連絡先交換
失敗したな。下駄箱に来る前に陰浦のクラスに寄ってくるべきだった。
下駄箱に来たオレは自身の先読みの悪さを反省していた。
翁草高校の下駄箱はロッカータイプであり、クラスごとに配置が決まっている。そして、扉には名前が記載されておらず、出席番号が振られている。
つまり、一見しただけでは誰がどの下駄箱を使っているかわからないのである。
一度陰浦のクラスへ出席番号を確認しに行くか?
いや、陰浦のクラスは一年二組だったよな?日菜と言う接点がいる一組ならまだしも、瀬流津と言う接点を失った二組にオレが入ろうとすると、まだ教室に生徒がいた場合立ち往生して時間を無駄にすることになる。
この下駄箱は出席番号順つまり名前順ということだ。ならある程度当てに行くことができるか?
いやしかし、他所のクラスの下駄箱をガチャガチャと開けている姿を見られたら、一旦落ち着いた悪夢のような噂が再燃しかねない。
……どうするか。
「湾月くん、なにを帰ろうとしているのかしら?」
「え!?」
オレがどうするか悩んでいると桜ノ宮に声をかけられる。
また不意に来たな。
どうも桜ノ宮が現れるタイミングは絶妙に心臓に悪いタイミングだな。
「そこ、二組の下駄箱よね?もしかして二組のどなたかにラブレターでも送ろうとしていたのかしら?」
「んなわけねーだろ」
「まぁそうよね。連絡手段が豊富なこの時代にそんな古風なやり方普通はしないものね」
「わかってんなら誤解を招きかねないことは言わないで欲しいな、身に覚えのない噂は絶賛トラウマ中なんだ。
それと、オレは想いを伝えるときは直接言う派だ」
「そう。そんなことはどうでもいいわ。来てちょうだい」
どうでもいいって……。
「なんの用だ?」
「賢くないとはわかっていたけど、あなたの脳はニワトリ並みなのね。新しい部活の話もう忘れたのかしら?」
「ああ。藍川さんはなんだって?」
「入部してくれるそうよ。それと顧問の先生も決まったわ。だから今日から正式な部活として活動できるわ。
と言うことで、とりあえず部室に来なさい」
「へい」
思考情報部の部室は部屋の半分が物置となっている空き教室である。
そこに長机を置き、椅子を並べただけのぱっと見部室に見えない非常に簡素な部室だ。
なんでも、活動において大きな機材とかを必要としないからその教室でいいと村雨と桜ノ宮から打診したそうだ。
これも謎の部活をスムーズに通すための戦略なのだろう。
と言うか、顧問は担任の色増先生かよ。今のところ完全に一年三組による部活の私物化だろ。いいのかこれ?
「じゃあ改めて、私が思考情報部部長の村雨心和や。よろしゅう。
そして、顧問の先生は色増先生にやってもらえることになりました。拍手!」
パチパチパチ
かなり小さな拍手だ。
なんと言うか全体的にギクシャクしており、ここにいる全員がこう言った盛り上げなきゃいけない空気に慣れてない感じがする。
この部活大丈夫か?
まぁ、こいつらの居場所を用意するためだけに作られた部活だしなんでもいいか。
「じゃあ先生、卓球部見てくるね?」
「はい。ありがとうございました」
顔合わせが終わり、色増先生は早々に部室から退出していった。
色増先生、顧問やることあんまり納得してないんじゃ……。
「色増先生って卓球部の顧問なんだっけ?」
「そうよ」
「よくこの部活の顧問も引き受けてくれたな」
「色増先生、出会いがないそうだから、この部活なら人の心理が学べてよい出会いを手にできるかもしれませんよって言ったら引き受けてくれたわ」
「色増ちゃんってかわいいのに彼氏いないの!?意外……それどこ情報?」
「それは内緒よ。色増先生の個人情報に関わることだから」
なにその含みのある言い方と笑み!?
まさかそのネタ使って顧問をやるように脅したとか?……まさかな。
「活動日はどうすんだ?他の部活に参加してるやつもいるんだし、毎日ってわけにもいかねーだろ?」
「それなんやけど、毎日ってことにするわ。相談者が来た時に誰もおらんとかやと思考情報部の実績が稼げへんし。せやけど、強制やないから暇な時間にちょろっと顔を出すみたいな感じでええかなと」
「結構緩いのね!」
「そういう目的の部活やしな」
「そいつは助かる。一学期の間は部活に参加できそうにないからな」
「どうしてかしら?湾月くん、あなた帰宅部よね?誰よりも時間があるのでは?」
「もうすぐ、定期テストが始まるからな。知っての通りオレは前回の成績が惨憺たる結果だったから、勉強しないとヤバいんだよ」
それに、陰浦を夏休みまでに何とかしないといけない。
藍川や村雨には悪いが、無意味な時間を過ごすことが目に見えている思考情報部に使っている時間はない。
「ボクも勉強したいかも……高校生になって内容難しくなったし……」
「ほな、テストが終わるまでの間は女子のみで集まろか」
「ええ。構わないわよ。男子がいると話しづらいことを早めに共有とかもできるし」
「わかった!ところで、みんな連絡先とかもう交換してたりするの……?」
「「「「……」」」」
当然、オレは誰の連絡先も知らないんだが、この沈黙は……もしかして誰もお互いの連絡先知らない?
オレたち華の高校生だよな?
それが互いの連絡先を誰一人知らないって……このメンツダメだな……。
「わ、湾月くんはどうなのかしら?」
「え、オレ!?えーっと……誰の連絡先も知らないけど……」
「そう……」
「てか、湾月ってスマホ持っとるん?いつもゲームばっかでスマホ触ってへんよな?誰の連絡先も知らんのとちゃう?」
「なっ、村雨よりはアドレス帳の数多いと思うぞ」
「そ、それはわからんやろ!」
オレと村雨が連絡先の数で勝負していると、オレの袖が引っ張られる。
袖の引っ張られた方を見ると、詞が拗ねた顔でこちらを見ていた。
「ねえ、鏡夜。ボク、鏡夜の連絡先教えてもらってないんだけど」
「そ、そうだな……」
「最初ボクが連絡先聞いた時、スマホ持ってないって言って断ったよね?スマホ持ってるんじゃん。ボクと連絡先交換するのは嫌だってこと?」
「いや、あれはあの時持ってないってことで、詞と交換したくないとかそんなことは絶対にないぞ……ほんとに」
「だったらさ、その後交換しよって言ってくれればよかったじゃん!ボク我慢したんだからね!」
詞の頬がリスのように膨らんでいる。
怒ってる詞もかわいいな……。
「いや、その……すまん。指摘された通り普段から全くスマホを使わないからすっかり忘れてました」
「じゃ、じゃあ、交換してくれる?」
「もちろん!もちろん!喜んで交換させていただきます!!」
やったー!!詞の交換先だー!!
彩夜にメッセージを送りすぎて着信拒否されて以来、地図としてしか機能していなかったオレのスマホに初めて友達の連絡先が刻まれた!
今日はオレの人生における歴史的な日だ!
「ちょっと!男子二人で盛り上がらないでよ!私たちもいるんだけど?」
「おう!みんなも交換しようぜ!」
オレのスマホに村雨、桜ノ宮、藍川の連絡先も追加された!
おおー!
アドレス帳、まだ二桁には届いてないけど結構壮観だな!!
『今までよく連絡先交換って話にならなかったわね!』
ビックリした!!
トーカ戻って来てたのか!?
「まぁ、普段から使ってなかったから連想されづらかったんだろう。それに異性の連絡先を聞くのは関係値が薄いとハードルが高いからな。短期間で好感度上げることができていた恩恵だな」
連絡先はその人と関わりがあるという証明だ。
今回みたいに記憶が失われても、相手のスマホに連絡先が残っていることが不自然じゃない場合は例外だが、基本的には行わない方がいい。
今後も攻略相手と出来るだけ連絡先を交換するという事態が起こらないように外でのスマホの使用は控えた方がいいだろう。
みんなで連絡先を交換したところで今日は解散となった。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の60話です!!
今回は連絡先交換回!!
連絡手段のこと普通に忘れてました(;^ω^)
なんで忘れていたかは言わなくてもわかるよね?
次回は陰浦栞の攻略始動!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




