14 二人のドレス
私の手紙を受け取ったキャサリンは、すぐさまエリオットと共に馬を飛ばしてやって来た。
「お姉さま! お手紙読んだわ! なんて素敵なアイデアなのかしら! もちろん、喜んでやるわ!」
興奮して頬を赤くしながら話すキャサリンを、先日婚約者となったエリオットが愛おしそうに見つめている。
私は手紙で、キャサリンにある提案をしていた。
それは『お揃いのデザインのドレスを、色違いで仕立てて身に着けること。
そして、それを身に着けて、デビュタントの舞踏会に参加すること』だ。
私とキャサリンは、髪と目の色以外は瓜二つなのだ。
どう見ても血の繋がった姉妹であり、どうやっても隠しきれるものではなかった。
このまま社交界に出たら、同い年である私達は、口さがない貴族たちからどんな聞くに堪えない言葉で面白可笑しく噂されることだろう。
私はまだいい。問題はキャサリンだ。
継母とキャサリンは、私という先妻の娘を追い出し、バートン子爵家を乗っ取ったひどい親子だと言われるだろう。
そうなったら、学院で、いやこの先ずっと社交界で、肩身の狭い思いをするに違いない。
だが、私とキャサリンが仲の良いところを見せつければ。
姉である私が、跡取りのいないフォークナー伯爵家を継ぎ、妹のキャサリンがバートン子爵家の方を継ぐことにする。
両家の間にそう言った話し合いが持たれ、私とキャサリンがお互いに納得し、そうすることになった。
その証拠に、私達はこんなにも仲の良い姉妹である――
噂好きの貴族達に、下品な噂を広められる前にそう見せつけてやるのだ!
名付けて、『先手必勝! 私達、仲良し姉妹ですが何か?』だ。
もちろん、おじいさまとおばあさまにもきちんと許可は取っている。
これは、キャサリンのためだけではない。私にとっても十分に利のあることなのだと説明した。
父は、どうしても、浮気をして外に娘と同じ年の子供を作ったというレッテルを貼られるだろうが、娘達のためならかまわないと言っていたらしい。
継母に至っては、どんな風に噂をされようと自業自得なのだから自分は構わない。キャサリンを気遣ってくれて感謝すると伝えて欲しい、と言っていたそうだ。
そして、私達は、おばあさまが贔屓にしているデザイナーのマダム・ローリーにドレスを依頼した。
マダムは私達を見ると、「まあまあ! なんてことでしょう! ああ、アイデアが止まらないわ! どうしましょう!」と大興奮で、「必ずや、お二人のデビュタントにふさわしいドレスを作って見せますわ!」と言っていた。
そして、幾度かの仮縫いを経て、私達のドレスが出来上がった。
マダムのドレスは、ため息が出るほど素晴らしかった。
私達のドレスは全く同じデザインだったのだが、不思議なことにそれは、「私のために作られたドレス」であり、「キャサリンのために作られたドレス」なのだった。
それくらい、それぞれに似合った、素晴らしく美しいドレスだった。
私のドレスは純白で、ハイネックに長袖の清楚なデザイン。
首元や肩、手首までを透け感のある繊細なオーガンジーで覆っていた。
全体に小さな真珠が縫い付けてあり、動く度にキラキラと輝く様は、まるで月の光が輝いているかのよう。
胸元から切り替えられたエンパイアラインで、光沢のあるシルクが可憐さと気品を兼ね備えた、まさにデビュタントに相応しいドレスだった。
そしてキャサリンのドレスは、漆黒の神秘的なドレスだった。
私のと同じハイネックに長袖のデザインで、首元から手首までは黒いオーガンジーで覆われている。
キャサリンのドレスの方は、小さなビジューが縫い付けてあり、動きに合わせて輝く様子は、まるで夜空に瞬く星の様だった。
胸元から下は漆黒のベルベットで、キャサリンの気高く強い意志を感じさせる姿を際立たせていた。
私達はまるで白鳥の湖のオデットとオディールのようだった。
※※※
デビュタントボール当日。
私達は控室に集められていた。
今年のデビュタントの舞踏会の参加者は100人程度だと、世話係になった王宮の侍女が言った。それは例年よりかなり多い人数なのだそうだ。
デビュタントの舞踏会では、最初に決まった儀式が行われる。
まず、入口の扉の前から玉座へ向かって、国中の貴族が左右に居並ぶ中を、二列に並んだ令嬢たちがゆっくりと進んでいく。
そして、王の御前まで進むと、全員で淑女の礼をとる。
その時に、王と王妃から、デビュタントを祝う言葉がかけられる。
その後は、令嬢だけでのダンスが披露される。
二人一組でゆったりとした曲に合わせて踊るデビュタントのダンスを、華やかで可憐なドレスを身につけた令嬢達が、緊張と高揚が入り交じった表情で踊るのだ。
その初々しく、まるで蕾が開き花が咲くような様子から、「花のダンス」と呼ばれている。
デビュタントの令嬢の服装は自由だ。
各自思い思いに着飾ってやってくる。
頭に乗せる白薔薇の花冠と、手に持つ白薔薇のブーケを揃って身に着けるのだが、それは王家からの贈り物として王宮の控室で渡されることになっている。
控室で、誰が先頭で歩くのかを決める話し合いを始めてすぐに、マーガレット・スペンサー伯爵令嬢が、「私はフォークナー伯爵令嬢と、バートン子爵令嬢がふさわしいと思うのですが、皆様いかがでしょうか」と言い出した。
爵位の順に入場すると決まっている訳ではないので、毎年このように話し合いで決めるのだそうだが、今年は早めに決まって良かったと世話係がホッとしたような顔で言った。
目立ちたがる令嬢が多い年は、先頭を歩く令嬢が中々決まらず、世話係が頭を抱えることが多いのだとか。
口火を切ったマーガレット・スペンサー伯爵令嬢は、はっきりと物を言うが、おっとりとした性格の令嬢のようで、ニコニコと微笑むその姿に好感が持てる。
亡くなった母と同じ名前なのも、なんだか親しみが感じられた。
そして、ついにデビュタントの舞踏会が始まった。
大広間の大扉が左右に開かれ、中にいた貴族達の視線が一斉に注がれる。
一瞬、怯みそうになり、思わず隣に立つキャサリンを見る。
キャサリンも少し緊張していたようだったが、私の顔を見ると、ニヤッと不敵に微笑んだ。
キャサリンらしい微笑みに、思わず吹き出しそうになる。
いつの間にか、緊張はすっかり解けてなくなっていた。
私はキャサリンに向かって右手を差し出す。
キャサリンは左手でその手を取ると、真っ直ぐ前を向いた。
――さあ、舞踏会の始まりだ。
そして、私達は、ゆっくりと歩き出した。




