陰浦栞
陰浦の気絶騒動があってから、オレは一度も陰浦と接触できないままいた。
すでに一学期末テスト期間に入っており、夏休みまで時間がないにもかかわらずだ。
トーカの調査により、陰浦が毎日登校してきていることは把握している。
しかし、今まで学校のある日は毎日足を運んでいたはずの図書室に最近一度も来ていない。
こいつはやっぱ噂の影響か?
「まずいな~」
テスト期間ということもあり部活も落ち着いたことに加え、勉強会をする約束もあり、日菜の束縛がきつい。
家に帰ってくる時間が遅いともの凄く不機嫌になり、遅くまで付きっきりのためゲームをやる時間もない。
その上、勉強会はなぜかオレの家で開催されるため、彩夜まで機嫌が悪い。
極限の精神状態の中、わずかな時間を見つけてなんとか陰浦との接触を試みているというのに、徹底的に回避されるとなるとさすがにフラストレーションが溜まる。
『もういっそ一年二組に突撃したら?』
「そんなことできるわけないだろ?
陰浦栞は噂を気にしてオレに近づかなくなった可能性があるんだぞ。なのにその噂を補強するような行動を取ったら、陰浦栞はますますオレから距離を取るだろ?
それどころか今後の他の攻略も吹っ飛ぶ可能性があるわ」
『じゃあ、どうすんのよ?』
「先生たちの採点の時間なんかで、テストが終わってから夏休みまで数日ある。そこで何とかする。
日菜との勉強会がある以上、どうせテストが終わるまではまともに動けないしな。
もしダメなら……陰浦栞の性格的にかなり厳しそうだが、誰かに恋してその初恋が成就することを願うかな」
思考情報部の方は今のところ楽しそうだ。たまに詞も顔を出しているらしい。
日に日に村雨が楽しそうに話す部活動の内容が、長く濃くなっている。
多くの部活動がテスト期間ということもあり休みとなっている中、思考情報部はずっと活動状態のようで、最近はほぼ毎日みんなで部室に集まりテスト勉強もやっているそうだ。
オレも誘われたのだが、日菜との約束があるから参加できなかった。
一学期が終わってから部活に参加すると言ったんだが、馴染めるだろうか?……不安だ。
ちなみに、桔梗とは現在完全に接点が消滅している。
テスト期間に入るし、前回同様勉強会の誘いがあったりしないかな~とか、その流れで今の状況を確認出来たりしないかな~とか思っていたのだが、そんな甘くはなかった。テスト一週間前はもちろんテスト期間中も顔を合わせていない。
やはり桔梗に対しても陰浦同様こちらから接触する必要があるか。
ただな~、一組は日菜との噂もあったしあんまり近づきたくないんだよな~。
そんなことを考えているうちに早くもテスト期間最終日となってしまった。
キーンコーンカーンコーン
「そこまで!用紙を回収します。ペンを置いてください!」
テスト終了の合図とともに試験管の先生の声が教室に響き、一学期末テストが終了した。
今回のテストこそはこの学校の一員と認めてもらうためにも頑張ろうと決めていたんだが、陰浦に桔梗、思考情報部と攻略のことばかりが頭にちらつき結局勉強に集中することはできなかったな~。
それでも前回がひどすぎた分、はるかにいい結果にはなっているだろう。
でないと困る。
日菜の勉強会のスパルタ度がさらに上がりそうだし、なによりも夏休み中の溶けるほど暑い中補習とか絶対に嫌だ!
「鏡夜どうだった?」
「自信があるわけじゃないけど前回よりはな。赤点は回避できると思うぞ」
「じゃあさ、夏休みとか……会ったりできないかな?」
「お、おう」
そんな上目遣いでお願いされて断れる奴とか存在しないだろ!
そもそも断る気とか微塵もないけど!
「前に遊ぼうって約束もしたしな」
「覚えててくれたんだ!全然誘ってくれないから忘れられてるのかな~とか思ってたんだよ?」
「すまん。ちょっと忙しかったのと、その~……友達を遊びに誘ったことがなくってな……」
「そうなんだ。じゃあ、許してあげる!でも。今度は鏡夜から誘ってほしいな~」
「わかった」
オレと詞が楽しくおしゃべりしていると教室の前に櫟井と姫路が立つ。
「はーい、注目ー!一学期の期末テストも終わったし、みんなで打ち上げしよー!参加する人ー!!」
「はーい。俺っち参加でーす!」
「うちらもー!」
姫路の号令に次々に打ち上げ参加者の手が挙がる。
その中には藍川の姿もある。
まぁ、こういう集まりに必ず参加するのが藍川だしな。
「鏡夜はどうするの?」
「この後少し用事があってな。悪いが参加できそうにない」
「そっか……」
「詞は参加するんだろ?楽しんで来い!」
「うん」
「え!?湾月、こーへんの!?」
「用があるんだ、わりーな」
「えーどないしょー……」
村雨は藍川が参加するということもあり、迷っているようだ。
変わったな。
調理実習前までであれば、迷うこともなく不参加を選んでいたはずだ。
「詞も藍川さんも参加するんだ。せっかくだし参加しろよ。他の人とも仲良くなるチャンスでもあるしな」
打ち上げの決定に沸く教室に水を差さないよう、静かに教室を出ると廊下で桜ノ宮と鉢合わせる。
「あら、あなたも打ち上げに参加しないのね。まぁ、あなたがいると空気が凍ってしまうから英断と言えるわね」
否定はしないけど、面と向かって言うか普通。
すげえな、こいつ……。
「そういう桜ノ宮はどうなんだよ?ここにいるってことは打ち上げ参加しないんだろ?」
「わたしは……用事があるのよ」
「詞も村雨も藍川さんもいるんだから参加すればいいのに。特に村雨なんかは参加してほしいと思ってると思うぞ」
「用事があるって言ってるでしょ。なかったらわたしだって参加してるわよ」
「……」
「なにかしら、その憎たらしい目つきは?もしかして疑っているのかしら?」
「別に疑ってねーよ。それと憎らしい目つきは普段通りだ」
「……そうやって自虐したりもするのね」
「オレは極めて素直だからな。だから自己評価も正確にできてる」
「そんなことないと思うけれど……」
桜ノ宮と別れたオレは図書室へと向かう。
『陰浦さん来てくれるかしら』
「わざわざ図書室に来てほしい旨を書いた手紙をリスクを冒してまで陰浦栞の机に忍び込ませたんだ。来てくれないと困る」
しかし、この日陰浦は現れなかった。
その後も机や下駄箱の中に同様に手紙を入れたが、陰浦は一向に図書室に顔を出さなかった。
「にゃろ~」
『どうすんの?明日、終業式でしょ?このまま夏休みになっちゃうわよ』
「この一週間トーカに陰浦栞の調査をしてもらってわかった。どうやらオレは陰浦栞ことをちゃんと把握できていなかったようだ」
【陰浦栞】
・背が低く、体重もかなり軽い
・図書委員である文学女子(得意科目も文系に偏っているらしい)
・好きなこと:読書 苦手なこと:人間関係、運動
・人と関わることは苦手であるが、楽しそうに話しているクラスメイトのことを本で視線を隠しながら羨ましそうにチラチラ見たりと関わりたいと言う意思はあるようだ(トーカ談)
トーカが陰浦のことを調査してくれている間、オレもただ口を開けて待っていたわけではない。
以前、陰浦におすすめされた作品を全て目を通した。
『ちゃんと把握できてなかったってことは、今はできてるってことよね?』
「当然だ。陰浦は明日、必ず図書室に来るさ」
『信じるからね?』
「ああ」
陰浦は人間関係が苦手だから、あまり人と関わりたくないと思っていた。
だから、人目につかないようにコソコソと手紙を忍ばせてひたすら待つなんて遠回りの方法をしていた。
だが、陰浦が人並みの青春を望んでいるというのなら話は別だ。
覚悟しろよ、陰浦!明日はド派手にやってやるからな!!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の61話です!!
今回は陰浦栞のパーソナルインプット完了回!!
基本同じイベントである定期テストは割愛!
恋愛攻略メインでガンガン進む!!
次回は始業式!!そして鏡夜のサプライズ!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




