第四十九話 「 二股 」
張りきって出発したものの、二時間近く歩き続けているとさすがに疲れが見え始めた。
道中で美しい野鳥や木の幹をよじ登るリスを見つけては 「見て見て〜!」
と歓声をあげていたリンも、今は無言。
三人の足取りは少しずつ重くなり、黙々と歩くだけだった。
耳に入るのは、踏みしめる落ち葉の音と、俺の腹の音。
突如、先頭を歩いていたモジャが立ち止まった。
その先には、左右へ分かれる二股道。
「はて。どちらへ進めば良いですかな」
モジャが左右の道をキョロキョロ見比べる。
ここまで歩いてきた道とさほど変わりなく、どちらも似たような風景だ。
「俺の直感は左だと言っているぞ」
「あら、私の直感は右よ。多数決で決めましょ」
俺とリンの視線はモジャへと向けられる。
「このモジャに決定権があるとな?
いやいや、わしには決められませぬ。勇者どんとリンで決めてくだされ」
「それなら公平にジャンケンでどうだ?」
「OK!受けて立つわ」
「それじゃあいくぞ。最初はグー、ジャンケンぽんっ!!」
「やったぁ!私の勝ちねっ!」
俺のグーに、リンのパー。リンは満面の笑みでガッツポーズ。
なんともあっけない勝負だった。
「では、右に進みますぞ」
「そうだな。異論はない」
潔く答え、右側の道へ足を踏み入れる。
あとどれくらい歩けば目的地に着くのだろう。
ゴールが見えないというのは、実につらいものだ。
そんなことを考えながら二十分程歩いた頃、再びモジャが立ち止まった。
「これは … さっきの場所に似ておりますな。また二股に分かれておりますぞ」
「山の中はどこも似たような感じじゃない?」
「念の為、目印をつけておこう。俺のタオルをこの枝に巻いておくよ」
「そうですな。では次は左へ行ってみますぞ」
モジャに続いて左側の道を進む。
確かに山道は似たような風景だ。足元の土や石、並んだ木々も同じように見える。
一人だったら、完全に方向を見失って迷子になっていただろう。
ーー それから二十分位経っただろうか。
モジャが前方を指差しながら大声をあげた。
「なんとっ!またもや二股道ですぞ!」
「あら!? あそこに見えるのは、勇者のタオルよね?
さっきの道へ戻ったっていうこと?!」
「右へ行っても左へ行ってもここへ戻るのか。無限♾️ に歩き続けるところだったな」
「この先へ進めないように術がかけられているのね。
時間と体力の無駄遣いしちゃったわ!」
リンは悔しそうに両頬を膨らませた。
「けど、これ以上行かせたくないということは、この先に魔王城がある確率は高いぞ。
… 二股の中間にある道なき道を進んでみるのはどうだ?」
「ええーーーっ?! この草ボーボーの中を歩けって?
無理無理無理っ! それなら私は箒ちゃんと飛ぶわ。勇者とモジャはどうぞ」
「なぬっ!? それならわしも箒どのに乗せていただく方を所望しますぞ!」
「なんだよぉ。さっき、どこまでも一緒だって言ってたのに… 」
「時と場合によりますぞ」
モジャはキッパリと答えた。
「いっそ、リンの魔法で結界を壊すのはどうだ?」
俺の提案に、リンは腕組みをして考える仕草を見せた。
「 ここで結界解除の魔法を使えば、魔物たちがいっせいに襲ってくるかもしれないわよ」
「ここに辿り着くまでにも、魔人たちと遭遇したんだ。いつ魔物が襲ってきても、覚悟はできてるさ」
「しかし、魔王城へ着く前に疲弊してしまいますぞ。できるだけ体力を温存するにこしたことはない」
「そうね … 」
「 … こんな時、 山樹林神様がいたら、何か知恵を貸してくれたかもしれないな。この山を知り尽くしているはずだからな」
『会いたいのか?』
「ああ。… 山樹林神様には、サルジュのことも聞きたかったんだ。どこかで見かけてないか…
っっって!? クラーネッ!?? いつの間にっ??!」
背後からの気配に振り向くと、真っ黒な羽に熊の顔、クラーネの姿があった。体の大きさは、昨日よりもずいぶん小さい。とはいえ、俺たちの何倍も大きいが。
物音一つしなかった。いつから後ろにいたのやら… さっぱり気がつかなかった。
「山樹林神様はすっかり憔悴してしまってな。あの方はああ見えて、メンタルはかなり乙女。正直、心配でな」
クラーネは銀色の瞳を伏せた。
「でも、ダメよ。勇者は好きな娘がいるから」
「そうですぞ。神様の思い通りにはいきませぬ」
「クラーネ、力になれなくて申し訳ない。俺には山樹林神様が元気になるように祈るしかできない… 」
「仕方がない… 時間が解決してくれるのを待つ。すまなかった」
クラーネが頭を下げ、羽を広げて立ち去ろうとしたその時。
「フッフッフッフッ… 」
不気味な笑い声が響いた。
「な、なんだっ!?」
俺とモジャは素早く剣を構え、リンは杖を取り出した。
三人の目は、木の間に潜む何者かの姿を捉えた。




