように箒を撫でた。
「箒ちゃん、この先に魔王城があるか偵察してきてくれる?」
『アイアイサー!アイ愛サーナノサー!』
箒ちゃんは、俺の周りをくるりと一周した後、軽やかに飛んで行った。
「よっぽど勇者どんが気に入ったのですなぁ」
「ふふっ。モジャには塩対応なのにね」
俺たちは箒の後ろ姿を祈るように見つめた。
どうか魔王城が見つかりますように、と。
♢ ♢ ♢
やがて、箒が戻ってくるのが見えた。
威勢良く飛び出した時とはうってかわって、ノロノロ蛇行しながら戻ってくるではないか。
「箒ちゃん、どうしたの?」
『ナンダカ、カラダオモイ』
「やっぱり、侵入者を妨害する何かしらの術がかけられているのね。
… で、どう? 魔王城はあった?」
『コノ先、アノ岩ヲコエタラ、フカイフカイ縦穴ノナカ、城ラシキモノアルヨ』
「穴の中?それで見えなかったのね」
「目的地はもうすぐそこですな!よしっ。行きますぞっ」
「だけど、このままだと何時間かかるかわからないわよ」
「そんな時には、" どうする?ゴーする?するするぼーん作戦 " なのだっ!」
「勇者!ふざけている場合じゃないでしょ?」
「フッ。心配ご無用。名案が浮かんだのダッ!」
そう言って俺は、左手を腰に、右腕は前へ伸ばし、親指と人差し指以外の三本の指を折り、左足を可愛らしく曲げるポーズをとった。
ミーコ『 いざ!進め!』 の決めポーズを!
リンとモジャの冷ややかな視線を受けながら‥ 。




