噛み合わない動き
──オレに関するさまざまな噂が流れた翌日。
思いの外誤情報であったと広まる速度が速く、どうやら昨日の段階で噂はほとんど収束していたらしい。
噂の広まる速さと言い、落ち着く速さとと言い、この学校の連中はゴシップ好きのようだ。
今まで攻略の際には周囲の目に用心していたが、正解だったな。あっという間に話が広がって他の奴を攻略できなくなるどころか、リセットも容易に使えなくなるところだった。
今後も気を付けよ。
『鏡夜ー!陰浦さん来てたわよ!』
「そうか」
これで陰浦に問題がないこともわかった。
よかったー!大事にならなくて。
「噂の方はどうだ?陰浦栞の耳に入ってそうか?」
『どうだろ?陰浦さん今のところ誰とも話してないし、誰も話しかけてないんだよね』
おいおい。
あんな噂の当事者かつ昨日休んだんだろ?普通、噂の真偽を確かめるやら心配するやらで話しかけられたりするもんだろ?
本当に生粋のソロ専なんだな。
「まぁ、ロクでもない噂だし変に茶化されるよりは全然いいか。トーカ、引き続き陰浦栞の調査を頼む」
『任せて!』
さて、あとは桔梗律の様子を確認しとくか。
噂は解消されつつあるし、誤解は解けてると思うのだが、避けられた理由が噂のせいとも限らん。
そうじゃなかった場合は、桔梗の初恋成就に協力するためにも早めに対処する必要がある。
オレは教室から出て、桔梗のクラスである一組へと向かう。
一組は日菜のクラスでもあり、噂の件があったばかりだから本当はあまり近づきたくないんだけどな。致し方なし。
オレが一組に近づいた時、タイミングよく桔梗が一組から出てきた。
ラッキー!!
オレは桔梗へと話しかけ──ようとしたところで、不意にグイッと手を引かれる。
<ターゲット設定完了。リセットポイントが設定されました>
「は?」
オレの手を引いた人物は桜ノ宮真姫であった。
しまった……意識が完全に桔梗の方にいってて油断した。
「ちょっと来てもらえる」
「おう……」
なんなんだろう?桜ノ宮からオレに接触してくるのは珍しいよな。
桔梗の様子を知っておきたかったんだが……。
気がかりだったオレはちらりと桔梗の方を振り返る。
「ん」
「どうかしたの?」
「いや、なんでも」
今、桔梗と目合ったよな?
嫌悪のある目には見えなかったけど……誤解は解けているんだろうか?
オレは桜ノ宮に校舎の端にある空き教室へと連れてこられた。
空き教室の中では詞と村雨もいる。
「えーっと、これどういうこと?」
「それは村雨さんから」
桜ノ宮がそう言うと村雨がこのメンツを集めたわけを話し始めた。
「前に藍川さんのことどうにかしたいってあんたに相談したやろ?
そん時あんたが、居場所を作ればええんちゃうって言うたから居場所を作ろうと思ってん」
「はあ?」
「うちの学校は五人集まれば部活が作れんねん。やから、うちら四人と藍川さんを入れて新しい部活を作ることで藍川さんが逃げられる居場所を作ろうと思ってんけど、協力してくれへん?」
なるほど。
藍川が姫路と折り合いがついてなそうことを詞と桜ノ宮にも相談したのか。
信用できそうないい人選だ。村雨も人を見る目がある。
しかし、コミュ障の村雨が藍川のためにここまで動くとは……相当藍川のこと気にかけてんだな。
「藍川さんにはもう話したのか?」
「まだやけど。四人揃えてから話そうかなって。ほんで、協力してくれるん?」
「協力するのはいいけど、なに部になんの?」
「思考情報部!」
「思考情報部?なにする部活だよ、それ?」
「人の思考パターンや行動パターンを研究して人間関係に活かす部活。また、自分たちの研究データをもとに人間関係が苦手な人の相談に乗り、人間関係の改善を促す部活や」
要はコミュニケーション能力向上と相談を担う部活ってことか……このメンツで!?
研究はぜひやった方がいいと思うが、相談に乗るとかは無理じゃねーかな?
村雨も桜ノ宮もコミュニケーションダメダメだろ。
藍川も絶賛人間関係に問題抱え中だし。
まともなのはオレと詞の男性陣だけか。
「いろいろと先生方を納得させられそうなそれらしい部活内容を決めたけれど、実際はなんでもいいのよ。目的はみんなが集まれる居場所を作ることなんだから。
その上で、目に見える実績を必要とせず、本やスマホ、パソコンなどを見ていてもとやかく言われないであろう部活が何かと考えたら思考情報部となったというわけ」
部活の概要を考えたのは桜ノ宮か。
普段大人しくしてるから真面目な奴だと思っていたけど、そこは見た目が派手な通りそんなことないんだな。こう言う小賢しいことに意外とノリノリとは。
「部活はいいのか?詞は弓道部。村雨も美術部に入ってんだろ?」
「別に美術部は忙しいわけやないし、と言うか個人プレイばっかで最近はほとんど部室に集まっとらんわ」
「詞は?」
「大丈夫だよ。弓道部、週に二回とか三回とかしかないし。それに、みんなと一緒の部活とか嬉しいし!」
詞が嬉しそうだしいっか!
思考情報部もたぶん大してやることないし!
「わかった。じゃあ、あとは藍川さんを誘うだけだな。」
「藍川さん入ってくれるやろうか?」
「別に最初断られても問題ないだろ?このメンツで部活やろうと思ってるから気が向いたら参加して!とか言っておけば本来の目的である居場所の確保にはなるんだし」
「そっか。あんたこう言うことに関しては頭回るんやな!」
新たな部活立ち上げが決まったところで、今日のところは解散となった。
藍川の勧誘や顧問の先生探しは村雨と桜ノ宮がやってくれるそうだ。
オレは再び一年一組に向かったが、すでに桔梗の姿はなかった。
「図書室に行くか」
陰浦が来てるはずだからな。
『なんかいいわね!友達のために一緒に部活を作るとか、青春って感じ!アタシも混ざりたかったな~。
きっとああいう中から恋愛に発展したりするのね!』
「オレは誰かさんのせいで何の生産性もない恋愛ゲームをさせられているんだけどな!」
『そのおかげで今のみんなと友達になれたでしょ!』
「かもな」
実際、初恋マーカーが出てなかったら村雨にも桜ノ宮にも藍川にも話しかけてなかっただろうからな。
その点だけは良しとするか。
図書室に着いたオレは首を傾げる。
図書室には人っ子一人いない。
『陰浦さん、いないわね』
「今日は登校してるはずなんだけどな」
『昨日は体調不良だったみたいだし、もしかしたら大事を取って今日は帰ったのかもね』
「そうだな。明日また出直すか」
正直、今日図書室に陰浦がいなかったのはオレとしてはかなり痛い。
そろそろ夏休みが始まる。その前には定期テストもある。さらには新しい部活の発足。
定期テストは日菜と勉強することを約束しちまってるし、新しい部活の活動頻度が不明なため今後の予定も立てづらい。
陰浦と夏休み中も会えるくらいの関係を築くためには、少しの時間も惜しいのだが……まぁ、いないものはしょうがない。
しかし、翌日も図書室に陰浦の姿はなかった。
『今日もいないわね』
「くっそ」
図書室に来る前に教室に陰浦がいないことは、トーカにお願いして確認済みだ。
と言うことは、すでに帰ったか?
「トーカ女子トイレに陰浦栞がいないか回ってきてくれないか?」
『えー。いくつあると思ってんの?それに、覗くの嫌なんだけど!』
「頼むよ、トーカ。トーカにしか頼めないことなんだ」
『もう。しょうがないなー』
「ありがと」
トーカは渋々学校中の女子トイレを確認しに行く。
覗くの嫌とか言ってたけど、あいつオレのトイレに平然と入ってきたりしてるよな。あの文句は納得いかんのだが……まぁいいか。
さて、頼むからまだ学校にいてくれよ。
陰浦の靴を確認するため、オレは下駄箱へと移動する。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の59話です!!
今回はいろいろと鏡夜の周囲に変化が現れる回!!
新たな部活を作るのは青春って感じ!
そして、ここにきてなかなか会えない陰浦栞!!
次回は一学期も終わろうというこの時期にようやく連絡先交換回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




