↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/208

17 幸せです

デビュタントの花冠を贈るのは、『私の初めてをもらってください』という意味になる。


――というのは、真っ赤な嘘だった!

私はキャサリンに騙されたのだ。


思わず「リチャード、ごめん! やっぱりそれ返して!」と言ってしまい、リチャードを涙目にさせてしまった。


泣きそうなリチャードに慌てたキャサリンが、「うわあ、リチャード様! ごめんなさい!」

と叫び、本当は、『いつまでも一緒にいてください』という意味なのだと教えてくれた。


「やっぱりこれ貰って!」


慌てて花冠をリチャードの頭に載せ直す。

リチャードはじっとりした目で睨んできたが、なんとか涙は引っ込んだようだ。

危なかった。

一度渡しておいてすぐに取り上げるなんて、悪役令嬢っぽくて最悪だものね。

ちなみにキャサリンの花冠はエリオットが頭に載せている。




そんなこんなでワチャワチャ大騒ぎしていたら、背後から突然、声をかけられた。


「リズ。キャシー。ああ、綺麗だよ。本当に大きくなって……」


この声は!

私のことを「リズ」と呼ぶのは、今現在は一人しかいない。


恐る恐る振り返ると、そこには、私達の父親、ヘンリー・バートン子爵が立っていた。


ヘンリー・バートン。バートン子爵。

端正な顔立ち、すらりとした体躯、気品あふれる佇まい。

女性であれば「傾国」と称えられるであろう美貌は、かつて隣国の王女をも虜にし、ついには隣国に攫われそうになるという大事件を引き起こした。

それが理由で、我が国と隣国ロトリアの間に不和が生じ、現在に至るまで続いている。

現王が王太子だった頃は側近として仕えていたが、その事件の後は表舞台に立つことなく、自領で静かな日々を送っている。


その傾国の子爵こと父は今、細い銀縁の眼鏡をかけている。

確か目は悪くない筈だったので、美貌を隠すための伊達眼鏡だろう。全然隠れていないが。

父は目に涙をいっぱいに溜めている。いつ決壊して溢れ出てもおかしくないほどだ。

そして、掠れたような声で囁くように言った。


「久しぶりだね、リズ。元気そうで良かった。……リズにはまだきちんと謝っていなかったね……本当に、本当に申し訳なかった。私が不甲斐無いばかりに、リズを家から追い出すような形になってしま……ぐはっ!!」

「せっかく私とお姉さまが『仲良し姉妹』だと見せつけたのに、何言ってくれてんの!?」


キャサリンが、笑顔で父に走り寄り抱き着いた――と見せかけて、思いっきり助走をつけて鳩尾に頭突きした。

せっかく私達が『仲良し姉妹作戦』を成功させたのに、ここで父が私に謝罪なんてしたら台無しになってしまう。

キャサリンが父を黙らせてくれて助かった。


「エリザベス様、キャサリン」

「あ! お母さま!」


名前を呼ばれて振り返ると、黒髪黒目の物凄い美人が立っていた。

キャサリンがお母さまと呼ぶこの人は――ドロシー・バートン。現バートン子爵夫人。


かつて一目惚れした父に薬を盛り思いを遂げ、キャサリンを授かった彼女は、母が死ぬまで父に子供の存在を明かさなかった。

その結果、母マーガレットはドロシーのこともキャサリンのことも知らずに亡くなった。

あのつまらない小説では私(エリザベス)を虐めるひどい継母だが、現実の彼女は私とはほとんど接点が無い。


「エリザベス様」


継母(ドロシー)は、私の目を真っ直ぐに見た後、ゆっくりと淑女の礼を取った。


初めましての挨拶、デビュタントの祝い、そして、多分、私がバートン子爵をを出て行くことになったことに対する謝罪。

そんな万感の思いが籠められた、見惚れるほどに美しい淑女の礼。


それに対して私ができることはたったひとつ。

淑女の礼を返しつつ、笑顔で言う。


「ありがとうございます、お(・)か(・)あ(・)さ(・)ま(・)」


少しこわばっていた継母(ドロシー)の顔が、ほっとしたように笑顔になる。

この人も、苦労したのだ、きっと。

この人のしたことは許されないことだったかもしれないが。

でも、今となっては、私はキャサリンと仲良くしているし、フォークナー伯爵家で幸せに暮らしている。

だから、もう良いのだ。

私はもう、あのつまらない小説のドアマットヒロインではないのだから。


なんだかすっきりした気持ちで横を見ると、キャサリンが父に白薔薇のブーケを手渡していた。

父はそれを嬉しそうに受け取ると、めそめそ泣きながらキャサリンに何か呟いて、再び抱き着くと見せかけての鳩尾への頭突きを喰らっていた。

何を言ったんだろう。気になる。

その後、父はよろよろとよろめきながらこちらを見た。

その視線の先には――白薔薇のブーケ。


(えっ、もしかして私のブーケが欲しいの? でも、これはおじいさまにあげるって約束しちゃったからダメダメ。えーっと、他に何か、渡せるものはないかな……)


慌てて周りを見回すと、リチャードと目が合った。

だが、リチャードはさっと花冠を背後に隠し、ふるふると首を振った。

花冠を取り上げられると思ったのだろうか。


(二度も取り上げるなんて、いくらなんでもそんなひどいことしないってば!)


私は安心させるように、笑顔で頷いておいた。

リチャードはそれを見て、ほっとしたような顔になった。


(さて、どうしたものか……そうだ!)


私は父の前に進み出て、スカートの裾を持ち軽く膝を曲げる。

そして、思いっきり「天使の笑顔」を作って言った。


「お父様、一緒に踊ってください!」


父の涙腺崩壊。

キャサリンが声を出して笑いだし、継母(ドロシー)が穏やかな微笑みを浮かべた。

周りを見ると、多くの貴族たちが、顔を赤くして胸を押さえている。

やっぱり、注目されていたようだ。


それから私と父は、一緒に踊った。

父は背が高く、踊るのにかなり苦労した。


「ああ、このリズム感の無さ……メグにそっくりだ……」


父は母を愛称でメグと呼んでいた。

笑顔だが涙を浮かべた目でそう呟く父に、私はキャサリンの真似をして頭突きをした。

だが、キャサリンのような威力は無かったので、普通に抱き着くだけになってしまった。

父は再び涙腺崩壊。私もつられてちょっとだけ泣いてしまった。


(お母様、私は今、幸せです)


心の中で呟く。まぶたの裏に、微笑む母マーガレットの顔が浮かんだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。