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13 手紙を書きます

三人とも、もうすっかり出かける元気が無くなってしまった。

応接室の片づけを他のメイドに任せ、私の部屋でお茶を飲むことにする。


「お嬢様の部屋……」


リチャードが少し落ち着かない様子で部屋を眺めている。

メイド達が常に綺麗に保っていてくれるので、見られても全然恥ずかしいところはない。


淡いブルーの壁紙の落ち着いた部屋には、可愛らしい形の家具やテーブルセットが置かれ、ふわふわと踏み心地の良い絨毯が敷き詰められている。

大きな窓からは、太陽の光がレースのカーテン越しに差し込み、部屋全体を明るくしている。

大小様々な大きさの可愛らしい動物のぬいぐるみに、リボンがあしらわれたふかふかのクッション。

極め付きは、レースの天蓋がついたお姫様が使うようなベッド。

まるで絵本の中から飛び出したような可愛らしい部屋。


――これらは全て、()()()()()()()()()()()整えられたものだ。


「お嬢様らしい、とても可愛らしい部屋ですね」

「ふふっ、そう思う?」

「はい」


(私もそう思う。いやしかし、マーカスって本当にすごい趣味だな)


私が自分で好きなように部屋を整えたとしたら、とてもじゃないけどこうはならない。

きっと地味な色合いのこざっぱりとした部屋になったことだろう。


椅子に腰かけ、改めてマリーが淹れてくれたお茶を飲む。

マリーにも一緒に座って飲むように勧め、三人で美味しいお茶を堪能する。


(あれ?)


リチャードが、しきりとマリーの方を見ている。

マリーもそれに気づいたのか、不思議そうに言った。


「リチャード様? どうかなさいましたか?」

「あ、いや、その……別に大したことではないのだけれど。ちょっと気になったことがあって……」

「なんでしょう?」

「ボールド伯爵は、マリーさんのことを好きだと言っていたけど、マリーさんは全く嬉しくなさそう、というかひどく嫌がっているように見えたから……あんなに美しく身分の高い男性から告白されて、どうして嬉しくないのかと不思議に思ったんだ」


思いがけない質問に、マリーの動きがぴしりと固まる。


(それはね、あの伯爵が、()()()()()()()()()()()だからですよ!)


とは言いたくても言えないので、私は黙って手元のカップに視線を落とす。

言葉を発しない私たちに、リチャードは、ちょっと恥ずかしそうに呟いた。


「あんな美しい男性ですら嫌われてしまうなら、俺みたいな地味な黒髪黒目の容姿で好かれるのはどれだけ大変なのかと思ってしまって……」


(ええっ!? リチャードってば、そんな卑屈なこと考えてたの?)


「何言ってるの、リチャード! あなたのその艶やかな黒髪や、真冬の星空のようにキラキラ輝く瞳は、本当に美しいわ! あなたのお父様のベルク伯爵を見てごらんなさいよ! 完璧じゃない!! 左目のホクロ以外はそっくりなんだから、リチャードもきっと将来ものすごい美男になるに違いないわ!」

「…………褒めて下さってるんでしょうけど、なんか悔しいのはどうしてでしょうか……」


リチャードが眉間に皺を寄せながら言う。

私は何か変なことを言っただろうか。


「リチャード様、どんなに素敵な方でも、初対面であんなにグイグイ来る方は女性には恐怖でしかありません」


マリーが、一般論として、無難に答えを返す。


「そうなんだ」

「そうです」

「そうよね。あの人、すごい勢いで見てて怖かったもの」


私もマリーの言葉に賛成して、うんうんと頷く。


「でも、伯爵は文通したいと言ってましたよね。マリーさん、どうするんですか?」

「そうだった! 何かそんな不穏なこと言ってた! どうするのマリー!?」

「マリーさんが嫌なら、フォークナー伯爵にお願いして、正式に断ってもらったらどうですか?」

「さすがリチャード! そうよね、その手があったわ!」

「……いえ、お手紙はきちんと出すことにします」


マリーが、覚悟を決めたように言った。


「あの方は、一度や二度断ったところで、決して諦めることはないでしょうから」


そうだった。

『囚われの天使』の中で、マリーは何度も何度も伯爵を拒み続けた。だが、伯爵は決して諦めず、ついには彼女を監禁したあげく殺害するのだ。


「あの方は、()()()()()()です。私にはわかります!」


きっぱりと言い切るマリーに、リチャードが気圧されたように「そ、そういうものなのか」と呟く。


「手紙には、『お嬢様のデビュタントの準備で忙しいため、王都のカフェに行くような時間はありません』と書くつもりです。そうすれば、少なくともあと二ヶ月は時間を稼げます」

「ああ、それはいい案ですね。その間に、落ち着いて対応策を考えられますからね……って、お嬢様、どうされました?」

「…………デビュタントのこと、すっかり忘れてた……」

「えっ!?」

「お嬢様……噓でしょう……」


デビュタント。デビュタント・ボール。

その年に学院に入学する予定の貴族の令嬢達が、初めて社交界にデビューする王家主催の華やかな舞踏会。

その日を境に、貴族の一員として認められる重要な日で、貴族の令嬢にとっては一生に一度の晴れ舞台なのだ。

そんな大事なデビュタントを忘れていたと聞いて、リチャードとマリーが驚きの声を上げた。


「そうだった、おばあさまから『どんなドレスにするか考えておいてね』って言われていたんだった」

「そうですよ、お嬢様、もうデビュタントの二ヶ月前なんですよ!? そろそろドレスを作り始める時期ではないですか!」

「そ、そうよね、そろそろデザインを決めないとね。ど、どんなドレスにしようかしら」


デビュタントを忘れてたことをごまかすために、必死にドレスの話に話題を逸らしていたところ。


(――閃いた!!)


私はとても良い案を思いついた。


「マリー、キャサリンに手紙を書くわ。すぐに届けてちょうだい」

「え? キャサリン様に手紙をですか?」

「お嬢様?」


マリーとリチャードが驚いて目を丸くしている。


「ふふっ、とても良いことを考えたの!!」

「ええ……」

「なんだか嫌な予感がする……」

「二人とも、失礼な!」


とにかく、キャサリンに手紙を書かねば。

私は両手を握りしめ、うんと大きくうなずいた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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キャサリンの飛び蹴りの笑いからぬけだせない(笑)。キャサリンの文字が出る度… 腹筋が…。
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