第五十一話 「 共鳴 」
「その前に、わらわは " うんこ " する」
衝撃的な山樹林神様の一言に、俺たち三人は目をまん丸くして叫んだのだった。
自然界の美しい女神様が……
いや、しかし、生きていれば当然。排泄は生理現象、どの生き物にもつきものだ。
アイドルだって、神様だって、出る物は出る。
気まずい空気を察したのか、山樹林神が怪訝な表情で俺を見つめた。
「何を騒いでおる?」
「いえっ!失礼いたしました!えっと、俺たちは少し席をはずしますので、どうぞごゆっくり… 」
立ち去ろうとした俺の腕を山樹林神がぎゅっと掴んだ。
「ここにいて見るがいい」
「えええっ??! いや、いくらなんでもそれは罰当たりですので」
脳裏にちらついたモザイク画像を、首を強めに振って振り払う。
「おかしな奴じゃ」
いやいや、おかしいのは神様ですからーーーっ
と、ツッコミたい気持ちをグッと抑えて平静を装う。
「山樹林神様、人間界では、排泄は人に見てもらうものではないのです」
言葉を選んで丁寧にお断りをする。
リンとモジャも困惑した表情だ。
「イモの言っていることは理解できぬ! うんこしなければ、神の道へは行けぬぞ」
「じゃあ、俺が代わりにしますっ!山樹林神様を辱めることなぞできません!」
「そうですぞ。なんならわしも加勢いたしますぞ!」
モジャがドンと胸を叩く。
すると、俺たちの様子を見ていたクラーネが言った。
「ぬう?お前たち何か勘違いしておるのではないか?」
「え?勘違い?」
「神の道へ行くには、雲を呼ぶ必要がある。それを雲呼と言う」
「雲を … 呼ぶ … うん… こ… ?」
俺たち三人は顔を見合わせて苦笑した。
誤解が解けたところで、山樹林神が
雲呼を始めた。
巨樹からもぎ取った枝を一本。頭上高く掲げ、楕円を描くように動かしながら唱える。
「雲呼雲行雲海を越え 風雲天空山樹
一体となり 天道我が道となれ!」
山樹林神が唱え終わると、ザザーーーーッと強い風が吹いた。
辺り一面の木の葉や花びらが竜巻のように舞い上がり、空高く昇っていく。
風に吹き飛ばされないよう、俺たちはおしくらまんじゅうのように身体を寄せ合った。
山樹林神とクラーネは、強風にたじろぐことなく、堂々とした佇まいで空を見上げていた。
ほどなくして風は止み、静まり返った山林へ向かって、空からスルスルと純白の龍が舞い降りてきた。
山樹林神が手にしていた枝を龍の額にあてると、龍の体はほどけ、真っ白いわたあめのような雲となり、俺たちを取り囲んだ。
「この雲に乗り神の道を進むのじゃ。さあ、乗るが良い」
「雲って乗れるのか?」
半信半疑で雲に手を差し入れると、触感はない。
だが、恐る恐る足を乗せると、雲の絨毯は儚い見た目とは反してしっかりとした存在感があった。
「龍雲がイモ達を乗せて神の道を行く」
「山樹林神様とクラーネは一緒ではないのですか?」
「わらわとクラーネは行かぬ。魔王討伐は、イモとパンダバとの約束であろう?」
「俺たちだけで神様の道を通れるのですか?」
「わらわはそなた達から " 一番大切な物 " を預かったであろう? それが契約のようなものでな、そなた達の心はわらわの一部となった。ゆえ、神の道を通れるのじゃ。
さあ、行くがよい」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げると、ふんわり甘い香りに包まれた。
山樹林神が優しく … いや激しく、半ば強引に、ギュギュギュギューーーッと力強く抱擁してくれた。
「そなた達の無事を祈るぞ」
「はい。山樹林神様、クラーネ、ありがとう」
俺たち三人が龍雲に乗り終えた途端、龍雲は滑るように空に昇っていく。それはそれは猛スピードで。
山樹林神とクラーネの姿があっという間に小さくなっていく。
「うお、お、お、おーーっ!!はっ速すぎるうーーーっ!
たっ高い高い高いーーっ!」
「勇者どん、目をつぶるといいですぞ」
「そ、そうだな。そうしよう」
「ここから先が " 神の道 " なのね。素敵」
「す、すてきぃ??」
目をつぶったまま聞き返すと、リンがウットリしているような声色で答えた。
「金色の光に包まれているみたい。スイスイスーッと進んでるわよ」
「それは良かった… 。着いたら教えてくれ」
俺は固く目を閉じ、無意識にモジャの手を握りしめていた。
山樹林神様に、どこかでサルジュとワームを見なかったか、聞きそびれてしまった。
山にいるのか… 魔王に捕えられてないといいが… 。
♢ ♢ ♢
「行ってしまったな … 」
山樹林神がポツリと呟いた。
「おや?山樹林神様、着物の袂が光っておりますが?」
クラーネに言われ、山樹林神が着物の袖を手に取った。
勇者たちから預かった " 一番大切な物 " たちが、共鳴しているかのように、微かに震えながら光を放っている。
「これはこれは。フフッ … 面白いのう」
山樹林神は笑みを浮かべ、空を仰いだ。




