第四十八話 「 信頼 」
翌朝は澄みきった青空。
朝食の後片付けを終えた俺は、陽の光に誘われるようにテントの外へ出た。
伸び伸びと枝葉を伸ばす木々、美しい花々、鳥や虫の声。
おいしい空気。 なんとも贅沢な自然!
「おはよう!」
誰にというわけでもなく、周りの木々や草花にむけて声をかけると " おはよう" と 聞こえてくる気がした。
自然の息吹を感じながら、大きく深呼吸。
そして、スマホでミーコの曲をかけながら、ノリノリでダンス&ストレッチ。
『 いざ!進め 』 勇者オリジナル体操だ。
曲のエンディングになって、モジャが近付いてきた。
長く伸びた無精髭を指先で撫でながら、気まずそうな表情。
「勇者どん、その奇妙な動きは … 具合でも悪いのですかな?」
「奇妙な動き… ってひどいなぁ。ダンス&ストレッチ!
勇者オリジナル体操だよ!」
「それは失礼。… ところで、そろそろ出発しませぬか?」
「がってん承知の助!気分上々、準備万端!」
「そりゃけっこう」
モジャがにんまり微笑む。
「… けど、俺がクラーネにさらわれたせいで、魔王城から遠くなってしまったな。俺のせいで … 申し訳ない」
「 そうでもないと思うわ」
声がした方へ振り返ると、ローブに着替えすっかり支度を整えたリンが立っていた。
「箒ちゃんで勇者を追っていた時、山頂に向かっていたからむしろ近付いたんじゃないかしら。結界を張られているから、簡単には見つけられないかもしれないけど」
「魔王城が近かろうが遠かろうが心配ご無用。どこまでも勇者どんのお供をいたしますぞ」
「そっか。ありがとう」
ーーこの二人と一緒で良かった。
山に入った時は、こんな素晴らしい信頼できる仲間と出会えるなんて思いもしなかった。
嬉しくなって、ミーコの歌を口ずさみながら歩き出す。
この二人と一緒なら怖いもの無し!
いざ進め〜いざ進め〜レッツムボーン!!
♢ ♢ ♢
その頃 『 死の門 』 (第五話『選択』参照) では ……
「パンダバ様、起きてくださいっ! 」
青みがかった銀色ツインテールの少女が、眠っている老婆の肩を揺する。
少女の白いワンピースとは対照的に、老婆は真っ黒な顔に足先まで隠れる真っ黒な服。長い白髪だけが、ひたすら広く真っ白なこの空間に溶け込んで見える。
「 … ちゃい … 起きとる … 」
パンダバ様と呼ばれた老婆がモゴモゴ口元を動かす度、顔に刻まれた皺がゆがむ。
「いえ、完全に寝てましたよね? アノンはしっかり見てましたっ!何度目ですか。寝すぎですよ」
アノンがピシャリと言い放つと、パンダバは半開きの瞼をしょぼつかせながらゆっくり開く。それから、体をゆっくり起こし大きな伸びをした。
「 … ほわわぁぁ … 人間界に行った時に神力を使いすぎたんちゃろな。今は神力回復期ちゃい」
「仕方ないですねぇ。年齢のせいもありますしね」
「馬鹿を言うな。まだピッチピッチの神ギャルちゃい!」
「サバ読むにも程がありますよ、パンダバ様!
パンダバ様がちょいちょい寝ている間に、人間界が良くない状況になってきましたよ」
「ほぬ?」
「見て下さい、アレを」
空間に浮かんでいる複数の映像。
中央にある一際大きなスクリーンには勇者一行の姿。
それを取り囲むように散りばめられたスクリーンから、
アノンがいくつかを指差した。
その手をいったん握ってパッと開く。
すると、選ばれたスクリーンが一瞬にして拡大した。
そこには、T-Godグループ本社ビルの前に、多くの人間たちが群がっている様子が映っていた。
" 地神宗玄" つまり魔王を支持する魔王信者と、彼の支配によって仕事を奪われた反対派の人間たちが暴動を起こしている。
「魔王様のおかげで戦争がなくなった!魔王様を信じていればこの世は平和だ!」
「魔王様こそ神!我らの世界を変えてくれる!」
魔王は、数年前から地神宗玄という実業家として、人々から高い評価と信頼を得てきた。
彼には、どこか人間を惹きつける魅力があるのだろう。
それに反発している者たちは
「魔物に支配されている現在が平和だって?」
「自由がないも同然だ!」
「お前らには人間の尊厳はないのかっ!」
と口々に叫ぶ。
掴み合いや、殴り合っている者もいる。
しかし、それも束の間。
すぐに魔王の部下たちが駆けつけ、抵抗する者は警官に拘束されていくのが見えた。
パンダバは深くため息をついた。
「魔王のせいで人間界が混乱しておるちゃい。
はじめは支配されるがままだった人間たちが、声をあげ始めたちゃい。" 恐怖 " から " 憎悪 " の感情に変わったちゃい」
「だとしても人間たちに勝ち目はない… ですよね」
「そうちゃいねぇ。魔王がその気になれば、魔物どもを使って人間を滅ぼすのは容易いこと」
「そうしないのはなぜかしら?」
アノンは答えを求めるようにパンダバの顔を覗き込む。
パンダバは首を横に振りながら静かに答えた。
「魔王が欲しいのは " 人間がいるこの世界 " なのだろちゃい 。 …… 知らんけど!」
「でも、人間たちが逆らうようになったら、何をするかわかりませんよね … 」
「そうちゃい! 血も涙もない男ちゃい!
わしは魔王を止めようとして人間界に行ったちゃい。だが魔王は、魔人どもを使ってわしを捕らえようとした。 泉月勇者がおらんかったら、酷い目にあわされたかもしれんちゃいっ。思い出すと腹わたが煮えくりかえるっちゃいっ!!」
「それで、勇者様に託したのですね」
「人間界は人間が守るのが一番ちゃい。勇者なら、わしが与えた " オンビンリョク " で、あっという間にちゃちゃいのちゃいっじゃ!」
(そう思えないのはアノンだけかしら … )
アノンは言葉を飲み込んで、手にしたグラスのジュースを一気に飲み干した。




